知らない表情

廊下を歩いていると

「あははっ、」

と楽しそうな笑い声がした。夏井先輩の笑い声だ、と思って教室を覗くと桜木先輩と楽しそうに話していた。

先輩のあんな顔、僕は見た事がなかった。

僕に向けている笑顔と桜木先輩に向けている笑顔は違うんだ。

幸せそうに、楽しそうに。恋をしている顔をしていた。

あぁ、やっぱり、好きなんだ。

泣きそうになる気持ちを抑えながら、僕はカメラをこっそり構えた。


「またこれで先輩の知らなかった表情かおが増えたな……。」


それを引き出すのが、僕じゃないって事が少し悔しいけど。




「ああ、僕の気持ちは伝わらないのかな……っ。」

1枚1枚、増えていく写真に嬉しさを感じながら、そんなことを考えていた。



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