40 私と新しいお家で食べるご飯

 家の中は必要最低限の物しか置いていない状態のため、快適とは言えないけど、ご飯を食べることは出来るようにテーブルと椅子は設置していた。

 私は、とりあえず出したダイニングテーブルに出来たての夕食を並べながら二人に改めて聞いた。

 

「えっと、ご飯が先でいいですか?それともお風呂にしますか?」


「……、今日も美味そうだな。温かいうちにいただくよ」


「はい……。僕もそれでいいです」


 二人がご飯が先でいいと言ったので、鍋の中から温かいスープをよそってテーブルに運んだ。

 私がダイニングテーブルにスープを持っていくと、二人はガランとした室内を物珍しそうに見ていた。

 まだ、家具がない状態なのであまり見ないでもらいたいけど、今日は時間がなかったから仕方ないね。

 

「はい。温かいうちに食べてくださいね」


 私がそう言うと、二人は早速今日の夕食を食べ始めた。

 夕食を食べながら、ヴェインさんが何気なく言った。

 

「驚いたよ、こんなに早く家ができてしまうなんてな」


「そうですね。半日もせずにこれほどの家が建つとは、僕も予想できませんでした」


「実は私もです。こんなに早く家が出来るとは思っていませんでした。自分でやっておいてなんですが、とても不思議な光景でついつい見入ってしまっていて、気がついたら2時間も経っていました。本当なら、家ができあがるのと並行して、お庭とかいろいろ手を入れていところだったんですけど……」


「ちょっと待て……、今なんて?」


「え?お庭の手入れとかいろいろしたかったと言ったんですけど?」


「いや、この家が2時間で建ったと言わなかったか?」


「……、やっぱり変ですよね?自分でもこれはちょっと他の人の前では使わないほうがいいスキルだと思ったんですよね。でも、とっても面白かったですよ。魔法みたいでした!早送りでひとりでに家ができていく光景は!!」


 家ができあがるまでの光景を思い出して私はついつい口元が緩んでしまっていた。

 できれば、工房を建てるときもできあがるのを側で眺めていたいよ。

 今度は、椅子とテーブルを準備してお茶をしながらがいいね。

 うん、そうしよう!

 

 私がそんなことを考えていると、ヴェインさんはポツリと言っていた。

 

「いや、それも凄いが、そうじゃないんだ。2時間という短い時間でこれほどの物ができあがることの非常識のほうが……、いや、うん。俺が頑張ればいいだけだよな……」




 こうして、その日の夕食は和やかに進んでいった。

 作り置きしていたデザートを食べながら、私は改めて二人にお礼を言った。

 

「二人のおかげで新しい人生を改めてスタートさせる勇気が出ました。本当にありがとうございます。これからも遠慮せずにご飯を食べに来てくださいね。もしよければ、お風呂も入りに来てくださいね」


 私がそう言うと、二人は眉を下げて心配そうに言った。

 

「この辺は治安が良いとは言え、本当に一人で暮らす気なのか?」


「近くに中隊本部があるとは言え、女の子の一人暮らしは心配ですよ……」


「二人共ありがとう。元の世界にいた頃から、一人で暮らしていたし大丈夫だよ?それに、二人はこれからもご飯食べに来てくれるんでしょ?」


 私がそう言うと、二人は頷いてくれた。

 うん。それなら寂しくないね。

 

「ふふふ。それなら寂しくないです。それに、まだ決めてませんけどお店も開くし、私は大丈夫です」


 私がそう言うと、二人はまだ心配そうな表情だったけど納得してくれたみたいで、私を応援してくれたんだ。

 

「分かった。でも、何かあったら直ぐに相談するんだぞ?それに、シズの作るご飯は美味いから毎日でも食いたいくらいだ。だがな、迷惑なら言ってくれな?」


「分かりました。毎日様子を見に来ますよ。兄様も言ったように、何かあったらちゃんと相談してくださいよ?小さなことでもですからね?いいですか?」


「はい。きちんと相談します。それに、毎日ご飯食べに来てくれるのはとっても嬉しいです。だから、大歓迎です」



 こうして、私の新生活は第二のマイホームを建設できたお陰で、いいスタートを切ることが出来た。

 それに、私は気が付かなかったけど、アーくんの話でここが中隊本部から近いと聞いて少し安心したこともあって、明日からの生活がより楽しみになった。

 家の片付けが終わったら、中隊本部に差し入れでも持っていこうかな?

 それに、街の中も見て回らないとね。

 そうだ、ご近所さんに引っ越し蕎麦ならぬ、引っ越しの挨拶もしないと。

 

 なんだが、異世界に来て最初は一人でいろいろあったけど、偶然ヴェインさんとアーくんと出会えたことで私の世界は広がって、美しい色彩で溢れていくのが分かった。

 

 これから先、何があってもきっと二人が側にいてくれればなんだって乗り越えられそうな気がする。

 

 そう、この時はただただ平和な時を過ごしていくものだとばかり思っていた。

 あんなことが起こってしまうだなんて、予想することなんで出来なかったよ。

 ねぇ、千歌子ちゃん……。どうしてなの……。

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