魔法少女が変態で何が悪い!!!!

前花しずく

EP01 変態魔法少女爆誕☆

 花が揺れるようないい匂い。きゃっきゃうふふ、というかわいらしいやり取り。何より視界に収まらないくらいの肌色の量!

 そう、ここは女子更衣室。ヘヴンだ! 楽園だ!!

「ユリ、また何か変なこと考えてるんじゃないよね」

 好みの女子を物色しているとスミレが呆れたような目で見てくる。そんな目で私を見るなよ。まるで私が変態みたいじゃないか。

 申し遅れたけども、もちろん私は女子更衣室を恐る恐る覗いて捕まる中年おっさんではない。堂々とその中に入っている。完膚なきまでに紛れもない正真正銘の女子中学生だ。おいこらゴリラ女子って言ったやつ誰だ……あ、あの下着かわいい。

「変なことなんて考えるわけないじゃん。ただパンツに収まりきらなくて少しあまったお尻のお肉をぷにぷにしたいなって思ってるだけでちょっと私の体操着の紐抜こうとしないでスミレさん」

「変なことしか考えてないじゃんよ馬鹿者が」

「は! そうだった。私ったら何をやってんの最悪じゃん。私、馬鹿だった」

「やっと気付いたの?」

「こんなに最高の百合天国なのに私がその間に入るなんて言語道断だよね!! 私が間違ってた!! ちゃんと第三者として尊い百合を眺め崇めたたえ

「そい」ずぼっ。

「うわああああ! ジャージのゴム紐全部抜きやがって!!!! このあと体育だよっ!??? 体育教師あの体罰常習犯の脳筋野郎だよっ? 馬鹿なのっ!????」

「そんなに尻が見たきゃ自分の尻でも眺めてなよ」

 辛辣すぎるよ! 自分の尻なんて眺めて何が楽しいんだよ! スミレの意地悪! 鬼! ちょっと目がぱっちりしててサラサラの髪の毛でいつもいい匂いして制服がめちゃくちゃ似合ってどんな下着でもえっちく見える体型してるからって調子乗るなよ!

 くそ、ジャージの紐を中に通すのまじで時間かかるんだからさぁ。もうすぐ授業始まっちゃうじゃん!

「まあ、せいぜい手で落ちないようにおさえながら体育頑張んなよ」

 スミレは悪びれもなくそう言い残すと、紐だけ置いて更衣室を出て行った。この野郎覚えてろよ! あとですごいことしてやるからな!! お嫁に行けないくらいあんなことやこんなことやってやるからなあああああ!!!



 

「ははは、傑作だったねえ」

「何が傑作じゃボケ」

 結局あのあと準備が間に合うわけもなく、あの脳筋教師にキレられる羽目になった。チクショーこいつまじで許さねえ。

「だってさ、ズボン必死に落ちないようにしながら怒られてんだもん笑うでしょ。しかも途中半ケツぶふぉっ」

「思い出し笑いするな……それ以上笑うならお前を今夜のおかずに」

「じゃあ私こっちだから、ばいばい」

「あ、こら逃げんな」

 クソ、逃げ足だけは早いんだよなアイツ。仕方ない、一人で道中の女生徒を観察するか。

 幸いなことにうちは女子中学だからうちの学校の生徒は女子しかいない。二人以上で群れてるうちの生徒がいたら問答無用で観察対象だ。

 とかなんとか言ってたらおおっ、早速いい感じのカップルがいるじゃないか! 地味目なメガネの子とバスケでもやってそうな髪の短い元気系の子! この対照的にも思える二人が集団の中でなんとなく一緒にいるとかそういうのじゃなく二人きりで帰り道を歩いているのが実にいい!!

『私、実はAちゃんの前でしか本当の自分を出せないの』

『奇遇だな、うちもなんだ。なんというか、B子と一緒にいると落ち着くんだよ』

『ほ、ほんと? じゃあ今からかに玉チャーハンを作りにAちゃんのおうちに行っていい?』

『い、いきなり家?』

『さ、さすがにまずかったかな』

『いや! そんなことない! うちはB子とできるだけ長く一緒にいたい!』

『Aちゃん!』

『B子!!』

 とかなんとか言っちゃってさ!

「くぅぅぅああああ! 萌える! すごく萌える!」

 同じ属性同士ではカップリングは成立しない! 「ねえ」もちろんこれは三人組以上の群れにも「おーい」言えることで、百合カップリングを考えるときにはその立場のギャップを

「聞け」

「ぐふっ」

 おいこら誰だこの超絶美少女のくびれた華奢な腹にグーパン叩きこみやがった馬鹿はよおい。「ってあれ、純さん」

「やっと返事してくれたね」

 いや腹パンキメといてそんな爽やかな微笑みされても。てか少しは加減しろよ、昼に食べた焼きそばと野菜ジュース全部ぶちまけそう。

 純さんは私の年の離れた幼馴染で、近所なだけあって登下校中に会うことは割とよくある。

「にしても、そのかっこで人殴ったらまずいんじゃないの?」

 純さんは今警察の制服すがた。背も低いしコスプレとか中二的な何かに見えるけど、実はれっきとした本職なのである。

「まあユリちゃんならいいかなって」

 私にはどうやら人権がないらしい。

「それよりユリちゃんさ、こんなこと聞くのもあれなんだけど」

「別に今生理じゃないよ」

「そ、そんなこと誰も聞いてないよ!」

 なんだ、言い方的に聞きにくいことっぽいからてっきり安全日を知りたいのかと。

「そうじゃなくて。学校でなんというか、気になる生徒はいない?」

「いっぱいいるよ。同じクラスのヒカルちゃんはおなか周りがすべすべで抱き着きたくなっちゃうし隣のクラスの清澄さんは切りそろえられた真っ黒な前髪のにおいを嗅ぎたくほげっ」

 幻覚かな。現職警官にヘッドロックされて首がしっかり締まった気がする。

「そうじゃないからね」

 だから行動と表情があってないんだよ爽やかゴリラ。

「悪いことをしそうだ、とか問題行動をたくさん起こしてる、とかそういうことだよ」

 ああ、気になるってそっちか。

「何? 万引きでもあったの?」

「いや、それが」

 純さんの表情が目に見えて曇る。なんだ? なんかやべー事件でもあったのかな。

「あんまり口外しちゃダメなんだけどね」

「じゃあいいや」

「実はそこで、って、えぇっ」

「いや、だって口外しちゃいけないんでしょ?」

「そうなんだけどさ、でも今の言う流れだったじゃん」

 流れって。警察内のルールよりその場の雰囲気を優先するなんて、この人やっぱり警官に向いてないんじゃなかろうか。

「で、何があったって?」

「そこの商店街で連続通り魔が発生してるんだよ」

「連続通り魔」

 そんなのテレビでしか聞いたことがない。そもそも、通り魔って実在するんだ。アニメやドラマではよく聞くけど。なにそれ、そんなん滅茶苦茶こわいじゃん。

「犯人捕まってないの?」

「そうなんだよ。しかも捜査をしている間にもどんどん被害が広がってて、この一週間でもう九人が被害に遭ってる」

 どおりでここんとここのあたりを巡回してる警察の人が多いわけだ。にしても、捜査をしてるまさにその真ん中で犯行に及ぶなんて、大胆なのか何なのか。

「それで、その犯人がうちの制服を着てたってわけね」

「え、なんで分かったの?」

「いや分かるでしょ、話の流れから」

「そんな、ユリちゃんのことだから冒頭に話したことなんて頭からどんどんこぼれ落ちているのかと」

 あんたは私のことをなんだと思っているんだ。

「にしても、学校が分かってももう少し具体的な情報がないとなあ。そもそも犯罪者とはいえ校内では普通の生徒を演じてるだろうし」

「それが、情報があると言えばあるんだけど」

「どんな?」

 さっきと同じようにペラペラと喋ってくれるかと思いきや、純さんはもじもじして言いにくそうにしている。

「そんな重要機密なの?」

「これに関してはそういうわけじゃなくて」

 機密じゃないにしてはいやに周りをきょろきょろ見渡して、誰もいないのを確認してから私に耳打ちし始めた。

「確かに通り魔は通り魔なんだけど、決まって買い物袋を狙ってくるらしいの」

「買い物袋?」

 抵抗できないよう手を狙うとかなら分かるけど、袋を狙うって何事なんだろうか。

「それで腕を怪我した被害者もいるんだけど、袋を落とすとそのあとは被害者じゃなくその袋の中身を切りつけるんだって」

「袋の中身?」

 ますます分からない。袋の中から何かを探し出して目当てのものを持ち去るスリみたいなものでもないわけか。

「おまけにその『切り付けられるもの』はある特定のものなんだよ」

「特定のもの?」

 その人を恨んでるとかなら財布とか通帳とかかな。場合によってはビニール袋にそのまま入れちゃう人も多いだろうし。

「それが、ソーセージとウインナーなの」

「は?」

 多分十四年生きてきて一番綺麗な「は?」が口から出た。

 ソーセージとウインナー?? 愉快犯にしても意味が分からなすぎでしょ。

「あともう一つ、犯人は妙なことを口にするらしいんだよね」

「妙なこと」

「『ダイコンは滅ぶべき』って言うんだって」

「はああ???」

 はい出ました、人生で二番目に綺麗な「はああ?」です。特に首の角度と「は」の発音に入るまでのタメが良かったですねえ。芸術点、総合点共に文句なしの満点です!

 ……じゃなくて、ダイコンへの恨み節を呟きながらソーセージ切り刻むってまじ何の宗教だよ。もはや必要なのは警察じゃなく救急車なんじゃないかと思っちゃうよ。脳梗塞になると言動がおかしくなるらしいからね。

「しかもこの世のものとは思えないような、しゃがれた声で言うんだって」

「へえ。どんな声なのか真似してみてよ」

『ダ、コン、滅ブ、ベキィ』

「おー。なかなか迫真の演技じゃない。リアリティあったよ」

「いや、今僕は何も言ってないよ?」

「へ? だって今ダイコン滅ぶべきって」

『滅ブベキィッッ!!!!』

「「うわああああああああああ!!!?????」」

 まってまってまって、通り魔とかいう人生で九十九パーセントの人が出会わないであろうとんでもないヤツが背後にいるなんて聞いてない! しかも全力疾走してんのにフツーに距離詰めてきてるしどうなってんだよまじで!!!

『滅ベェエエッ!』

「ひいいいいっっっっ!!!!」

 まじで声こわいって!! お化け屋敷にいる大入道の声の四十七倍こわい!!!

「っていうか純さん犯人捕まえないと!! 警察でしょ!!!」

「だって怖すぎるでしょあんなやつ! 犯人と言うよりかちょっとした怪物だよ!!!」

 とか言ってる場合じゃない! あいつカッターナイフを本気で構えてやがる!!

「純さん! くる!」

「へっ?」

 直後、そいつは目にも止まらぬスピードで純さんの懐に入り込む。避けようと身体をねじった甲斐もなく、カッターの刃は純さんの腰を切りつけていた。ベルトが千切れて銃や警棒と共にアスファルトに激突する。

「純さん! 早くこっちへ!」

 一瞬恐怖で固まっていた純さんだったけど、私の声で我に返ってダッシュで通り魔から距離を取った。

 あいつ、確かに恰好こそうちの学校の制服だけどどこにも「女の子」要素が見当たらないよ! というかもはや人間卒業しちゃってるよ!!

「純さん、怪我は?」

「少し切られたみたいだけどこのくらいどうってことない。それより」

 純さんは険しい顔で通り魔の方を向き直す。

「拳銃だけでもあいつから引き離さないとまずいことになる」

 ベルトには警官が持つほとんどの道具が固定されている。確かにそれを犯罪者の手に渡すのはまずい。純さんはタイミングを見て奪い返そうとじりじりと通り魔に近寄っていく。純さんが手を伸ばそうとしたその瞬間、そいつは再びカッターを構えた。

「また来る!」

 純さんは私の声に咄嗟に飛びのく。

 しかし、通り魔は私や純さんの方へは来なかった。それどころか奇声を上げながらベルトについた警棒だけをひたすら切り刻み始めたのだ。警棒はみるみるうちにちくわのように切られていく。

「助かった、のかな」

「いや、ちょっとまって」

 犯人はこっちに向かってこないようだし、ひとまず安心かと思ったんだけど、純さんは対照的に深刻な顔をしていた。

「おかしい」

「何が?」

「警棒っていうのは当然は人を捕まえたりするのに使うものだから、それなりの強度があるものなんだよ。それを筆箱に入ってるみたいなカッターナイフで簡単に切れると思う?」

 言われてみればそうだ。あんなにいとも簡単にスパスパ切ってるからそういうものだと錯覚していたけど、そもそもカッターは立体固形物を切るような道具じゃない。たとえ工具箱に入ってるでかいカッターでさえ段ボールを切るのが精々でしょ。

「ってことは何、あいつは」

「正真正銘の怪物、ってこと?」

「ぴんぽんぴんぽーん! 大正解だロ!」

「「は?」」

 あまりにもこの状況に似つかわしくないウザい声が聞こえたので、二人して呆けた声を上げてしまった。しかし、あたりを見渡しても誰もいない。

「あいつは人間が欲望をねじ曲げられて生まれた化け物なんだロ」

「え、な、なに?」

 すると、突然私のカバンが膨らんだかと思うと、チャックが開いて勢いよく何かが飛び出してきた。それは、人間の顔と同じくらいの大きさのピンクの楕円にでっかい目と口がついた生物だった。

「きもい! 新しい化け物っっ!」

 なんだこいつ!! いつからいた!?? え、てかマジでキモイ無理なんだけど色んな意味で吐きそうおええええええええ

「ちょ、ちょっと待つロ! ボクは化け物じゃなくて妖精だロ!」

「同じようなもんでしょうが!!!」

 いきなり目の前に変な生物が現れて「妖精さんなのね! うふふ♪」ってなるのは休日の午前中にやってる女児向けアニメの主人公だけだっつーの! まあ女児向けアニメは女児向けアニメで公式が百合カップリングを提供してくれて素晴らしいからいつも見

「とりあえず、敵意はないみたいだし、一回聞くだけ聞いてみようよ」

「え、純さん?」

「だってこのままじゃあの化け物をどうすることもできない。だったらこいつから少しでも情報を引き出した方がいいんじゃないかな」

 まあ確かに、純さんが持っていた武器類も全部あいつに取られちゃったわけだし、情報があるならとりあえず聞いておいた方がいい。

「それじゃあ改めまして、ボクは妖精のロー太。よろしくロ!」

 ロー太、私のカバンの中、ピンク色で楕円形。…………あっ。

「あんたまさか私が毎日使ってるピンクローt」

「ボクはユリの強い性欲から生み出されたんだロ!」

 なんか意図的に言葉を遮られたような。

「というか、性欲から生み出されたってどういう??」

「ユリの強すぎる性欲が魔法となってボクが生まれたんだロ!」

 性欲のおかげで使える魔法ってなんなの。三十まで童貞を貫くと魔法使いになれる的なノリなの?

「そして、逆に性欲を恨むことによって魔法が使えるようになったヤツらがいるロ。あの化け物はそいつらによって自分の性欲をを無理矢理『性欲を憎む心』に書き換えられてしまった人間なんだロ!」

 なんかもう性欲って言葉が多用されすぎて意味が掴みにくい。

「……とりあえず、今はどうすればあいつを止められるかだけ教えてくれ」

 細かいことを今ここでうだうだ聞いたってしょうがない。まずは目の前に化け物をどうにかしないと。

「ボクを生み出すほどの性欲を持つユリなら、その力を使って変身もできるロ!」

「変身??」

「そう! 性欲の力で変身するロ!」

 性欲が魔法になるとか変身するとか、いよいよもって女児アニメかっつーの。……いや女児向けアニメに性欲なんて単語出てくるわけがないけど……。まあ、目の前にふわふわ浮いてる妖精いたらもう「変身なんてありえなぁい」とは言わないけどさ。

「で、その変身ってのはどうやるの?」

「とにかく、目を瞑ってエロいことを考えるロ!」

「……真面目に言ってる?」

「大真面目ロ! 体中の全性欲を一か所に集中させるロ!」

 なんつー変身の仕方だよ。そんな魔法少女いたら女児の夢粉々に砕け散るだろ。……だけど、それなら普段から妄想しかしてない私にとっては難しいことじゃないな。目を瞑って百合カプを想像して、と。


 やっぱり百合と言えば学生だよなあ。忘れ物を取りに来たらあんまり話したことのない無口な女の子と鉢合わせちゃったりしてさあ。

『珍しいね。こんな時間にどうしたの』

『い、いやその、な、なんでも』

『ってあれ、それ私の席じゃん? 私に何か用だった?』

『ふぇっ、あ、えっと、その』

『というか、それ私のジャージ?』

『ごめん、その、匂いが、好きだったから』

 ここで初めて無口な子の想いを知って心臓ドクドク、そしたら夕陽差し込む教室で机の上に押し倒して二人だけの濃厚な時間を


「ってあれ、めっちゃ全身に力がみなぎってくる」

「今だロ! 変身だロ!」

「え、わ、分かった。変身!」

 すぅっ。

「え、浮いた! 私宙に浮いてるんですけど!」

 しかもなんか服が光り始めたし。と思ったら変形し始めたし! 私、マジの魔法少女になれちゃうわけ!??

「変身完了ロ!」

 ツインテールの質量保存の法則を無視した長い髪、白い半そでブラウスにピンクでふわふわのスカート。どっからどうみても立派な魔法少女でしょ!! そして手にはもちろん魔法のステッ

「……電マ?」

 いやいやいや衣装に不釣り合いすぎでしょ。しかも健全な方のマッサージじゃなくてモロ玩具的な意味のやつだし。

『ダ、コン』

 ん? なんか化け物がこっち見たような。いや、今まで夢中で棒切り刻んでたわけだし今さら私の方に突っ込んでくるなんてそんなことあるわけ

『滅ブゥゥウウ!』

 ありましたあああ! しかも油断してたから避けられない!!! まっじふざけんなお前っっ!!!(涙目)

「化け物は性欲を憎んでいるから、性欲の力で変身すると攻撃してくるロ」

「早く言えクソ妖精が!!!」

 攻撃にしようにも手元にはただの電マ一本のみ。これもう詰みでは???

「な、なんか魔法的な何かでうまい具合になんか起これ!!!」

 苦し紛れに電マを化け物に突き出す。すると、突然電マが動き出したかと思うと、その先端からソニックブームみたいな感じで光線みたいなものが発射された。そしてそれは女児向けアニメの必殺技みたいな感じでビームみたいに化け物にぶつかるとこれまたアニメみたいに化け物がスローモーションで吹き飛ばされてった、みたいn

『ぐえぇぇぇぇぇ』

 化け物はその謎の攻撃によって向こうの塀に叩きつけられる。何この電マ、意外と使えて草生えるわ(真顔)。

「魔法のステッキは相手に向けると強烈な音波を飛ばして攻撃ができるロ」

「だからそういうことは早く言えっての」

 まあでも化け物とはいえ元は人間なんだから、あれだけの速度で叩きつけられれば流石にすぐには起き上がれ

『ぅぅぅダ、コンゥゥ』

 ないこともなかったみたいですはい。

「ロー太! あいつどうやって倒せばいいわけ!!!」

「化け物は悪いやつらに性欲をねじ曲げられてああなってるロ」

「それはさっき聞いた!」

「だから、本人の性癖を貫いて元の性欲を思い出させれば元の人間に戻すことができるロ!」

「元の性欲ったって、あいつの性癖なんか知るわけないじゃん!」

 あの子どころかスミレの性癖だって知らないよ。性癖なんてそれこそ十人十色、千差万別なんだから!!

「大丈夫、性癖を確認する方法はあるロ」

「早く教えて! また襲ってくるでしょうが!」

「化け物になった後の能力は本人の性癖に依存するロ。やつらは感情をそのまんま逆転させることで性欲を『性欲を憎む心』に変えているから、化け物は性癖とは真逆の行動をしているロ」

「えーと、つまり?」

「例えば百合が大好きなユリがやつらに操られたら、片っ端から百合と思われる人たちを襲うようになるロ」

 なるほど。つまりあいつの行動から逆算して性癖が特定できる、と。

 あいつの行動を思い出せ。純さんから聞いた話では人間には全く興味を示さずひたすらソーセージとウインナーを切り刻んでいたと。

 ん? でも今回は警棒。共通点は棒状であること。それが一体なんだってんだ?

『ダ、コン、滅ブ、ベキィィ』

「あ」

「ユリちゃん! 今無線で応援呼んだから! あと少しだけ耐えて!」

「純さん、分かったよ」

「え? 何が?」

「あいつの言葉。『ダイコン滅ぶべき』じゃない」

「そしたらなんて?」

「『ダイコン』じゃなくて『男根』だったんだ」

「だんこん?」

「チンコだよ」

「ち……えっ、えっ////」

 普段聞くような言葉じゃない上に事前情報もあったから、私もてっきりダイコンに聞こえてた。でもよくよく考えたらソーセージもウインナーも小学生が使うくらい代表的なチンコのメタファーじゃん。

 そして「男根滅ぶべき」ってことはその裏。

「つまりあの子はチンコに飢えてるってわけだ」

「ちょ、ユリちゃん、そんな言葉を女の子が連呼しちゃダメだよ!」

「え、別にいいじゃん。少年漫画なんかじゃいくらでも出てくるよチンコなんか」

「それはそれ! 少なくとも人前じゃダメだよ!!!」

 純さんったら、チンコ程度で恥ずかしがらなくたっていいのに。

「でもなあ、チンコに飢えてるって分かったところでどうするかな。あんまりがっつりチンコをあげたらむしろそのチンコ出した男が公然わいせつで連行されそうだけど」

 あんまり生々しいことはさせられない。なんとか平和に(?)片づける方法はないものかねぇ。

 いやまてよ?

「ロー太、さっき『私なら百合カップルを片っ端から襲う』って言ったよね」

「言ったけど、それがどうしたロか?」

 そうだよね、普通チンコがほしいなら実際のチンコを狩って回るはず。感情を逆にするってことはチンコが欲しければ欲しいほどチンコをむごたらしく狩るんじゃなかろうか。そう考えると今回の暴れ方は少し平和的すぎる。

「……よし分かった。純さん、ちょっと耳貸して」

「ん?」

「ごにょごにょごにょ」

「うぇぇえええ!!!! そ、そんなこと僕には」

「今やらないとさらに暴れまわるかもしれないよ。警察官としてそれはまずいでしょ」

「で、でも」

「いいから! 早くしないと襲われちゃうよ!」

 正義感の強い純さんだからやってくれるはず。私の見立てが正しければ、多分恐らくきっとこれでいける、はず、保証はない。

『ダンコンゥ』

「う……うう、ええい!!!」

 もじもじしながらも純さんはありったけの力をこめて自分のズボンのファスナーを下した。いや、ファスナー下ろすのにありったけの力込める必要ないとは思うんだけど。

『ダッッッ! ンッッ!!!!』

 化け物はそれをばっちり見て、XJAPAN並に激しく首を上下に振った。そうかと思うと、数歩後ずさり、力が抜けたように膝から崩れ落ちて、そのまま前に倒れて動かなくなった。

「やった!! 純さんやったよ!!」

「お手柄ロ!」

「ううううぅぅぅ」

 純さんは顔を真っ赤にして泣いてるけど、とりあえず化け物を無力化できて良かった。

 ロー太の言う通り、化け物はみるみる普通の女の子に戻った。女の子は今まで暴れまわっていたのがまるで嘘のようにすやすやと気持ちよさそうに眠っている。

「やっぱり、エロいことに興味持ち始めたばかりで『一度でいいからチンコってどんなものなのか見てみたい』程度の思いだったんだな」

「僕には何もついてないよ!!!」

「ちょっと興味ある程度なら男っぽい人がチャック開けるだけで相当な興奮になるんじゃないかと思ってね。狙い通りになった」

「僕もうお嫁にいけないよおおおおお!!!!」

 純さんが涙声で叫ぶ中、どこからかパトカーのサイレンが近付いてきた。




「ちくしょー、なんで私がこんな念入りに取り調べされなきゃなんないのさぁ」

「まあ魔法とかなんとか言ったら、普通は信じないよねぇ」

 純さんは「ごめんねぇ」と言いながら手を合わせる。

 気絶した少女に泣いている女性警官、盗まれかけたベルトと拳銃、そしてふざけた格好をした女。そりゃ私が疑われるのも分かるけどさ。どう考えても私が一番の不審者だけどさ!

 一応純さんが同僚に説明をしてくれたにはしてくれたんだけど、馬鹿正直に話すもんだからロー太や魔法のことまで喋らなきゃいけなくなって。おおむね三時間拘束されたわ。こちとらヒーロー側なのに。ヒーローも楽じゃないね。

「まったく人を信じなさすぎなんだロ。身体中触られすぎて声おさえるのに必死だったロ」

 警察が納得した一番の理由はロー太が電池も何もなく浮かんで喋ってることだった。まあ半分以上の警官が笑いをこらえたり気まずい顔してたけど。わいせつ物陳列罪で逮捕されなくて良かった。

「あ、そういえばロー太に色々聞きたいことがあるんだけど」

「僕が知ってることならもちろんなんでも答えるロ」

 戦ってる最中はロー太と話してる余裕なんてなかったし、実はロー太が横で話してた内容もあんまり頭に入ってない。

「私の性欲から生まれたって言ってたけど、どうしてこのタイミングなの?」

 当たり前だけど、別に私は今日から突然変態になったわけじゃない。なんで今日、急にロー太を目覚めさせてしまったのかちょっと納得がいかない。

「それはこの世界に悪いやつが生まれたからロ」

「悪いやつって、例の性欲を憎んでるってあれ?」

「そうロ。とある人間が何らかのきっかけであまりある憎悪を抱いてしまい、魔力を有した魔法使いになってしまったロ」

「ふーん。でもそれはその人が魔法使いになったってだけでしょ。私と何の関係があるの?」

「性欲を憎む魔法使いがこの世に生まれてしまったせいで、世界の性欲の均衡が崩れてしまったロ。性欲が無理矢理かき消されたりすれば、もっともっとバランスは崩れるロ。でも世界自体は均衡を保とうとするから、逆に性欲の力も増幅されたんだロ」

 ちょっとSFチック過ぎて何言ってるか分かんない。

「えっと、神様的な話?」

「神様と言うよりは法則ロ。宇宙でものを投げたら作用反作用の法則で自分も後ろに飛ばされるロ? それと同じように、性欲への憎悪が力を持てば持つほど性欲自体の力も増えるというわけロ」

 なんとなく分かったような分からないような。

「ちょっと僕からも質問いいかい?」

「なんなりとどうぞロ」

「別に君を疑うわけじゃないけど、キミはなんでそこまでいろいろ知っているんだ? 今日まさに、ユリちゃんのカバンから生まれたばかりなんだろ?」

 さすがは仮にも警察官、いいところ突くなあ。確かにこいつ私のカバンの中にずっといたのになんでそんな博識なんだ。

「それは妖精のサガ的なアレロ」

 なんか急に大雑把になった。

「ボクが知ってるのはあくまでどうしてこうなったかの過程と一般論ロ。それを知らないとそもそもボクが生まれても『ここはどこ、私は誰』みたいな感じになって妖精としての存在意義がないロ」

 ま、まあ確かにそうか。せっかく生まれても何も知らない妖精じゃ使えないからな。変身の仕方も化け物の倒し方も分からないんじゃ女児向けアニメなら放送事故だわ。……ロー太が使い物になったかどうかは別にして。

「ということは、実際にその悪い魔法使いが具体的に誰かは知らないってことなんだね?」

「そういうことロ」

 それが分かってればそいつを叩けばいいだけの話なんだけど、やっぱり人生そううまくはいかないか。

 ちなみに、今日の件についてはその辺の事情も話してはおいたので、化け物になっていた女の子については自我がなかったため責任能力なしになり、事件の原因である悪い魔法使い、というのを傷害罪で捜査することになったという。魔法やらなんやらって話になると証拠とか法律ってどうなるのか知らないけど。

「それから、その悪い魔法使いはどうやって彼女を化け物にしたの? やっぱり魔法でちょちょいと遠くからできちゃうのかな」

「いや、そういうわけでもないロ。魔力を凝縮したものを相手に植え付けなければいけないから、少なくとも直接接触はするはずロ」

 なるほど。そうなると敵さんは意外と近くにいるかもしれないってことか。

「最後にもう一つ、そいつらの目的は何?」

 目的。性欲を憎む、とは言っても確かに性欲を憎んだところで何かが起きるわけでもないしね。世界征服でも目論んでりゃ別だけどさ。

「性欲を憎んでいる、と言ったけれど、それは少しだけ語弊があるロ。本当は『男』を憎んでいるんだロ」

「男を?」

 あー、さっきの化け物も男根男根騒いでたもんな。

「男を憎む心が男の性欲を憎む心になり、性欲そのものへの憎しみに繋がってしまったんだロ。だから最終的な目的は男を全員排除、もしくは無力化して支配下に置くことだロ」

 男を支配下に、か。男尊女卑とか女性差別とか最近よく聞くけど、姉さん女房とかかかあ天下とかもあるしなあ。どっちも行き過ぎれば結局は最後暴走するのかもね。

「ということはその魔法使いは限りなく女性の可能性が高いね」

「純さん今日どうしたの、頭良すぎて怖い」

「ユリちゃんは僕をなんだと思ってるんだよ」

 くっそー、天然だと思ってた純さんが頭いいんじゃ知り合いの中で馬鹿っぽいの私だけじゃんかむかつくなあ。全員バカになっちまえ。

「つまりは現状、化け物が現れたら順次倒していくしかないってこと?」

「そういうことになるロね」

 じゃあ私は魔法少女として雑魚敵をたくさん倒すことになるのか。いよいよ女児向けアニメっぽくなってきた。これで仲間とかできたら最高なんだけどな。

「純さんも一緒に魔法少女やらない?」

「えっ、僕? いや、僕は無理だって。そもそも性欲ってのがどういうものか具体的に分かってないし」

 純さんはそれこそ純真無垢だからなあ。見た目が男っぽい女の子は魔法少女になるとかわいいって鉄則があるから純さんの魔法少女姿見たかったのに。

「誰か魔法少女一緒にやってくんねーかなあ。あそこにいるうちの生徒とかでもいいからさあ」

 魔法少女のメンバーは同じ学校の人と相場は決まってる。……にしてもあの人、一人で河川敷で何してんだろ。あの顔、どっかで見た気がするけど。

「じゃあ、僕は交番だからこっちね」

「あ、うん。また化け物出たらすぐ呼んでね」

 純さんは路地を曲がって国道沿いの交番に向かっていった。私はさっさと家に帰って同人誌でも漁ろうか。魔法少女として頑張るためにエロいことたくさん考えておかなきゃだもんな!!

 ……しかしこの時の私は思いもしなかった。ロー太の存在を隠すことが死ぬほど難しく、父親に発見されて家の中の気温が北極のようになろうとは。

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