第93話 エピローグ

 竜魚を食べてから一週間が経った。足の怪我も順調に回復。俺はカトーリ村を後にすることにした。


 滞在中はアルゴと友情ごっこをしながら、お客様扱いを堪能。海の幸に舌鼓を打ちながら優雅に過ごした。


 食事中は、五感強化で味覚をMAXにしたい誘惑がすごかった。


 俺が誘惑に負けそうになるたび、パピーが回路パスで注意してくれたおかげで、なんとか我慢することができた。


 魔物由来の食品を口に入れる機会はどうしても多くなる。魔素味まなみを完全に摂取しない、なんてのは不可能だ。


 なんとか五感強化の誘惑に打ち勝ちつつ、少しずつこの中毒症状が落ち着くのを待つしかない。


 通常レベルの魔素味まなみで満足できるように体を慣らさないと……。




 アルゴは、俺との別れを悲しんだが、次会うときはお互い成長した姿を見せよう。そんな臭い台詞を吐いて別れた。


 別れ際に餞別せんべつだと言われ、革袋を渡された。


 感触から硬貨だとわかった。顔が一瞬にやけそうになるが、必死で我慢する。


 この硬貨がアルゴの個人財産ならいいが、メルゴの家から回収した金だとしたらまずい気がする。


 元は村人から搾取された金だ。


 大丈夫か? そう思って村長に目を向けた。村長は俺の懸念に気付いたのか、少しだけうなずいて大丈夫だと合図してくれた。


 報酬を渡していないと逆に不安になることもある。それに、金はあって困る物じゃない。


 俺は一度は遠慮するフリをして、ありがたく硬貨を頂戴ちょうだいすることにした。


 アルゴたちに別れを告げ、カトーリ村を後にした。


 しばらく街道を歩くと、周囲に人の気配がないことを確認。革袋の中身をウキウキしながら確認すると、金貨が10枚も入っていた。


 持つべき物は金持ちの『お友達』だな。俺は目を銭マークに変えながら、そんな腹黒いことを考えていた。


 アルゴが俺の命さえ狙わなければ、いい友人になれたかもしれない。だけど、一度裏切ろうとした奴は何度でも裏切る。


 俺はアルゴを心から信頼することはできない。友達のフリはできても、本当の友達にはなれない。


 それが、少しだけ悲しかった。


 もう会うことはないかもしれない。アルゴの頭の中に住んでいる『理想的な友人である野人』を心の支えに強く生きてくれ。


 この金貨10枚は、友人からの餞別せんべつとしてではなく、メルゴを網元の座から引きずり下ろした報酬として受け取ることにしよう。


 俺の気持ちの問題だが、こういう区別はしっかりと付けた方がいい。金貨を懐にしまうと、すでに遠くなったカトーリ村を見ながら俺はつぶやく。


「じゃーな、アルゴ」


 もしかしたら友達になれたかもしれない、不思議な縁の男に別れを告げ俺は歩き出す。


 目指すはトゥロン。


 覇権国家メガド帝国と少国家群で唯一交易を結んでいる町。帝国の文化と品物が流入しており、少国家群で最も文明的な町と呼ばれている。


 優れた文化。様々な品物。多種多様な人々。そして、町に渦巻く欲望。


 楽しみでもあり、恐ろしくもある。


 期待と不安の入り交じる複雑な気持ちを胸に、俺は街道を進み続けた。

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