少したって、だんだんと先ほどの広間でのことを思い出してきた。勝手に呼ばれた怒りからか、もう2度と戻れない悲しみからか、涙が後から後からこぼれ落ちた。

 落ち着いてきたときには、外はもう真っ暗だった。あたりを見回してみると、どうもこの部屋は何年も使われていない物置のようだった。窓も、さっき私が外を確認した小さな窓が1つあるだけだった。しかも鉄格子付きの……。

 

 ふと、この部屋に連れてこられるまでの周りの様子を思い返してみた。広間で注がれた視線も廊下で受けた視線も、どちらにも嘲りや嫌悪感が含まれているように感じた。視線や今の状態からして、私が歓迎されていないことは確かだと思う。それどころか、一個人として認識されているのかも怪しい。

 


 今後どんな扱いを受けるかは何となく予想はついた。あぁでも、未知のことがこんなに怖いなんて知りたくなかった。家に帰りたい。家族に会いたい。愛犬に会いたい。友達に会いたい。どうして? なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの? 

 そんなことをぐるぐる考えながら、部屋にあった一枚の薄いシーツにくるまった。そして私は、今までに感じたことのない冷たい夜を過ごした。



「せっかくあんたの朝ご飯を持ってきてあげたのに、いつまで寝てるの!」

 次の日、私は怒鳴り声を聞いて飛び起きた。まだっはきりとしない頭で声のほうを向くと、女の人が一人立っていた。メイド服を着てるからおそらくここで働いている人だろうと。

 

「ったく。時間がないから、さっさとたべてこれにきがえな!」

 なかなか動かない私を見てメイドさんが怒鳴って、手に持っていた布とパンらしきものを私に投げてよこした。私は急いでパンを食べ始めた。正直言うと、パンはものすごく硬かった。苦戦しながらやっとのことでパンを食べ終え、メイドさんからもらった服を着た。服は、何の飾りもついていない質素なワンピースだった。

 鏡を見つけたので髪を直すためににぞいて、私は文字どうり固まってしまった。何故なら鏡の中からこちらを見返していた私は、15歳の頃の姿だったからだ。しばらく固まっていた私だが、メイドさんの怪訝そうな視線に気づきいそいそと着替えを再開した。


 私が着替え終わったのを確認したメイドさんは、「ついてきなさい」とだけ不愛想に言って部屋から出て行ってしまった。私はあわてて自分が来てた服をバックの中に入れた。昨日のことから勝手に始末されそうだと思ったからだ。そして、バックをもって急いでメイドさんを追いかけた。

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