第29話 プール!!
プールに着いた浩輔達は水着に着替える為に男子は男子、女子は女子の更衣室に分かれた。着替え中の浩輔達の話題はもちろん彼女達の水着についてだ。同級生であれば体育のプールの時間にスク水とは言え水着姿を拝むことが出来るのだが、生憎学年が一つ下の為、彼女達の水着姿を見るのは初めてなのだから期待は大きく膨らむ一方だ。
「奈緒の水着姿、楽しみだぜ」
「稲葉さん、どっちの水着にしたんだろう……?」
楽しそうに話す浩輔と郁雄に対し、信弘は少し不安そうな顔をしている。
「真由美、俺が渡した水着、着てくれるんだろうな……」
一方、女子は女子で自分達が水着姿を彼氏達に晒すのが初めてだという事にドキドキしながら水着に着替えていた。
「大丈夫かな? お腹出てないかな?」
しきりにお腹を気にする真白。もちろん今日の朝食は抜きだ。奈緒は少しでも胸を大きく見せようと少ない肉を水着のカップに詰め込んでいる。真由美はと言えばしきりにお尻を気にしている様子。お腹・胸・お尻と仲良し三人組でも、抱えているコンプレックスは三者三様。もっとも気にしているのは本人ばかりで、どこに出しても恥ずかしくないどころか、眩しい程に魅惑的な身体なのは間違い無い。
*
「お待たせしましたー!」
早々と水着に着替え、そわそわしながら彼女達を待つ浩輔達の元へ、奈緒を先頭に女の子三人が歩いてきた。
「へっへー、どうですか? 私の水着姿。惚れ直しちゃっても良いんですよー」
奈緒が郁雄の前でくるりと一回転して見せた。
「ああ、良く似合ってる。可愛いぜ」
ストレートに褒める郁雄に顔を赤くする奈緒。
「稲葉さん、ボクが選んだ水着にしてくれたんだね」
浩輔の言葉に恥ずかしそうに頷きながら、やはりお腹の辺りを気にする真白。
「あの……変じゃ無いですか?」
「変だなんて。とても可愛いよ」
浩輔の言葉に真白は嬉しそうに微笑んだ。
奈緒と真白が自分達の方から声をかけたのに対し、真由美だけは黙ったまま、しかし何か言いたげに信弘の隣に立った。身に着けているのはもちろん信弘のプレゼントした水着。思ったとおり、いや、思った以上の真由美の水着姿の可愛さに信弘がぼーっと見とれていると、真由美は不満そうに口を開いた。
「ねえ、何か言ってよ」
真由美の言葉に信弘は思わず呟いた。
「ああ……綺麗だ」
まるで結婚式の直前に新郎が新婦にかける様な言葉だ。さすがにこれには真由美も戸惑った。
「ちょっ……何言ってんのよ」
真由美の言葉に我に返った信弘は自分の言った言葉に顔を赤くしながら照れ隠しの様に言い直した。
「い、いや……うん、可愛いよ。さすがは俺が選んだ水着、真由美にピッタリだ」
「何よ、それ」
真由美は不服そうな声で言うが、『綺麗だ』と言われたのが頭に残っているのだろう、表情はまんざらでもなさそうだ。
*
「うわー、人、いっぱいだねー」
プールサイドを歩きながら奈緒が小学生みたいに言うが、それはそうだ。だって夏だもの。涼を求めて集まった人達でプールは大盛況。もっとも単に涼を求めるだけで無く、水着姿の女の子を眺めに来ている男達も数多い事だろう。そう、かつての浩輔達の様に。しかし今日の浩輔達は違う。可愛い彼女を連れて意気揚々と歩く浩輔達にとってプールサイドはパラダイス。照りつける太陽の下、存分に水遊びを楽しんだ浩輔達だった。
「腹減ってきたな」
郁雄が言った。もう昼時なのだろう、気が付けば太陽はすっかり高くなっている。
「じゃあ、何か食べに行こうよ」
浩輔が言うと郁雄と奈緒は諸手を上げて賛成するが、真白と信弘は何故か浮かない顔をしている。
「♪ごっはん~、ごっはん~♪」
歌いながら楽しそうに歩く奈緒に郁雄が続き、その後ろを浩輔と真白、信弘と真由美が連なって歩く。
「どうしたの? 気分でも悪いの?」
浮かない顔の真白を心配して浩輔が尋ねると、真白は笑顔を作って「大丈夫」と答えた。
真白が浮かない顔をしている理由、それは「何か食べる事でお腹がぽっこりしたらどうしよう」と言う実に女の子らしい可愛らしいものだった。しかし、浩輔にそんな女心などわかる筈が無い。まあ、彼女いない歴=年齢を卒業したばかりなのだから仕方が無いのかもしれないが。
一方、信弘が浮かない顔をしている理由はと言えば単純明快、単なる金欠だ。もちろんそれは昨日の真由美の水着代と言う不慮の出費から来るものなのだが、それを口にする訳にはいかない。ここで男の器量が試されるのだ。
プールサイドにはトロピカルな雰囲気のイートインスペースと売店が設営されていて、ジュースやかき氷等と共に定番のカレーやラーメン、焼きそばを売っているのだが、もちろんのことながら『観光地値段』なので財布に優しく無い。浩輔達は、とりあえず先に座る場所を確保して何を注文するかを考えた。
「俺、コーラだけで良いや」
腹を空かした郁雄と奈緒が「ポテトフライだ」「唐揚げだ」と盛り上がる中、信弘がポツリと言った。
「えっ、どうした信弘? 腹減ってないのか?」
思いもよらない信弘の言葉に郁雄が驚いて声を上げると、真由美が溜息を吐いた。
「お金無いんでしょ? 私に水着買ってくれたから」
さすがは真由美、見事にお見通しだ。だが、信弘としてはそんな恥ずかしい事など言えるわけが無い。
「バカ、ちげーよ。んな訳ねーだろ、まだ腹減って無いだけだっての」
意地を張って反論するが、言い終わると同時にお約束の様に信弘の腹がぐーっと鳴った。
「ほら、身体は正直よ。水着買ってくれたんだもん、ご飯ぐらい私に出させてよ」
真由美の言葉に信弘は恥ずかしそうに頷いて、信弘の分は真由美が出す事に決まった。
「じゃあ買ってくるから場所取りよろしくね」
真由美が言い、信弘を席に残して五人はドリンクとフードの調達に席を立った。
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