閑話2(クリスティーナ視点)

 魔王討伐に出発する前日の夜が更けたころ、クリスティーナは国王である父親の部屋を訪ねていた。

 国王は、大人が3人ほど寝ても余裕がありそうな豪華なベッドに腰かけていた。

 

「どうしたんだ? 明日はいよいよ出立だろ?」

「お父様、夜分遅くに失礼いたします。実は、大事なお話がありますの。お時間いただけますか?」

 わたくしは、声を潜めていった。そんな様子に困惑しながらもわたくしに甘いお父様は、ベッドからソファーへ移動し話を聞く体制に入った。


「実は、あの女のことですの。」

 わたくしはお父様の向かいのソファーに座ると、こう切り出した。

 

 ‟あの女‟とはもちろん奏のことである。


「何!! あの小娘に何かされたのか!」

 お父様はわたくしの言葉に驚いて尋ねたけれど、わたくしは首を振って続けた。


「いいえ。わたくしはまだ何もされていませんわ。しかしあの女は、この世界のものでない異邦人ですわ。今後何をされるかわかりませんわ。被害を受けるのがわたくしのみならよいのですが‥‥。」

「確かにお前の言うと通りだが……。あの小娘は魔王を打ち取らせるために、わざわざ異世界から召喚したのだ。平民どもにも姿は見せてないが、存在を発表してしまったしどうしたものか…。」

「そうなのです。今あの女を始末したところで奴隷平民達の反感を買い、王家の印象がるくなってしまいますわ。そこでわたくしは思いついたのです! あの女が魔王を討伐した後すぐに、あの女を殺すのですわ! それでしたら魔王と相打ちになったと発表すればよいし、奴隷平民達の反感も買いませんわ!」


 

 我ながら名案だと思いますわ! 薄汚い奴隷平民どものご機嫌取りをするのは癪ですが、あの女に魔王を倒させたいのは事実ですもの。わたくし、痛い思いをしたくありませんし仕方ありませんわ。

 お父様は一瞬悩んだ後、不意に立ち上がってクローゼットを開いた。何かを探しているみたいで、少し気になったので覗いてみた。しばらくすると探し物が見つかったのか、お父様はわたくしに向き直った。手には、無色透明の液体が入った小瓶が握られていた。

 小瓶が気になり、はしたないと思いながらも小瓶をまじまじと見ていた。すると、わたくしの視線に気づいたのか、お父様が小瓶について説明してくださった。


「これは代々王家に伝わる強力な神経毒だ。元々は人の域を超え、王家に仇なす化け物を駆除するために作られたんだ。あの小娘を殺るには丁度いいだろう。ただし、この薬は王家の直系にしか知られていない。この薬を使うときは、お前自身が小娘を殺さねばならん。」


 なんですって! このわたくし自らあの女を殺せですって!

 危うく叫びかけましたが、すんでのところで言葉を飲み込みました。でも頭の中はいまだ混乱している。


 はっ! でもこれはチャンスなのでは?キース様達もあの女を疎んでいましたわ!わたくしがあの女を殺せば、もっとわたくしに心酔するはず! やるしかありませんわ!

 わたくしはそう決意した。そしてお父様の言葉に真剣な表情でうなずき、毒の入った小瓶を受け取った。


 その夜わたくしはあの女の死に顔を想像しながら眠り、次の日、魔王討伐の旅に出た。



 


 自分の行動が、己の破滅を招くとも知らずに‥‥。





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「あぁ、やっと見つけた。じゃがせっかくわらわというのに、ここの召喚魔法に引っ張られてしまうとは、腕が落ちたのかのう。」


 あたりには何もない白い空間で、1人の美しい女性が水晶を除きながらつぶやいた。

水 晶には、部屋で眠っている奏や、先ほどの王と王女の映像が映し出されていた。もちろん音もきちんと聞こえる。



 まったく、この国の連中はクズしかおらぬのう!じゃが、魔法や戦い方を身につけられたのはうれしい誤算じゃな。はよう奏を準備をせねばな。


 そこまで考えてふと、先ほどの王と王女の会話を思い出した。そして女性は、口元に不敵な笑みを浮かべた。


 もしも奏に何かあれば、その時あ奴らをどうしてくれよう。


 そう考えながら女性は立ち上がり、どこかへ行ってしまった。

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