第8話 不完全燃焼のツケ
昔に置き去りにしてきたことがたくさんある。
嫌がらせをしたこと、迷惑をかけたこと、傷つけたこと。
気持ちを伝えるのが怖くて逃げたり、飲み込んだ言葉が数えきれないほどある。
そういった記憶は『不完全燃焼』として分類してある。
いつか何処かで再会した時にどうやって燃焼させるかを、たまに引き出してはシミュレーションしている。
それと同時に「気持ちを伝えるというのが、ただの自分の独り善がりではないのか」と冷や汗をかく。
自分では良かれと思っていても、相手を不快にさせてしまうだけかもしれない。
自分の意図しないところから向き合わなければならなくなった。
電話から聞こえてくる声に懐かしさと気まずさがありながらも、それに気付かれまいと明るく振る舞う。
過去に飲み込んだ言葉は封印した。
代わりに幸せを願う言葉を贈った。
何を伝えても自己満足にしかならないのであれば、相手の今に合わせることを選んだ。
胸に残る小さな痛みは消えない。
けれど、不完全燃焼の記憶ではなくなった。
お互いの状況は離れている時間だけ変わるし、再会しても過去からやり直すことはできない。
拒絶されることもあるだろう。
他の不完全燃焼とも向き合う機会が巡ってきたら、受け入れ続けようと思えた秋晴れの午後。
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