EP04 オタクがみんな変態だと思うな!!?

「失礼します」

 昼休み。せいらさんが教室に入ってくると教室がざわつく。まあみんなからすれば「超礼儀正しいスーパー生徒会長」だからね。自分の教室に入ってきたら気になるのも分かる。

 おまけにその目的がこのおっぺけぺーな私なんだから余計に気になるだろうな。

「やっほー、せいらさん」

「結局昨日の宿題は間に合ったのかしら?」

「うん。ほんとせいらさんには頭が上がらないよぉ」

「頭は上げてていいからもう少し自分で頑張ってもらえると助かるわ」

 せいらさんはそう言ってニヤリと笑う。クソー、とうとう人をからかうことまで覚えてしまったか。もう友達って響きだけで赤面するようなせいらさんはいないのね! おばちゃん寂しいわ!!

「それから今日はもう一人客人が来てるわよ」

「へ?」

 せいらさんに言われて教室の入口を見ると、確かに手と足だけがドアの影から見えている。顔は見えなくともなんとなく雰囲気で誰かは分かった。

「水香ちゃーん、入っておいでよ」

「ひゃ、ひゃい!」

 声を掛けるとまるでビックリ箱の中身みたいに飛び出してきた。そしてそのままロボットみたいにがくがくしながら私の机まで歩いてくる。

「大丈夫? 私の教室まで来るの大変だったら私がそっちに行ってもいいんだよ?」

「だ、だだだ大丈夫。い、一回でいいから別のクラスに遊びに行ってみたかった、から」

 だいぶ無理してるように見えるけどなあ。まあ本人がそう言ってるなら無理にあれこれ言うこともないか。

「あ、そ、それでね、ユリちゃんたちと行きたいところがあるんだけど」

「行きたいところ?」

 恥ずかしがりやさんなのになかなか頑張るじゃないか! 感心感心。

 せいらさんみたいに買い食いしてみたいとかかな? 友達いないみたいなこと言ってたし。そういえば昨日結局せいらさんと買い食いできなかったんだよなあ。もし水香ちゃんが行きたいなら三人一緒に行けばいいか。

「私、ユリちゃんとアニストに行きたいなって」

「アニスト?」

 アニストってのは有名なアニメグッズ専門店のこと。そういえば水香ちゃんは二次元が好きなんだっけ。一番近いお店だと歩いて十五分くらいにある。帰り際に寄れる距離だな。

「私は大丈夫だけど。せいらさんはどうする? 一緒に来る?」

 せいらさんは昨日「エロマンガは好きじゃない」って言ってたし、もしかしたら二次元そのものがあんまり好きじゃないかもしれない。

「うーん。でもこれってつまり『ショッピング』ってやつでしょう?」

「え? まあ、うん」

 そんな陽キャがするようなものではないと思うけどな。広い意味で言えばまあショッピングか。

「ショッピング……とても友達らしい響きね。行くわ」

 そんな基準で決めてしまっていいのかせいらさん。そんな焦らなくても友達らしいイベントは逃げていかねえぜ……。

「じゃ、じゃあきまりってことで」

「やったぁ」

 くぅ~、守りたいこの笑顔。もうなんか尻尾を振ってる幻覚が見えるよ。わしゃわしゃしたい、すげえわしゃわしゃしたい。

「つーわけで、じゃあ放課後、校門でね」

「うん!」

 もう次の授業が始まってしまうので、水香ちゃんとせいらさんはそれぞれの教室に戻っていく。昨日今日でこの変化か。中学校生活、楽しくなりそうじゃないか。

「なんだか騒がしくなったよね」

 おっそろしく低い声の方へ目をやると、隣の席のスミレがじとっとした目をこっちに向けていた。スミレの眼付きだと睨んでるんだかやる気がないんだか分からん。

「ごめんな。最近なんか他クラスの子と偶然仲良くなる機会が多くって」

「ふぅん。あの生徒会長様と偶然ねえ」

「な、なんだよその目は」

「わいろでも送ってんじゃないの」

 こいつ私のことなんだと思ってんだ。

「生徒会長から勉強教えてもらって成績どうにかしようって魂胆でしょ。なんなら宿題も代行してもらってたり」

「そんなことないわー!! ちゃんと教えてもらって自分でやってるわー!!」

「ほら教えてもらってんじゃん」

「べ、別に教えてもらうことは悪いことでもなんでもないでしょ。仲良くなって向こうも喜んで教えてくれてるからな!!」

「喜んで教えるって、あんたいくら渡したのよ」

 こいつ、とことん私を信用してやがらねえ。私がいつそんな怪しい行動を取ったよ!! 普段ちょっと周りの女子をエロい目で見て宿題を覗き見して写し書きしてるだけだろうが!!! ……うん、充分怪しいわ。

「あ、っていうかもしかして私が最近絡んでこないから寂しくなっちゃった?」

「いや、むしろ勉強の邪魔が入らなくてスッキリしてるけど」

「じゃあなんで私にわざわざ話しかけてきたのかなー??」

「それは……」

 返答に詰まったってことは図星か!? まじかぁスミレがそんな風に私を見てたなんて。うんうん、私がかわいすぎるから仕方ないよなあ?

「もー、そんなに寂しいんじゃ仕方ないなー。今度一緒に遊びに行こうね♡」

「いや、予定があるから」

「まだ何日か言ってねえよ!!」

 スミレとそんないつものやり取りをしていると、授業開始時間ぴったりに数学の先生が教室に入ってきた。ということで私は寝ます。おやすみ。




「はあああ!!! ここなちゃんのラバストかわいいぃぃぃぃ!!!!」

 お店に着いた瞬間から水香ちゃんはテンションマックス。まあでもアニメのキャラクターって基本みんなかわいいからね。グッズがたくさんあるのを見るのは結構楽しい。

 一方、萌えキャラみたいなものに興味ないと豪語していたせいらさんはせいらさんで、一緒について歩きながら少し古めの作品のキャラを物色していた。

「へえ、『餓人の拳』とかもこういうのと一緒にあるのね」

「そうですとも!!! 餓人の拳は八十年代の胸熱アニメですからね! アニメ大国ニッポンの礎を作り上げた作品の一つとも言っても過言がありません!!! 三年前にはリメイクも登場してヒロインの叶がめちゃくちゃかわいいんですよ!」

 強い。昔の作品でもちゃんと「アニメオタク」と言うに恥じない知識量だ。

「そうなのね。でも、なんだか意外だわ」

「何がですか?」

「萌えとかそういうのが好きな人って、それ以外の絵には興味がないのかと思っていたわ」

 せいらさんは少年漫画のキャラクターが並ぶ棚を見ながらそう言った。

 確かに、だんだん市民権を得てきているとはいえ、世間では萌え=オタク、オタク=普通ではないヤバい人と思っている人もまだまだ少なくない。まあある意味では思考が普通ではないのかもしれないけど、それでもいわゆる「普通の作品」も同じように楽しんでいる人も割と多いと思う。日曜朝のゴールデンタイムを視聴しているオタクが多いのはその証拠の一つだろうな。

「もちろんそれだけが好きな人もいないことはないですけどね。基本的にはアニメもマンガも『物語』ですから、絵から入ることもあるけれど最後に一番大事なのは中身だとかキャラの関係性です。どんな絵でもかわいいキャラはかわいいし、かっこいいキャラはかっこいいんです」

 くぅ、水香ちゃん、あんたは偉いよ。オタクの鑑だよまじで。今度一番くじ一個奢るわ……。

「それじゃユリちゃん、あっちの百合アニメコーナーも行こう?」

「行く。もちろん行く」

 即答や、んなもん当たり前やろ! こちとら百合への思いだけで魔法少女になったんじゃい!! 三次元でも二次元でも百合は尊い!!

 もちろん元々百合豚をターゲットにした百合アニメも好きは好きなんだけどでも百合百合してるけど押しつけがましくはない自然な百合も好きなんだよなあ。ていうかこの店舗百合コーナー作ってくれてんの神かよ。BLコーナーはどこ行ってもあるくせに百合となるとあまりまとまって置かれていないことが多いからな。ああっ! 視界に女の子しか見えない! 和気あいあいとした女の子しか見えない! 幸せ過ぎる! さあてどの作品から物色しようかな夢色パルフェかそれともブラウニー×ブラウニーかそれとも……


 ドォオオンッッッ!


 私が百合を堪能しようとしたまさにその瞬間、店内に何かが激しく壊れるような音が響いた。おい、私の百合タイムを邪魔したやつはどいつだ百合の恨みは酷いぞ。

「ユリ! におうロ!」

 なんとなくそうだろうとは思ったよ……チクショーめが!!

「行くわよユリさん」

 悲鳴を上げながら階段へ我先にと逃げる人たちをかき分けて、さっきの音の出どころを探す。すると、レジの後ろの壁に大きく穴が開いていて、そこに巨大なマネキンのようなものがぐにゃぐにゃしながら浮いているのが確認できた。今日の相手はあいつか!!

「あ、あああ……あれが化け物……っ」

「水香ちゃんは早く逃げて!」

「私が階段まで連れていくわ」

「ボクはビルの出口までついていくロ」

 せいらさんとロー太が水香ちゃんを避難させている間、私は早々に百合妄想を始める。


 百合に限らず兄弟姉妹で関係を持ったり幼馴染といい感じになる展開は少なくない。例えばお正月に遊びに来た年下のいとこが勝手に部屋を漁って同人誌を発見されてしまう。

『あれ、お姉ちゃん、何この本』

『あ、こら! 勝手に部屋に入るなって言ったでしょ!』

『この本の子たち、何をしてるの?』

『それは』

『ねえ、お姉ちゃん?』

 わけも知らず聞いてくる無垢ないとこに、とうとう我慢ができなくなり禁断の行為に及んでしま


「よっしゃきたぁ! 変身!」

 いつも通り服が光って変形していく。黒いワンピースに白く大きいフリフリレース……ほう、今日はメイド風か。家庭的でかわいい。まあまたもマッサージ機がミスマッチだけど。

『萌エキャラハ性的ィィッ!!!』

 化け物はマネキンのような細い体を部分的に膨張させて暴れている。そんな貧弱そうな体のどこにそんなパワーがあるんだよ……。

「とりあえずは一発食らえ!!!」

 前回は何も意味がなかった音波攻撃。ダメもとで打ってみたけど今回は効くみてえじゃん? 音波にぶっ飛ばされて化け物は後ろの壁に叩きつけられた。

『胸ヲ強調! 環境型セクハラ!』

「……あ? 何やってんだこいつ」

 化け物は壁にぶつかった後、狂ったように壁を殴り始めた。頭打っておかしくなったか? いや、元々おかしいはおかしいんだけど。

 あ、もしかして今殴ってるのは壁じゃなくて壁に貼ってあった萌えキャラのポスターか。はーん? なるほど、レジの後ろに穴が開いてたのはこれのせいだな?

 にしても、今回もまた性癖が読み取りにくいな。萌えキャラが好きならもうこのお店の中に萌えキャラ溢れてるわけだし。一体こいつは何を望んでいるんだ? 二次元キャラを三次元に持ってこいってか??

「待たせたわね」

 暴れるマネキンを前にどうすべきか考えていると、既に変身を済ませたせいらさんが戻ってきた。多分水香ちゃんを逃がしたあと、人気のない非常階段辺りで服を脱いできたんだろう。ちぇっ、どうせ変身するならそのお綺麗なお身体を拝ませてくれてもいいのにさ。

「にしても、今日もきわどい格好だね」

 いわゆるマイクロビキニみたいなやつを身に纏っている。まあせいらさん、ナイスバディだし何着ても美しいんだけどね。これだけ露出多い服でももはや神秘的に見えてくるから不思議。

「そ、そんなの今は関係ないでしょう。それより」

『身体ノ線ヲ強調! 女性蔑視ィ!!!』

「あ、今度は売り場の方に!」

 マネキンの腕が急に太くなったかと思うと、反動の力で拳が飛び出して陳列棚を破壊した。上に飾ってあったフィギュアや商品が床に散乱する。

「あいつ、世界的に人気の『グリンピース』にも文句つけやがった! あれでダメならアニメ全部ダメだろぉ~?」

「今は子供向け番組すら批判する人もいると聞くわ。彼らにとっては本当に『嫌いなもの=有害』なんでしょうね」

「ニュースしか見せませんってか。通り魔事件の犯人かっての」

 そのくせBLゾーンには見向きもしない。BLだけは例外ってか。本当にご都合主義だな。もちろん、化け物にされてる子はその真逆の考えだからこの文句は黒幕の魔法使いに向かってなんだけど。

『コラボナド言語道断! 公ノ場ニ不適切!!!』

「このまま暴れ回られても厄介だし、いい加減動きを封じるわ」

「うん、お願い」

 せいらさんが細くて白い手をスッと前に伸ばすと、お尻の辺りから例の赤い布がスルスルと出てきた。そして素早くマネキンの手足に絡みつくと、最後は関節を固定して完全に動けなくした。

『グゥ、不適切ゥ、環境型セクハラァ』

「捕まえたはいいけれど。やはり何がしたいかは読み取りづらいわね」

「萌えキャラがダメ、この場に置くな、はいいんだけどさ。既に萌えキャラいっぱいあるし、ポスターだって既にあるし。これ以上どうすればいいのか」

 水香ちゃんの時みたいに偶然元に戻ってくれたりしたら良かったんだけど。布でぐるぐる巻きにしてももがくばかりで戻る気配はない。やっぱそううまくはいかないもんだな。

「うーん。どうする? しばらく置いとく?」

「ユリちゃん!」

 考えるのを諦めかけていると、階段の方から水香ちゃんの声が聞こえてきた。

「え、まだ逃げてなかったの? 早く逃げ……」

 ……って言いかけたけど、その姿を見て途中で止めた。彼女もまた、フリフリのかわいらしい「戦闘服」に着替えていたのだから。




「早く階段を下りて逃げなさい」

「せいらさんも戦うんですか?」

「もちろん。もしかしたら化け物がこっちに来るかもしれないから。早く逃げるのよ」

 ああ……せいらさんも行っちゃった。アニスト特有のR18ポスターだらけの狭い階段でこの変な妖精一人(?)と二人きり。

「さあ、早く逃げるロよ」

「ま、まって、ロー太さん」

「ロ?」

「その、悪い組織の人たちは性欲を否定してるって、言ってましたよね」

「そうロ! ヤツらは人間の性欲をねじ曲げてエロいもの全てを否定し、破壊しようとしているロ」

 エロいもの全て。ま、まあAVとかリアルなえっちには全然興味ないけど、エロマンガとかアニメのラブコメハプニングとか、そういうのが全部なくなったら私……私死んじゃうよ!!!

「ちなみにあそこにで化け物が暴れたらアニメグッズとかが破壊される可能性も……」

「大いにあるロ。というか間違いなく暴れて破壊してると思うロ」

 そんな!!! あんなに素晴らしく尊いキャラクターたちが壊されるなんて……なんて、なんて酷いやつらなの!!? 許せないよ!!!

「最近エロだけでなく二次元全般を『不適切』と言って規制しようとする輩もいるロからねぇ。今回このお店で化け物が出たのも、ヤツらがそれを狙ってやっているかもしれないロ」

 ということは今この瞬間もアニメグッズたちは脅威にさらされているんだ……。かわいいかわいいキャラクターたちには何の罪もないのに!!!

「あ、ちょっとどこに行くロ!」

「アニメグッズのとこ!」

「魔法少女でもないのに危険だロ!」

 ドォォンッッ!

「ほら、化け物が暴れてるロ! 早く逃げないと」

「愛しいキャラたちを放って逃げられないよ!」

 どのアニメの子も作品の中で一生懸命生きてるんだ。どの作品も作者様が一生懸命生み出してるんだ。それを踏みにじるようなこと……絶対に許せない!!!

「私は二次元が好きなの! 愛してるの! えっちなのもグロいのも全部全部好きなの! だから、だから破壊されてるのを見てるだけなんて、そんなこと私にはできないよ!!」

「……だったらあまりある性欲を生み出すロ」

「……え?」

 私の必死の叫びに、ロー太さんも引き留めるのはやめたみたい。この状況で性欲って言葉が出てくるのは少し違和感があるけど。

「キャラクターたちを救いたいなら、性欲を湧き立たせて魔法少女に変身するロ」

「う……性欲って言ったって、イライラしてたら妄想もできないよぉぉ」

 どのキャラのことを考えてもそのキャラのグッズが無事かどうかしか思い浮かばない……私の性癖なんて全部二次元ありきのものだし、こんな状況でエロい気持ちになれと言う方が無理だよ!!!

「うーん……こうなったら。仕方ない、奥の手ロ。水香、一瞬だけ楽にしてるロ」

「奥の手? って、ロー太さん、そこは。ちょ、ダメだって、こんなところで……」

 ロー太は私の丈の長いスカートをめくるとするりと中に入ってきた。太ももにロー太さんが触れると身体がビクッと跳ねる。ま、まさか、もしかして

「ろ、ロー太さん……ダメ!」

「ボクの本気を受けてみよロ~!!」

「あっ、あっ……」

【自主規制】

「はぁ、はぁ……」

「ほら、服が光り始めた。成功ロ!!」

「うっ……うぅ、もう私お嫁に行けないよぉ……」

「いいから! 早く変身するロ!」

 なんか色々いけないことをしちゃった気がするけど……背に腹は代えられない!! 二次元を救うためだったら初めてでもなんでも上げちゃうよ!! ……いや、そういうわけじゃないんだけど、初めてとかそういうのは大事だけど二次元を助けたいって気持ちも本当で……あーーーっ!! そんなこと考えてる場合じゃないよ!!

「へ、変身……!」

 そう一言言っただけで、途端に光ってた洋服の形が変わっていく。わぁ、本当にアニメの変身みたい!!! ……まぁ変身の方法がちょっとあれだけど。

 光に包まれた洋服は次第に一つの形にまとまってきて、やがてそれは一着のワンピースになった。

「わあ!! かわいい!!!」

「ユリが初めて変身した時よりだいぶ凝った魔法少女衣装ロね」

 ふわっとボリュームのある白いスカート、無数にちりばめられたピンクのリボン。何重にも重ねられた半透明なレースがかわいさと色っぽさを醸し出していた。

「これなら私なんでもできそうな気がする!」

「よし、とりあえずお店の中へ戻るロ。もしかしたら襲い掛かってくるかもしれないから、覚悟はして行くロよ」

「う、うん」

 アニメグッズが気がかり過ぎてお店に戻るって言い出したけど、いざ行くとなると怖いな。でも、私が守るって決めたんだもん。頑張れ私。負けるな私。

(さぁて、今度の魔法少女はどれだけ使えるロかね)

「え?」

「ロ?」

 今、ロー太さんが喋ったような……? でもロー太さんの口は今動いてなかったし……。

(こいつ、変なヤツだから使えなかったら早々に捨ててしまおうかロ)

「えっ! そんな、酷い!!」

「ロ?? ボクは何も言ってないロよ?」

 ロー太さんは少し冷や汗をかいて全力で否定する。この慌てっぷりは怪しいよね……。というかロ〇ターなのに冷や汗が出るの、どうなってるのかな。

「でも今『今度のはどれだけ使えるか』とか『使えなかったら捨てよう』とか、そう聞こえたんですけど!?」

「え、それはえっと。とにかく口には出してないロよ?」

「口に『は』?」

 とにかく怪しい。この妖精、隠し事できないタイプみたい。

「うぐっ。……こ、心の中では、ちょびーっとだけ、思ってたロ」

(なんだこいつめんどくさいロ)

「あ! 今めんどくさいって思ったでしょ!」

「ロぉぉ! 隠し事できないロ! ……というか、それが水香の能力ってことロね」

「あ、話逸らした」

「他に武器らしい武器も持ってないし、多分それで確定ロ」

 なんかいい感じに流された気がするけど……なるほど、これが私の魔法使いとしての能力なのか。他に武器らしい武器がない、ってことは私は二人みたいに攻撃に参加したりはできないんだよね……。それは正直とても寂しいし申し訳ない。

「でもそれはすごい役に立つロ。昨日も言ったように化け物は元の人間の性癖を満たすと元に戻るロ。性癖を見抜くことができたら元に戻すのがぐっと楽になるロ」

「なるほど……じゃあ、攻撃できなくても役に立てるかもしれないということですか……」

「そういうことロ。さあ、グズグズせずに早く二人の元へ行こうロ!」

「は、はい」

 背中を押されて急かされたから、階段を駆け上がってお店へと戻る。ロー太さんの言っていた通り売り場は既にぐちゃぐちゃにされていて、棚に飾ってあったフィギュアもバラバラになって床に散乱していた。

「ひどい……」

「これ以上どうすればいいのか」

 惨状を見て歩いていると、棚の向こうの方からユリちゃんの声が聞こえてきた。フィギュアさんたち、あとで直してあげるから待っててね!!

「うーん。どうする? しばらく置いとく?」

 声のした方へ行ってみるとお店の一番奥のところでユリちゃんが腕組みをして立っていた。その前にはがんじがらめになった化け物と、動かないように抑えているせいらさん。

「ユリちゃん!」

「え、まだ逃げてなかったの? 早く逃げ……」

 ユリちゃんはそう言いかけて目を丸くする。私が変身できたことに驚いてるのかな。

「大丈夫! ちゃんと魔法少女になれたよ!」

 その場でクルリと回って、証拠のフリフリドレスを広げて見せる。ほんとこのスカートかわいいなぁ。コスプレ用に一枚欲しい。

「おいおい、なんか私はよりかわいいじゃんかー。差別だ差別ー」

 かわいい? ……あ、衣装が、だよね。私、かわいいだなんて言われたことないし、実際かわいくもないし。でも、自分のことじゃなくても「かわいい」って言われるだけでなんだか照れちゃうな。

 ……ってそれどころじゃなかった。

「今何してるの?」

「ああ。一応こいつを捕まえるには捕まえたんだけど、こいつの性欲が分からないから元に戻せないんだよ」

『萌エキャラァ、許セナイィ』

 なるほど、化け物を捕まえても本人の性欲を満たさないと元には戻せないのか……ってあれ? これって私の出番なんじゃ……!

「あのねユリちゃん!! あの、私、人の気持ちが読めるの」

「……へ? 読心術とかそーゆー話?」

「そ、そうじゃなくて……魔法少女になって他人の心の中の声が聞こえるようになったの!!」

「他人の心の中、ねぇ……?」

 ユリちゃんはちょっとピンと来ていない様子で首を傾げてる。でもこのことを言葉でどう伝えていいのか分からないよ……。

(心の中の声ってどういうもんなのかね。そもそも心の中に「音」はないからそれは声っていうのかね)

 め、滅茶苦茶考えこんでるぅ……。これは説明するよりも見てもらった方がいいかもしれない……。

「と、とりあえず実際にやってみるね」

 とりあえず化け物の方を向いて、目を瞑って耳を傾ける。口からは不気味な声しか出さない化け物だけど、心を覗くとごく普通の女の子の声でその気持ちが再生された。

(ラブタイトルのあやにゃんのポートマートコラボタペストリーが欲しい!)

「えっと、ポートマートのアニメコラボタペストリーがほしい、って」

「え、この化け物が? そう言ったの?」

「うん」

 ラブタイトルと言えば日本でも屈指のアイドルものアニメ作品で、性別関係なく人気な作品の一つ。聖地巡礼などによる地域振興も行われて、コラボも公共施設から交通機関、コンビニから飲料まで幅広く展開している。

「つまり『萌えキャラが好きでそのコラボグッズがほしい』ってのが裏返って『萌えキャラは性的だからコラボするな』になったわけか」

「そうと分かればポートマートに行ってそれを仕入れてくればいいわけね」

「いや、そうはいきません」

 私が否定すると二人が不思議そうな顔をしてこっちを見る。

「え、どういうこと? ポートマートコラボなんでしょ?」

 確かにポートマートに行けば買えるはず「だった」。でも、品数限定であることともう一つ、大きな問題があったんだよね……。

「ポートマートの『ラブタイトル 桜バレンタイン2020』は批判によって二日で中止になっちゃったの」

「中止? そんなにエロかったの?」

「そんなことはないよ! だってラブタイトルは青春が一番のテーマでエロなんかは全く売りじゃないし、だからこそ女性ファンも多いの。コラボのイラストもただキャラたちがチョコを作ってるもので全然えっちな要素はなかったの。それなのに『顔についたチョコレートが性的』とか『いやらしい顔をしている』とか『胸と股間に影をつけて強調してる』、『公共の場には不適切だ』とか言って変な人たちが電話で抗議して潰されちゃったの」

 本当にどれもこれも訳が分からない。どう考えてもラブタイトルは全年齢対象のコンテンツだし、エロハプニングすら一つも起こらない。絵だって普通のアニメ塗りだからこれがダメだって言われたら全てのアニメが「公共の場には不適切」になっちゃう。……実際、あの人たちはそれを望んでるのかもしれないけど。

「つまり、この人は馬鹿に楽しみを奪われた挙句、悪いヤツに操られてその馬鹿と同じことをさせられたのか。可哀相だな……」

「それはともかくどうするの? 現物がないんじゃ性欲を満たすことができないんじゃないかしら」

 せいらさんが話を元に戻す。確かに、今お店に行っても買うことはできない。それは変えようのない事実。

 ……でも、私には実はアテがあった。

「実は私、初日に行ってゲットできたんだよね」

「なんだよ、だったら早く言えやー」

「ご、ごめん」

 なんだかラブタイトルの話で感情が盛り上がってしまって話すタイミングを見失っちゃってたから……。隠してたわけじゃないんだけど。

「じゃあ水香さん、それを取ってきてもらえるかしら」

「はい! すぐに!」

 早く化け物を元に戻すために、お店を出て階段を全段飛ばしで急いで駆け下る。

 ……ん? 全段飛ばし?

「って何これ! 軽い!」

 まるで飛ぶように移動できる。というか飛んでる! これならそう時間を掛けずに家へ往復できそう!! 最後のひとっ飛びを着地して、そこからは地面を思い切り蹴ってビルとビルの間を自由自在に飛び回った。風を切って空を飛ぶなんて、滅茶苦茶気持ちいい!!

 家に向かって跳躍で移動している間、たくさんのパトカーとすれ違った。……そっか、なんとなく「魔法少女になって事件解決だ!」って動いてたけど、これってもしかして意外にすごいことなんじゃ……? そう思ったらなんか途端に緊張してきた……。でも水香はやる時はやる子なんだから……みんなに褒めてもらえるように頑張って見せる!!

 ガッッ。

「いっっっっ」

 たぁぁぁぁぁいっっ! ビルの看板の角に頭ぶつけたっっ!魔法少女になってまでどんくさいなんて悲しいよぉ! 家に着くまで泣きながら飛んでたなんて誰にも言わないもん!!!!




 私たちは今日もまた警察署にいた。

「す、すごい人だったね、玄関の前」

 連続怪人暴走事件のおかげで警視庁三ノ輪橋署は一躍全国にその名を知られ、今まさにマスコミが押し寄せている。もちろん、まったく嬉しくないけどね。

「昨日の被害者数がとんでもなかったからな。関心が向くのは当然だな」

 流石に人が亡くなったとなればマスコミが黙っているわけがなかった。今回は転んで怪我した人しかいなかったようだけど、それでも「連続ナントカ事件」って響きが好きなんだろう。

「……どうやら終わったみたいね」

 昨日と同じように聴取を終えた警察官たちが救護室からぞろぞろと出てくる。この顔ぶれもそろそろ覚えちゃいそうだ。そして最後に純さんが出てきて扉を閉めた。

「どうだった?」

「案の定、何も覚えていないらしいよ。お店に入ったところまでは覚えてるけどそのあとの記憶はないって」

「またもや進展なし、か」

 前回も今回も私たちが警察の人以上に聞き出せた情報は何一つなく、水香ちゃんと仲良くなったこと以外は何の収穫を得られていない。事件自体はもうこれで四件目。ここまで悪の魔法使いそのものの情報が掴めないとなると、このまま悠長に化け物退治をしていればいるわけにもいかなくなってくる。

「目撃情報とかは?」

「一応店内にいた人たちにはほぼ話を聞いたけど、心当たりがある人はいなかった。そもそも店内は狭くて死角も多いし、階段の踊り場なんかは防犯カメラもなかったからあの子を操るのは容易だったと思う」

 だろうな。あの手の店では万引きも多いって言うし、犯行自体は簡単だってわけだ。

「でも、流石に犯人の特徴で一つはっきりしたことがあるわね」

「え、ななな、なんですか、その特徴って」

「犯人はうちの学校の教員か生徒だってことよ」

 確かにせいらさんの言うことは一理ある。化け物にされた子たちはいずれもうちの学校の制服を着ていた。今回もそう。四回連続でたまたまってわけはないだろうし。同級生か顔見知りの先生なら彼女らに近付きやすい。

「でも、南荒川学園に何らかの恨みがある人物の可能性も拭い切れないよ?」

「だとしたらば学校で化け物を暴れさせればいいだけです。それをしないということは少なくとも『学校で暴れられると不都合がある』もしくは『暴れさせることができない理由がある』ということです」

「で、でで、でも、もし学校関係の人じゃなかったら、学校に入ったら身バレしちゃうんじゃ。学校で化け物にするってことは学校に入らなきゃいけないから」

 確かに、「部外者だ」ということと「学校で暴れさせられない」というせいらさんの推測は矛盾しない。「できないからしない」というのであれば部外者が犯人である線を消すことはできないわけだ。でも、せいらさんはそれに焦る様子はなかった。

「私も今日までそう思ってたわ。でもね、前回と今日、二回続けて『店内で』化け物が出たのよ。おかしいと思わない? わざわざ人の多いところで犯人が接触するかしら。店内には防犯カメラも多いし、前回と今回のお店の防犯カメラを見比べて同じ人物を見つけるだけの簡単な捜査になるでしょう。でももちろんそんな捜査じゃ……?」

 せいらさんが純さんにアイコンタクトを送ると、純さんが説明を引き継いだ。

「見つからなかったよ、同一人物。中学高校生のしかも女の子なんて数えるほどしかいなかったから、見逃しもないと思う」

 店内に犯人はいなかった。でも化け物は店内に出現した。それが示すところはつまり……。

「つまり、化け物にする魔法のようなものをかけられてもしばらくは化け物にしないでおくこともできるということよ。犯人は安全なところから化け物の起爆スイッチを押すことができるの」

「つまり、学校で暴れさせたきゃわざわざ校内に侵入する必要はないというわけだね」

 純さんが補足すると、せいらさんは静かに頷いた。

「だ、だから犯人は先生か生徒、なんですね」

「よし、捜査室に南荒川学園を重点的にマークするように伝えておくよ」

 既にこの下町の警察署員総動員でパトロールしてるけど、これ以上人員割けるのかね? ここに限らず通りから見ると割と小さい建物に見えるのに中に入ると結構広いよね、警察署って。

「それじゃあとりあえず今日は帰ろうか。……そこから無事に出られればの話だけど」

「落ち着くまで僕がついていってあげるよ。残念ながらここ、駐車場から出ても正面玄関通らないと出られないからね」

 純さんに言われて、受付の横を通り過ぎて玄関に向かう。玄関はガラス張りなので待機してるマスコミがよーく見える。こうして見ると本当にすごい人だかりだな。脚立に三脚にビデオカメラに一眼レフ。よく鉄道マニアのマナーが悪いとか言って叩かれてるけどこれの比じゃないなあ。

「足元段差あるから気を付けてね」

 自動ドアが開くと一斉に人の目がこちに注がれる。特に引っ込み思案な水香ちゃんとかはつらいだろうなあこれ。とにかく、集まってくる前にさっさと抜け……

「あの、もしかして事件に関係ある方ですかあ?」

 突然、階段に座り込んでいた人が立ちあがって声を掛けてくる。……ちっ、きやがったか。それを皮切りにあちらこちらから質問が飛んでくる。

「現場の様子はどんな感じでしたかあ!」

「もしかして『協力者』ってあなた方のことですか! 現場にいた人から『不思議な少女』という証言が出ています! あなた方のことですよね!!!」

「『人知を超えた力』という報道についてもっと詳しくご存じではないですか!!」

「え……っと」

「ユリちゃん、答えちゃダメ」

「おい! 今口止めしただろ!! 都合の悪いことでもあんのか!!!」

 純さんが一瞬、後ろの私に向かって喋っただけでその場は上を下への大騒ぎになった。質問の数は増してくるし、とうとう道の向こう側にいた人たちまで寄ってくる始末だ。

 一応警察からはさっき記者が言ってたように「人智を超えた力」によって引き起こされた事件であり、事件解決のために外部の「協力者」と捜査をしていることは公式に発表されている。でもまさかその協力者が少女であることまでバレてるなんて、これはいよいよ帰してくれなさそうだ。

「警察のずさんな捜査を隠すためだという話もありますが!!!」

「犯人はいずれも中学生の少女だという目撃情報が!!」

「痛い! 足踏まないで!!」

 あーあー、遂にマスコミ同士でいがみ合いを始めた。収集がつかない。

「どいて! どいてください! 通ります!」

 純さんが必死に道を開けてくれようとするけど、カメラやマイクは容赦なく突っ込まれる。ニュースとかで有名人がこうなってるのを何度か見たことあるけど、まさか自分がこうなるとはねぇ……。

「いたっ」

「水香? 大丈夫か!」

 私のすぐ後ろ、水香が小さく悲鳴を上げたので振り返ると、どうやら突き出されたビデオカメラに頭がぶつかったようだった。

「怪我はないか? ……ってちょっと! かがんでんだから押すな!!」

「アニメグッズのお店で事件が起きたってことは犯人はまたアニメオタクなんでしょうか!!」

「もしかしてあなたたちが犯人なんじゃないのー?」

「なんとか言いなさいよ!!! ええっ?」

 嘘だろ。しゃがみこんで動けない人がいるのに押してくるか普通。こいつら、常識がない。自分のことしか考えてない。いよいよ本当に危ないぞこれ……。

 プーッッ! プップーッッッ!

 道に車が通りがかってクラクション鳴らしてるのに誰も避けようとしねぇ!! 警察署の前だぞここ!! なんでそんなバカみたいなことができるんだよ!? マスコミってある程度重要な仕事だろ、なんでお前らみたいな考えなしがやってんだよ!! ぐ、まずい……まじで潰され……

「いい加減に」

 ……え?

「しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「……」

「……」

 とんでもない声で叫んだのはなんと純さんだった。あまりの大声に一瞬で場が鎮まる。

「……まずてめえら。車が来てんだろ見えねえのか。どけ」

 口から炎でも吐くんじゃないかって感じのとんでもない剣幕で道を塞ぐ馬鹿どもに指示をする。当然そもそも交通違反である上に純さんがめちゃくちゃ怖いのもあって、奴らはすぐに左右へと避けて車は走り去った。

「それから反対側にいるお前ら、そこ誰んちだか分かってんのか。道じゃねえぞそこ。場合によっては不法侵入に問われるしそもそもここ交通量ある生活道路なのは見て分かんだろさっさとどけ」

 そう言われて、誰かの家の庭に陣取っていた奴らも焦ってそそくさと退散の準備を始めた。

「……それからお前ら。何一般人に詰め寄ってんだよ。ただの女子中学生だぞ。しかも階段のすぐ下でうずくまってんのに突進すりゃどうなるかくらい分かるだろうが!!!! 分かんねえヤツはさっさと家に帰れ!!! 一丁前にカメラかつぐ前に小学校からやり直せ馬鹿が。こっちは最大限気ぃ使ってやってんのにその結果がこれかクソが!!! マスコミ様だからってなんでもしていいと思うなよ。今のだって立派な違法行為だ、後ろから押したヤツは暴行罪、僕の進路を妨害したヤツは公務執行妨害だ。次からは本気で全員拘留するからな」

 巻き舌気味にそうまくしたてた。純さんは普段温厚だけど怒るとこんな感じだ。こえ~~~。

 でも何から何まで正論しか言ってないし、ほとんどの奴らはこれ以上詰め寄ってこようとはしない様子だ。

「お、おい、取材拒否ってことか? 報道の自由があるんだぞこっちは!」

 ……やっと帰れるかと思ったら、泣いてるみてえな声で火に油を注いでくるヤツが出てきた。もういい加減帰らせてくれって。

「……報道の自由だ? てめえ自由ってなんだか知ってるか? 言論の自由、表現の自由、思想信条の自由色々あるけどよ、てめえに一ついいこと教えてやる。自由とか権利っつーのは『公共の福祉に反しない限り』認められてんだよ。つまりてめーらがこの子たちを危険な目に遭わせたり違法行為をしたりしてる時点でてめえらにその権利はとっくにねえんだよこれ中学校の公民の範囲!!! たまにてめえらマスコミの違法行為を黙ってみてる警官もいるだろうがそれは面倒だからだよ、てめえらが特権持ってるわけじゃねえ、その気になればお前ら全員犯罪者だからな!!! よく胸に刻んどけ!!! 分かったらいい加減その減らず口にチャックして家帰って宿題でもしてろボケ!!!!」

 純さんの追い打ちで馬鹿一人も黙ったところで、やっとのこと警察署前を抜けることができた。まったく、もっと自分の仕事に責任を持ってほしいね、今の時代は特に。

「ごめんね、変なところ見せちゃって」

「いえ、全然! というか、逆にかっこよかったです」

 私が純さんと仲がいいのも、実はこういう兄貴みたいな性分が私と合ってるからだと思う。そんなこと言ったら純さん泣くだろうけど。すまん純さん。

「また何かあったらいつでも言ってよね」

「うん。頼りにしてるよ、純さん」

 住宅街の近くまで来たところでそれぞれ分かれて家路についた。明日はどんな化け物が出てくるのか。犯人の尾は掴めるのか。不安しかないけど、ま、とりあえず百合の妄想をしてゆっくり寝るか。百合が不足したら戦はできんっていうしな。難しいことは明日明日……。


 ……あ、そういえば結局今日グッズ買えてない。

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