67 あいつが飛ばされた場所

 千歌子の口から、静弥を魔の森というところに飛ばしたと聞いた俺は、直ぐにでも追いかけようとしたが、ソウによって止められていた。


「止めんな!すぐに追わないと、しずが!」


「待て待て!!気持ちは十分わかってる!!でも、なんの準備も知識もなしに飛び出して、彼女を救えるのかよ?もし彼女が怪我してたら?病気になっていたら?弱っていたら?なんの準備もなしに追いかけても、彼女を救えるとは思えないけど?少しは冷静になれ」


 今すぐにでも飛び出したい気持ちに変わりはなかったけど、準備なしに飛び出しても、静弥を助けられないということを理解した俺は、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。

 そして、さっきから偉そうにしている神官風のおっさんに色々聞き出すことにした。

 

「おい、俺たちを救済者と呼んでたけど、なんのつもりだ?俺たちをどうするつもりだ?」


 俺がそう言って、おっさんを睨むと、一瞬怯んだような表情をした後に、見るからに冷や汗を流しながらおっさんは言った。

 

「我が、ベルディアーノ王国は大陸の孤島のような状態なのです。我が国は、大陸の東にありますが、その西側には、魔の森と呼ばれる人の踏み入れない不浄な地が広がっております。その不浄の地は、大陸を横断するように広がっていているため、まさに我が国は陸の孤島となっております。他の国に行くには、南側の海路を使う他にないのが現状です」


 おっさんの話で、静弥が飛ばされた場所が、人の踏み入ることの出来ない不浄な地と聞いて俺は頭に血が上っていた。

 千歌子とおっさんを射殺さんばかりに睨み付けて、今にでも殴りそうになっている俺を、ソウが後ろから宥めるように背中を叩いたのだ。

 今逆上しても何にもならないと、再び深呼吸をしていると、ソウがおっさんに聞いていた。

 

「なんだ?詰まるところ、俺達にその魔の森だとかいう場所をなんとかして欲しいってことなのか?」


「はい……。最近、魔の森の近くにある領地では瘴気の所為なのか、病気が蔓延しています。それに加え、不作も続いており、このままでは何れ食糧難に陥ってしまいます。藁にでも縋る思いで、古い文献を紐解き貴方様たちをこの地にお呼びしました」


「なるほど……。で、俺たちは帰れるのか?」


 ソウがおっさんに尋ねると、明らかに狼狽したように言った。

 

「そ、それは……。国を救っていただいた暁には、国を上げてその手立てをお探しいたします」


 おっさんのその慌てぶりから、帰る手立てがないということは、明らかだった。

 だけど、今はそんなことよりも一刻も早く静弥を助けるため情報を得るほうが先決だった。

 

「分かった。それで、魔の森ってのはどうやって行くんだ?それに、俺達に授けたっていう力の使い方は?」


 矢継ぎ早にそう尋ねると、おっさんはさらに脂汗を浮かべてしどろもどろにだったが、俺の聞きたいことを話したのだ。

 

 魔の森には、全力で馬を走らせても10日は掛かるということ、その他にも、魔の森の手前に森ダンジョンが広がっており、魔物の森に入るのは困難だということ。

 力の使い方は、無責任なことにおっさんは分からないと言った。

 そんなんで、どうやって国を救ってもらう気だったのかとため息が出たが、今はそんなこともどうでもよかった。

 

 ソウの機転で、ステータスウインドウを表示させてそこで自分の持っているスキルなどを確認することが出来た。使い方も、スキルを意識すれば自然と発動できた。

 ただ、元の運動能力が物を言うらしく、スキルが発動できてもコントロールが定かではない奴や、武器に振り回されている奴が殆どだった。

 幸い俺は、運動神経は良かったこともあって、問題なく動けそうだった。

 ソウも問題なさそうだと目で言っていたので、後は移動のための足と、地図と食料など旅に必要なものを揃えればいいと思っていたが、俺は出鼻をくじかれていた。

 

 おっさんから聞きたいことを聞き出した俺は、部屋を飛び出して行こうとしたが、豪奢な服と宝石に身を包んだデブっ腹のおっさんが偉そうにやって来ていったのだ。

 

「ほっほっほ。そなた達が救済者であるな?うんうん、良いぞ良いぞ。そなた達、余の国を救う栄誉を光栄におも―――」


 デブっ腹のおっさんに興味のない俺は、おっさんを押しのけるようにして、その場を後にしていた。

 後ろから、「待て!!そなた!!余の話を無視するでない!!不敬だ!!死刑だーー!!」と、うるさく言っていたがそれを無視して走り出していた。

 話を聞くついでに、おっさんの善意・・で持ち金を譲ってもらっていた俺は、それを使って旅の準備を整えるため、街に出ていた。

 おっさんの持っていた地図も善意・・で譲ってもらっていたので、後は馬と旅に必要な食料などを買うだけだと思っていたが、意外なことに後ろからソウが付いてきていたのだ。

 

「意外だな。お前が付いてくるなんて。お前なら、要領よくここでもやっていけるだろ?」


 俺が本気でそう言うと、ソウは眉を顰めて言ったのだ。

 

「おいおい、親友の恋の一大事に手を貸さないわけ無いだろうが?それに、なんとなくだけど、さっきのオウサマ、完全に愚王の風格漂ってたし、ここにいるのも危険じゃん?だったら、お前に付いていったほうが面白そうだしな?」


「はぁ。まぁ、でも助かる。お前の悪知恵を借りたほうが色々とスムーズに行きそうだしな」


「うんうん。だろ?俺がいた方が色々便利だよ?ありゃ?」


「どうした?」


「いやぁ~。後ろから追いかけてくる人物が……」


 ソウに言われた俺は、走りながら背後を振り返った。

 遠目に見て、それが千歌子だと分かったが、速度を緩める気はサラサラなかった俺は、逆にスピードを上げていた。

 後ろの方から、「克人君待って!!どうして!!私を選んでよ!!なんで静弥なの!!なんでなのよ!!」と、ヒステリックな声が聞こえたが、そんなの簡単だ。

 俺は静弥が好きで、おまけのお前なんて端から眼中にないんだからな。

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