第11話 元の世界へ

『神様、決めました。

 僕、元の世界へ戻ります。

 隕石落下後の世界で同じくらいの年齢に転生できればいいです。

 細かい条件はお任せします。』


僕がそう言うと神は

『よし、わかった。

 なあに、悪いようにはせんよ。

 おぬしはなんやかんや言って素直じゃからの。

 その世界の道理どうりさえ理解すればきっと幸せになれるぞい。』

と言い、どこからともなく水晶玉を取り出し準備を始めた。


『OK!水晶玉。

 19歳前後の男子大学生、都内一人暮らし。

 モブキャラ限定で。』

なんだか賃貸ちんたい物件を探すような感覚だ。


しばらくすると神のお眼鏡にかなう物件、もとい人物が見つかったらしい。

『よし、決めたぞ。

 わしの勝負師のかんがこいつにせいとささやいておる。

 転生させるぞ。』


勝負師の勘ってなんだよ。

心の中で久々にこの似非神えせかみめとどくづいてみるが、以前ほどの不信感はない。

この神との付き合いもそこそこ長くなり、言動ほど不真面目でないこともわかってきた。


『ではお願いします。』

僕が言うと神がこたえる。

『任せておけ。

 おぬしとの対話もなかなか楽しかったぞ。

 もし、なにか問題があったときはあと一度だけ転生させてやるぞぃ。

 その時は「もう一度だけ転生したい」と三度唱えるのじゃ。』


僕はそれを聞いて

『わかりました。

 でも、なるべくここに戻ってこずに済むよう頑張ってみるつもりです。

 今までありがとうございました。』

と言ったのだが最後まで伝わったかどうか。

言い終わるか終わらないかくらいのタイミングで僕の身体はまた光に包まれ元の世界へと転生された。



僕はワンルームマンションの一室、ベッドの上で目を覚ました。

テレビをつけてニュースをしばらく見てみると、隕石落下後から三か月ほど経っていて今は夏休みの時期らしい。

部屋の中をいろいろと調べてみる。

その結果、以下のようなことがわかった。


名前は「大井おおい けん」で都内の以前とは異なる大学の大学生。

年齢は同じ19歳で家族とは既に死別(実在したかどうかは不明だが)しており、いわゆる天涯孤独てんがいこどくの身らしい。

交友関係は不明だが、スマホの履歴を見る限り人付き合いはほとんどしてなさそうだ。

驚いたことに預金通帳には三千万を超える大金が入っていた。

ひょっとすると両親の遺産なのかもしれないが当面の間はお金の心配をせず生活できそうで、この点は神に感謝した。


一つ引っかかっているのは一度目の人生の母親のことだ。

今頃どんな風に過ごしているだろうか。

あれから三か月経っているが未だに悲しんでいないだろうか?

確かめたい気持ちはあったが、それ以上に知ることの怖さ、知ったところで何もできない状況が僕を躊躇ちゅうちょさせた。

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