第9話 白い兎と赤い兎

 楽しい時は時間が経つのは早いもので、ワイワイと歌って騒いでいると、カラオケボックスお決まりの十分前を知らせる電話が鳴った。


「おっと、もうこんな時間か。残念だが今日はお開きだな」


「そうですね。先輩、今日はまあまあ楽しかったですよ。また誘ってくださいね」


 信弘の声に真由美が応えると、奈緒が高いテンションで言った。


「私は凄い楽しかったですよぉ! こんな素晴らしい先輩がいらっしゃったなんて。ぜひまた誘ってくださいね! って言うか今度先輩の教室に遊びに行っても良いですか? 良いですよね? 行きますよ! 行っちゃいますよ!!」


 奈緒はすっかり郁雄に懐いてしまった様だ。


「あの……今日はありがとうございました」


 真白はペコリと頭を下げた。賑やかな奈緒とは正反対。よくもまあ、見事にバラバラの性格の三人が仲良く出来るものだ。


「うん、じゃあまた学校でね」


 浩輔が立ち上がりながら言うと、奈緒が猛烈に抗議し始めた。


「え~~~!? また学校で~~~? 明日は日曜日ですよ日曜日! せっかくの日曜日だと言うのに一緒に遊ばないって言うんですか?」


 一気に捲し立てる奈緒に気圧されながら浩輔が答えた。


「いや、まだ会ったばっかりだし、いきなり二日連続で遊びに誘うってのもどうかなって思ったんだけど」


 すると奈緒が言い返す。


「何を言ってるんですか! 昔から言うじゃないですか。『善は急げ』『鉄は熱いうちに打て』『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って!」


 何か違う意味の言葉も入っているが、とにかく奈緒は明日も遊びたくて仕方が無い様だ。もちろんそれは浩輔達にとっても願ってもない展開だ。


「じゃあ、明日もどこか遊びに行くか?」


 郁雄が言うと奈緒は満面の笑み、そして全身で喜びを表した。


「わーい、やったー! 実は私達、明日ショッピングモールに買い物に行く予定だったんですよ」


 真由美と真白の意見を聞こうともせず一人で話を進めようとする奈緒に郁雄は恐る恐る尋ねた。


「で、その買い物に俺達も付き合えってか?」


「ビンゴ! ショッピングモールならいろんなお店もありますし、みんなで行ったら楽しいかと思うんですが、どうでしょう?」


 郁雄の言葉に奈緒は高いテンションで答えるが、浩輔には気になる点があった。


「でも、女の子だけで買い物に行く予定だったんでしょ? ボク達が一緒に行っちゃって良いのかな?」


「ノー問題です! むしろウェルカムですよ!」


 奈緒が変わらぬハイテンションで即答した。まあ、真由美と真白の顔を見る限りは反対というわけでも無さそうだ。


「じゃあ決まりだな」


「おっけー。じゃあ明日ね」


 信弘が言うと真由美が言葉を返し、真白は小さく頷いた。


          *


 女の子と別れて三人になった浩輔達。信弘が郁雄の肩を叩いて言った。


「良かったな、妙な子に気に入られたみたいで」


「うーん、奈緒ちゃんか。黙ってりゃけっこう可愛いんだけどな、あの子」


「コレも俺のおかげだぜ。俺が真由美ちゃんと上手くいく様に協力もしろよな」


 信弘は真由美狙いで、郁雄は奈緒に好感を持たれている。と言う事は必然的に浩輔の相手は真白になるという事だ。信弘は浩輔に尋ねた。


「浩輔はどうなんだ、真白ちゃん?」


「稲葉さん、かわいい子だったね。おとなしい感じで」


 浩輔が答えると郁雄がしみじみと言った。


「稲葉真白ちゃんか……何か小動物っぽい感じだったな。因幡の白兎ってトコか。字は違うけどよ」


「白兎の真白ちゃんと子犬の浩輔、お似合いじゃねぇか」


 信弘が被せる様に言って笑った。肉食を目指す子犬の初めての獲物には子兎は打って付けだとでも言いたいのだろう。


「それにしても真白ちゃん、まさか稲葉さんの従姉妹だとはね。世間って狭いんだな」


『お似合いだ』などと言われて顔を赤くした浩輔が話題を変えようとしたのかポツリと言うと、信弘がまた妙な事を言い出した。


「真白ちゃんが白兎なら、茜は赤兎ってトコだな」


「赤兎? 何それ?」


 白や茶色、黒の兎なら見た事があるが、赤い兎など聞いた事も無い。浩輔が不思議な顔をすると信弘はドヤ顔で言った。


「赤い衣装のバニーガール」


 それを聞いた浩輔の頭の中で真白が白いバニー服に身を包み、白いうさ耳を付けてモジモジし、赤いバニー服を着て赤いうさ耳を付けた茜が色っぽく微笑んだ。



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