74 私は逃げ出すことが出来なくなった

 次に目が覚めた時、私は狭い檻の中で鎖に繋がれていた。

 そっと周囲を窺うと、近くには誰もいなかったことに安心しつつも、以前アーくんに言われたことを思い出して、急いでステータス画面を操作した。

 

 そして、目的のスキルをオンにしていた。

 オンにした瞬間、私の体は再びゴリラになっていた。

 

 私が襲われた後、アーくんは言ったのだ。

 

「もし、シズが一人の時に何かあったら、ゴリラのスキルってやつを使って下さいね。絶対ですよ?それと、姿も変えて下さいね。それが必ずシズの身を守りますから」


 そう言い聞かされたのを思い出して、私は直ぐに行動していた。

 

 ゴリラのスキルのお陰で、私のステータスはバグった数値に変わったことで、簡単に鎖と檻を壊してその場を脱出することが出来そうだと思った私は、鎖を引きちぎろうとした。

 

 だけど、それをすることは出来なかった。

 

 私がゴリラに変わった直後に、誰もいなかった部屋に数人の女性を連れた千歌子ちゃんが入ってきたのだ。

 私の姿を見た千歌子ちゃんは、一瞬表情を歪めたけど、吐き捨てるように私に言った。

 

「あんた、逃げ出そうとしたの?ふーん、そう。あんたがそのつもりなら……」


 そう言ったかと思うと、千歌子ちゃんは、一緒に部屋に入ってきた女性に冷たく言ったのだ。

 

「静弥が逃げ出そうとしないように、あんた、見せしめに死んでくれない?」


 そう言って、怯える女性の顔だけを結界で覆ったのだ。

 女性は、苦しそうに藻掻きながら何度も結界に爪を立てていたけど、爪が剥がれるだけで、結界が解けることはなかった。

 

 私はその光景に何度も声を上げていた。

 

「ウホウホ!!ウホホ!!(やめて!!もう止めて!!)」


 そんな私の叫びも虚しく、女性は口から泡を吹いて息絶えてしまったのだ。

 

 千歌子ちゃんは、横たわる女性を見て悪びれもなく言ったのだ。

 

「あぁーあ、静弥が悪いのよ?逃げようとするから?人間の姿からゴリラに戻ったことは不思議だけど、あんたがおとなしくそこで飼われるんなら、もう誰も殺さないであげる。でも、少しでも逃げようとするなら……。分かってるわね?」



 そう言って、怯える女性たちを引き連れて部屋を出て行ったのだ。

 私は、千歌子ちゃんから感じた狂気に怖くて震えることしか出来なかった。

 

 

 私は、自分の所為で誰かがまた死んでしまうのではないかと考えると、逃げ出すことが出来なかった。

 

 

 そして、閉じ込められた檻の中で千歌子ちゃんに痛めつけられながら飼われる生活が始まったのだった。

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