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「私はここ、エルリナス公爵領のどこかに現れたであろう神の愛し子の保護を依頼されました。」

 「神の愛し子」と聞いた瞬間、カイルの耳が一瞬ピクリと動いた。

 神の愛し子? 初めて聞く名称だ・・・。カイルなら知ってるかな? 森に戻ったら聞いてみよ! ていうかここ公爵領だったんだ。確か公爵は上から2つ目に偉い地位だったとね・・・・。

 それよりやっぱりお偉いさんからの依頼かぁ。神の愛し子を見つけた時のために、向こうが愛し子をどう認識しているか聞いたほうがよさそうね。

「私はカナデです。名前は呼び捨てで構いません。こっちは私の契約獣のカイルです。私達に敬語は不要です。それとすみません。私は何もない田舎で育ったもので、神の愛し子と言われてもあまりピンとこないんです。できれば、神の愛し子とはどんな存在なのか教えていただいてもいいですか?」


「わかった。俺のこともルイでいい。敬語もいらない。神の愛し子とは、その名の通り神の寵愛を受ける者のことだ。性別は関係ないが、愛し子には共通点がある。それはこの世界の住民ではなく、桁外れの魔力を持ちたぐいまれなる知識で国を発展させることができる存在だということだ。あと、愛し子は黒目黒髪の者が多いと聞く。愛し子がいる国は、100年は安泰だといわれている。」


 奏はルイの話を聞きながら、頭がスーッと冷めていくのを感じた。

おそらく愛し子を見つけたら、国王のもとに連れていき国を発展させる道具にするということだ。私がマルティアノ王国で魔王を倒す道具にされたのと同じように…‥。この話は確実に断るべきだ。それとなぜ愛し子がこの領地内にいると確信している理由を聞いておかないと……。



「大体分かった。でもなんで愛し子がこの公爵領にいるってわかったの?」

「先ほども言ったとおり、愛し子は桁外れの魔力を持っている。そして今からちょうど1年前、この公爵領で大きな魔力の歪みがあった。その歪みはすぐ消えたからどこで起きたかはわからなかったんだ。愛し子の件は国としては一大事だ。もちろんそれなりの準備や手続きが必要だ。そうこうしているうちに俺に依頼が来るまで1年もかかってしまったんだ。」


 ルイは、すっかり冷めた紅茶を一口飲んだ。

「説明は大体終わりだ。あぁ言い忘れてたけど、数日後に俺と一緒にこの依頼を受ける奴らが3人来る。用事があって少し遅れてるんだ。カナデ、ギルド長は君のことを、『死神』という二つ名がつくほどの凄腕冒険者と言っていた。」



 『死神』・・・・。これはギルドで周りが勝手につけた二つ名だ。余談だが、戦闘時敵を一瞬で倒す戦い方が命を吸い取る死神のようだと例えられたのが最初らしい。ミレーナが興奮気味に話してくれたのは記憶に新しい。でもいくらフードで正確な性別はわからなくても、もっとかっこいい二つ名にしてほしかった‥‥‥。



「魔の森についても詳しいと聞いた。だから俺と一緒にこの依頼を受けてくれ。報酬は、成功してもしなくてもこれだけ払う。」

 そう言ってルイは指を3本立てた。これはおそらく金貨300枚を意味していると思う。この1年でお金の価値もわかってきた。

 この世界には共通の貨幣がある。銅貨、銅板、銀貨、銀板、金貨、白金の6種類だ。大体日本円で、銅貨1枚=百円、銅板1枚=千円、銀貨1枚=一万円、銀板1枚=十万円、金貨1枚=百万円、白金1枚=一千万円ぐらいだ。なのでルイは、私に3百万円払うといっているのだ。成功失敗にかかわらず…‥。

 正直、報酬だけ見ればとても魅力的だ。だけど、相手が問題だ。ルイは隠しているのだろうけれど、多分貴族だ。しぐさにところどころ気品がある。ということは後から来るルイの仲間も、貴族と関係がある人たちだ。私は、貴族と王族には絶対関わりたくない。

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