第17話 奈緒の弱点
その頃、浩輔達を乗せたゴンドラの中では奈緒に異変が起こっていた。
「実は私、高所恐怖症なんですよ……」
「お前、ジェットコースターじゃ、あんなにはしゃいでたじゃねぇか」
予想外のカミングアウトに郁雄が突っ込むが、奈緒は素の表情のまま。いや、素の表情どころか青ざめている様な気がする。
「スピードが出てたらテンションが上がりますから。でも、こうゆっくりだと……」
そう言えば奈緒はジェットコースターに乗った時、スピードが出るまではずっと黙って空だけを見つめていた。
「怖いんです。でも見てしまう。これって、臭いってわかってるのに、匂いを嗅ぎたくなるのと同じですよねー」
ちらちらと窓から外を見ては俯き、また顔を上げて外を見ては俯き……と落ち着かない様子でボケとも本気とも取れる事を言う奈緒。そして奈緒は郁雄に視線を移すと力無く微笑んだ。
「郁雄先輩と一緒なら大丈夫かなって思ったんですけどね、やっぱ怖いものは怖いですね」
郁雄は不覚にもそんな奈緒を可愛いと思ってしまった。
そんなうちにゴンドラは無事(?)一周し、係員によってドアが開けられた。
「地面に足が着きさえすればもうこっちのものですよ! 次は何乗りますかー?」
ゴンドラから降りた瞬間に奈緒は元気を取り戻した。まさに水を得た魚と言ったとこだろう。その豹変ぶりに郁雄が突っ込む事も忘れて呆然としていると、信弘と真由美の乗ったゴンドラのドアが開けられた。
「はい、真由美ちゃん」
「ありがとう」
先に降りた信弘が差し出した手を取って真由美が降りる。しかし、その記念すべき瞬間を浩輔達は奈緒に気を取られて見逃してしまった。
「お待たせ。次はどうする?」
信弘と真由美が浩輔達に近寄ってきた。さすがに手を繋いだままというわけでは無いが、二人共実に良い顔をしている。
「あれっ、二人共ニコニコしちゃって。何か良い事あったの?」
それに気付いた奈緒が鋭く突っ込むが、真由美は「さあ、どうかしらね」と笑うばかり。
「それって絶対何かあった人の反応よねー!」
「まあ俺達の事は良いじゃないか。さあ、行こうぜ」
尚も追求しようとする奈緒を振り切る様に信弘が歩き出すと、奈緒は信弘の言葉にも反応した。
「『俺達』? 聞きましたか皆さん、『俺達』ですって! あの二人、やっぱり何かあったに決まってますよね?」
芸能リポーターよろしくしつこく食い下がる奈緒に郁雄の突っ込みが炸裂した。
「いいかげんにしなさい!」
突っ込まれていつもの様に喜ぶかと思われた奈緒だったが、「だってー」と、普通の女の子の様な反応をみせた。それが浩輔の目には奈緒が真由美の事を羨ましがっている様に見えたのだが、それは浩輔の気のせいだったのだろうか?
*
「じゃあ、また学校で」
楽しい時間はあっという間に過ぎ、いつもの挨拶で浩輔達は真白達と別れた。女の子がいなくなった男子がする事、それは反省会だ。ファミレスでと言いたいところだが、残念ながら三人共そんなお金など残って無い。コンビニで缶コーヒーを買い、店先に座り込んでグダグダと喋ると言う若者にありがちなパターンとなったのは仕方があるまい。
「どうだった? 真由美ちゃんと二人で観覧車?」
郁雄が早速信弘を詰問しだした。それはもちろん浩輔も気になるポイントだった。しかし、郁雄の尻馬に乗って何か言うと真白と二人きりだった時の事を突っ込まれそうな気がしたので黙ったまま目線を送ると信弘は余裕の笑みを浮かべた。
「おおっ、その顔は期待出来るって顔だな」
身を乗り出した郁雄に信弘は勝ち誇った様な顔で応えた。
「ふっ、二人だけで遊びに行く約束を取り付けたぜ」
「マジか!?」
信弘の言葉に興奮する郁雄。無理もない、これは大きな前進だ。今まではグループでの行動だった為、単に遊び仲間としてしか認識されていなかったかもしれない。しかし二人だけで遊びに行くとなると……
「それって、デートって言って良いんじゃない?」
「お前もそう思うか? やっぱりな、これってデートだよな」
生唾を飲み込む浩輔の肩を信弘が嬉しそうにバンバン叩く。まあ、観覧車での真由美の態度から真由美が信弘に少なからず好意を持っているであろう事は間違い無いだろう。後は信弘が調子に乗って性急に迫ったりしなければ上手くいくに違い無い。
「上手くやれよ。お前が変な事したら俺達もやりにくくなっちまうんだからな」
心配する郁雄に信弘は任せておけとばかりに親指を立てて応えた。
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