66 あいつがいなくなった後のこと
見つめ合う二人に割って入るようにして、俺は言っていた。
「悪かったな、嫌なこと思い出させるようなこと聞いて。でも、話してくれてありがとうな」
いつになく、素直な言葉が出ていた。
言った俺自身も驚いたが、言われた方も驚いたようで、静弥は目を丸くしていた。
確かに、今まで静弥にひどい態度をとっていた自覚はある。
最初は、静弥の気を引きたかっただけだったのに、全くと言っていいほどしずの気を引けなくて、その結果意地になって意地悪なことばかりして……。
終いには、静弥に婚約者がいて、思い通りにならない苛立ちを静弥にぶつけて、最低なことをしていた自覚はある。
少しでも静弥と楽しく話したいと考えて、静弥の遊んでるゲームのことを千歌子から聞き出して始めたはいいが、それきっかけで昔のように気軽に話せるようになる計画はあっけなく失敗した。
俺がゲームを始めるのと同時に何故か千歌子も始めていて、結局千歌子が静弥にゲームのことを聞いて、楽しそうにしている静弥を遠くから見ていることしか出来なかった。
何度も、ゲームのことを話題にしようとしたけど、いつの間にかクラス中がそのゲームを遊び始めて、静弥と近づくどころか、俺の周りにはクラスの連中が集まって来て、それどころではなくなっていた。
そんな事を考えていると、静弥が眉を寄せて困ったように言った。
「別に……、かっちゃんが謝ることなんてないよ……。それに、千江府さんにはもう二度と会わないし、もういいよ」
「ああ……。そうだな。それじゃ、今度は俺の番だな。お前が飛ばされたあとの話だ」
そう言って、俺は静弥が千歌子によって、飛ばされた後の話を始めた。
◆◇◆◇
目の前で静弥が消えてしまったのを見た俺は、千歌子に詰め寄っていた。
「おい!!どういうことだよ!!しずに何をしたんだよ!!」
俺がそう言って、千歌子の胸ぐらを掴んで言うと、千歌子は態とらしく目を丸くして言ったのだ。
「あら?あのモンスターが静弥だったなんて気が付かなかったわ?」
「お前!!静弥があんな風になったのは、お前のせいなのか?それだったら許さない。しずをどこにやったんだ!」
「いや!!克人くん乱暴やめて!」
その声を聞いたクラスの連中が、慌てたように俺を止めていた。
そして、口々に言ったのだ。
「でも、急にあんな化け物が現れたら、驚くしなぁ?」
「てか、そもそも香澄静弥もこっちに来てたのか?」
「だよなぁ、あいついるのかいないのか分かんね―くらい、影薄かったし、暗かったし!!」
「あはは!!言えてる!!」
身勝手なことは分かっていても、俺以外のやつが静弥を悪く言うのが許せなかった俺は、行き場のない怒りを口にしていた。
「うるせぇーーー!!あれはしずだった!!目が合ったんだ!!姿は変わっていてもあれはしずだった!!千歌子!!しずをどこにやったんだよ!!」
そう言って、再度千歌子に掴みかかろうとしたが、それをソウに止められていた。
「カツ、落ち着け。あの子のことが大好きなのは十分分かったから。香澄千歌子、あの子をどこにやったんだ?誤魔化さずに言わないと、カツが切れて何するか分かんないぞ?それに、さっき使ってた紙は、なんなんだ?」
ソウが、そう言って千歌子を見ると、千歌子は一瞬表情を顰めた後に、予想外にも素直に話していた。
「はぁ。さっき使ったのは、ゲーム内で静弥からもらった移動用のスクロールよ。あのモンスターは、魔の森ってところに飛ばしてちゃった。でも、仕方ないでしょ?あんなモンスターが急に現れたら、身の危険を感じてどこかに追いやろうとするのは?」
クラスの連中は、千歌子の言葉に同意するように頷く姿が見えた。
口には出さなかったが、俺は違うと叫びたかった。
ゲーム内の力を授けるとか言う話の後に、あの姿になったことから、静弥のプレイスタイルは分からないが、恐らくゲーム内のアバターがああいう姿だったことが予想できた。
一緒に遊んでいた千歌子なら、少し考えれば、あれが静弥だったと分かるはずだ。
なのに、千歌子は確かめることもせずに静弥をどこかに飛ばしてしまっていた。
薄々分かっていたがここまでとは思っていなかった俺のミスだ。
昔から、千歌子は静弥に優しいようで意地悪なところがあった。
まだ俺が素直でいられた時、一度千歌子を注意したことが合った。
だけど、逆に静弥に怒られて泣かれて、嫌いと言われたけどな……。
「かっちゃんの意地悪!!どうして、千歌子ちゃんに意地悪なこと言ったの?千歌子ちゃん泣いてたよ!千歌子ちゃんに意地悪するかっちゃんなんて嫌い!!」
そんなことを言われた俺は訳が分からず混乱していた。あの時俺は、静弥にあげた、旅行土産を取り上げた千歌子に注意しただけだったのだ。
それは、静弥に買ってきた土産だからと。なのに、静弥に小さな声で何かを言った後に、静弥は俺に怒ったのだ。
今思うと、千歌子が自分の都合のいいように静弥を丸め込んでいたのだろう。
それからは、千歌子の事を迂闊に注意できなくなっていた。
それ以前に、千歌子に極力関わらないようにしようとしていた。
だけど、静弥と一緒にいたいと思うと、千歌子が漏れなく付いてくる状態では難しかったとも言えた。
下手なことは言えないと、口数が少なくなる俺をフォローと言う名の陥れで、事あるごとに千歌子は、俺の言いたかった言葉を曲解して静弥に伝えていたようで、いつしか静弥の俺を見る目は怯えを含んでいたように思えた。
その目を見ると、ついつい心にもない暴言が口をついてしまって、余計静弥を怖がさせていたのだと、今なら分かる。
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