第2話 さあ、狩りの時間だ!
そして決戦の日曜日、三人はショッピングモールに集結した。浩輔達に試練の時がやってきたのだ。可愛い女の子を求めて来ているというのにショッピングモールが魑魅魍魎の跋扈する魔界の様に感じられる。
「はぁ~緊張するなぁ」
「バカ野郎、今からそんな事言っててどうすんだ」
「そうだぞ浩輔。俺達は戦場に立ったんだ。気後れしてたらあの世逝きだぜ」
弱気な浩輔に郁雄と信弘が言うが、別にナンパに失敗したところで死にはしない。だがどういう訳か、その言葉で浩輔の心に火が付いた。
「ボクは肉食の狼になるんだよね……なら、ココは戦場じゃ無い。狩場だ。他の群に先を越される前に獲物をゲットしよう!」
可愛らしい顔の浩輔の目元がきりっと引き締まった。
「おっ、良いね~、その目」
「うん。浩輔はもともと整った顔立ちだからな。それなら子犬ちゃんなんて言われないぜ」
子犬の目が引き締まったところで子犬は子犬でしか無いだが、せっかく浩輔がやる気になったのだ。郁雄と信弘は手放しで彼を褒め称えた。それによって浩輔の士気は更に上がった。
「じゃあ、作戦を考えよう。まず、ショッピングモールに来る女の子は大きく二つに分けられると思うんだ」
「と、言うと?」
「買い物に来た女の子と、別に何を買う訳でもなくぶらぶらしに来た女の子だよ」
「そりゃそうだろうな」
「もちろんボク達が声をかけるのは後者の方だ。そこで、郁雄に問題」
妙にノリノリな浩輔。ついさっきまで弱気だった者と同一人物とは思えないぐらいの変り様だ。
「郁雄なら、ぶらぶらするとすればどのエリアに行く?」
「うーん、俺だったらゲーセンとか、本屋とか……あと、フードコート?」
自分の行動を考えて郁雄が答えると浩輔は自信ありげに大きく首を縦に振った。
「正解。単に遊びにきた女の子は今、郁雄が言ったエリアに居ると思う」
残念。女の子はウィンドウショッピングとか言って、買う訳でも無いのに服屋とかアクセサリー屋をぶらぶらする習性がある事を彼等は知らない様だ。まあ、彼女いない歴=年齢だからしょうがないのかもしれないが。
「すると、俺達の狩場はその辺りって訳だな」
「うん。じゃあ行こうか。まずはゲームセンターからだ」
信弘が言うと浩輔は頷いて最初の狩場を選定した。さあ、狩りの始まりだ。
ゲームセンターはモールの四階の奥にある。きょろきょろして女の子を吟味しながら歩く浩輔達。吟味と言っても彼等に女の子を直視する根性などある訳が無い。周囲の店を見るふりをしながら視界に入った女の子をチラ見してチェックするだけの事だ。
すると早速信弘がクレーンゲームをやっている女の子に目を付けた。丁度向こうも三人組だ。
「アレ、どうだ?」
「良いんじゃないかな」
「誰が声かける?」
「………………」
「………………」
「………………」
いざとなると三人共びびってしまって声をかけられない。うじうじしている間に女の子達はプライズのぬいぐるみを手に入れて行ってしまった。
「あーあ、行っちゃったよ」
「いやいや、これで良かったんだ。あの子達、ぬいぐるみ獲ったらさっさと行っちまっただろ。きっともう帰るつもりだったんだよ」
何も出来なかったくせにがっかりする浩輔に信弘は童話に出て来るキツネばりの負け惜しみを言うと、思い付いた様に言った。
「しかし何だな。いざ声をかける段になってあたふたしてたんじゃ話にならんな。ここは前もって誰が声をかけるか決めといた方が良いんじゃないか?」
信弘の提案に固まる郁雄と浩輔。二人共正直なところ誰かが声をかけるだろうという他力本願なところがあったからだ。もちろん信弘もそれは同じなのだが。しかし誰が声をかけるか決めるとなると、自分がその役目に当たってしまった場合残り二人のフォローはあるだろうが自分が先頭切って声をかけなければならない。
当たる確率は、単純計算で三分の一。さて、この大役を任されるのは誰だ?
「そうだな。で、誰が行く? 言い出しっぺの信弘でどうだ?」
郁雄が信弘に振るが、信弘は難しい顔で首を横に振った。
「いや、そうしたいところだが、残念ながら俺では力不足だ。ファーストコンタクトは重要だからな。ここはやはり一番顔の良い浩輔が行くのが最善だと思うのだがどうだろう?」
「確かに。じゃあ浩輔、頼むぞ」
「ええ~っ」
もっともらしい事を言っている様にも聞こえるが、要は郁雄も信弘も女の子に声をかける勇気が無いだけだ。一方的に話を進められ、気が付けば突撃係を押し付けられてしまった浩輔が嫌そうな声を上げると郁雄が更にもっともらしい事を言った。
「何だ、不服そうだな。じゃあ、民主的に多数決で行こう。浩輔が適任だと思う人、挙手願います」
郁雄の言葉に郁雄と信弘が手を挙げた。
「三人中、賛成二。過半数の賛成をいただきました。よって本案件は可決とします」
「過半数って、酷いよ」
民主主義の精神に則った出来レースに不服を訴える浩輔だったが、信弘が彼の肩を叩いて引導を渡した。
「三分の二以上の賛成でもあるんだぞ。あきらめろ」
こうしてファーストコンタクト、最初に声をかけるハメになった浩輔はぶつぶつ言いながらも女の子を見繕って果敢に声をかけた。
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