10 私と不届き者の侵入者
一人取り残された私だったけど、大事な我が家に侵入した不届き者が土足で中を荒らし回ったのでは堪らないと、我に返った。
急いで、お湯から上がってパジャマを着て不届き者を追いかけた。
追跡は簡単だった。
いつも綺麗に掃除をしている我が家が、侵入者のせいで水浸しになっていたからだ。
掃除は後だと、急いで不届き者の後を追った。
そして、リビングでとうとう不届き者に追いついた。
不届き者は、リビングで頭を抱えていた。
「うわぁぁぁ。俺は何ていうことをしてしまったんだ!」
「兄様?何があったんですか?どうしたんですか?」
「俺は俺は!!ああ、どう償ったらいいんだ!!」
「兄様?しっかりして下さい」
なんだコレ?まるでコントのような光景が広がっていた。
改めて見る不届き者は、鎧にマント姿で頭を抱えていた。濡れた髪は綺麗な金色をしていた。
それを心配そうに見ているもう一人の不届き者も、同じような鎧にマント姿だった。こちらも、同じような綺麗な金色の髪をしていた。
異世界感漂う二人の出で立ちに、一瞬感心してしまったが、今はそれよりも大事なことがあった。
「この不届き者……」
私は恨みのこもった声で、そう言っていた。
私の声が聞こえたのだろう、二人の不届き者は、一斉に私の方を向いた。
久しぶりに、他人の目にさらされた私は急に怖くなって、癖で下を向いてしまった。
もう俯かないと決めたのに、俯いてしまった自分の行動に悔しさがこみ上げたけど、染み付いた癖は一朝一夕で直るものではないのだと改めて実感していた。
悔しさから無意識に唇を噛んでいた私だったけど、兄様と呼ばれていた不届き者の次の言葉でポカンとするはめになった。
「本当に申し訳ない。可憐なお嬢さんの……、その、あの、本当に済まない。どう償えばいいのか。君が望むのなら、俺はどんな罰でも受ける」
「えっ?カレンナオジョウサン?ツグナウ?」
この人何言ってるの?何処にカレンナオジョウサンなんているのさ?目悪いの?視力が悪いのはけっこう大変なんだよね。そうだ、可哀相なこの人に視力が良くなるようにポーションを上げよう。そうしよう。
そんなことを私が考えていると、目の前にいる金髪の不届き者が不思議そうに首を傾げて言った。
「可愛らしいお嬢さん?どうしたんですか?」
「は?」
何処にカワイラシイオジョウサンが?そう思って私はキョロキョロと周囲を探したが、それらしい人物はいなかった。
まさか、この人はスピリチュアルなものでも見えているのか?
ヤバい人間が我が家に侵入したものだと、私は青くなった。
だけど、金髪の不届き者は、そんな私にお構いなしに続けて言った。
「申しわけない。そうだよな。こんなに小さくて…………、ゴホン。幼い美少女が突然現れた不審者を怖がるもの仕方ないな」
おい、あんた今一瞬、小さくてって言った後に私の胸を見なかったか?やっぱり、あの時私の無駄に脂肪のついた駄肉をガン見したのか?
そう思うと、急に不届き者に殺意が湧いた。
殺意のまま、私は金髪の不届き者に掴みかかっていた。
「このド変態!!私のこの駄肉に文句でもあるの?!ええ、ええ、私はこの駄肉に文句しかないわ!!何よ何よ!!私だって、こんな駄肉いらないし!!私だって分かってるもん。チビのくせ駄肉もりもりで!!変だって!分かってるもん!!!うわぁぁん!!!」
駄肉への溜まりに溜まったコンプレックスが爆発した私は、見ず知らずの不届き者の前で盛大に泣き出してしまった。
だって、だって!駄肉のせいで嫌な目で見られるんだもん。みんな私の胸を見てニヤニヤした顔で笑うんだもん。
仕方ないじゃない。私だってこんな脂肪いらないのに、勝手に付いちゃったんだもん!!
突然泣き出した私に、金髪の不届き者はオロオロしながらフォローにならないフォローを始めた。
「何を言っている。君はとても可愛いよ。確かに背は小さいけど、その魅力的だと思うぞ!!柔らかそうで、とても良いと思うぞ!!」
「何よそれぇぇ……。それって、遠回しにデブってディスってるしぃ。何がいいのよ。わぁぁ~~ん」
「俺は、褒めてるんだ!!」
「何処がよ!!」
「いっ、いや……。女の子にこんな事言うのは……」
「何よ。言えないってことは、やっぱりディスってるんだ……」
「怒らないって約束してくれるなら……」
「わかった……」
「じゃぁ、言うが。本気で俺はいいと思うぞ。小柄な体だけど、豊かな胸にスッキリとしたウエストがとても綺麗なラインをしていた。それに、君を見た時、一目見てとても可愛らしくて綺麗な子だと思った。君の濡れ羽色の髪や瞳を俺は、とても綺麗だと思ったよ。大きなくっきりとした瞳に、影の落ちるくらい長いまつげ。小さな顔に、小作りの顔のパーツが美しく配置されていて、丸で水の妖精のようだと俺は本気で思ったんだぞ」
今まで家族以外に褒められたことのない容姿を、嘘のように褒めちぎられた私は急に恥ずかしくなった。嘘であっても、ここまで持ち上げてくれる人なんて家族以外では初めてだったからだ。
でも、男の言葉を反芻して私はあることに気がついた。
「ちょっと待って……」
「ん?なんだ?」
「今、ウエストのラインって……」
「言ったが?」
「……、この……変態覗き魔!!!見たことを全て忘れろ!!!!!」
男の言葉で、結構見られていたことに気がついた私は本気の全力で男の脳天をかち割る気で手刀にした手を振り抜いていた。
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