サイクロン・アイズ ~ One memory ~

喜岡せん

episode SAO

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 叫声と咆哮。

 苦痛に歪む仲間の身体を盾にし、射程距離を測る。

 異形の触手が仲間の身体を玩具の様に弄び、終いに体内への侵食を始めた。

「ッッ! 早く撃てサオ! アイツの記録データが汚染されちまう!」

 そう叫ぶ隣人には腕が無く、千切れた先から鮮血が滴り落ちていた。そういえば、と、隣人が異形に食われていたことを思い出す。

 いざとなれば首だけ持って帰ることも考えていたがどうやら全て食われずに済んだらしい。

 その隣人がまた叫んだ。

「サオ!」

「………解ってる」

 自分の位置と銃の射程距離を脳が高速処理をし、最適な機会を叩き出す。算出した計算に多少の誤差と異形エネミーの軌道予測を加え、トリガーに指を掛けた。

「早くしろサオ!」

「……まだだ」

 精神汚染が中枢まで達すれば非常用のセキュリティゲートが展開される。『機体からだ』が使い物にならない場合でも、データが保存されている記憶媒介メモリは侵入を許さない限り健在している。

 つまり、どんなに優勢だろうとセキュリティに掛かったその瞬間……一瞬だけ動きが止まる。

 狙っていたのはそのコンマ一秒。

 全ての邪魔な視界を遮り焦点を一点のみに合わせ、同時にトリガーを引いた。

 計算から多少の軌道が逸れたが、これは想定の範囲内である。

 弾丸は弧を描き、狙い通りに仲間の心臓諸共異形を貫いた。

 汚染型の異形は初めに機体の侵食をし、各神経系を通じて全てを司る脳に行き着く。

 逆に言えば肝心要のメモリへ到達する迄に本体の生命活動停止シャットダウンを行ってしまえば良いのだ。

「……間に合ったか?」

 隣人が恐る恐る尋ねる。

「さぁね。開けてみれば良いんじゃない」

 僕は用済みになった腕を下ろし仲間の死体へと向かった。

 血反吐と共に口から飛び出ている触手を引っ張り出す。ズルズルと引き出された異形の本体は次第に端の方から砂となって崩れ落ちた。

 一度施設の研究員が生け捕りにした後解剖を試みた際も、直ぐにシャットダウンを始めたと聞いている。調査不十分につき詳細は未だ謎に包まれたままだ。

 死体の胸ポケットに付いているプレートを引き剥がし、腰袋ウエストバッグから短刀を取り出した。

 鞘を抜き、死体の背骨の辺りを切り開く。

 自分の首を切り落とす為に普段から持ち歩いているものだがデータ上一度も使ったことは無い。

 皮を破り白い骨が露わになる。規則的に並ぶその背骨の中でひとつだけ異様な形をしたモノを見つけ、迷うことなく切り落とした。

「……それ、補助記憶装置ストレージか?」

「うん。主記憶メインメモリは諦めよう。ビアンカが真面目な奴だったらきっとバックアップくらい施設に残ってるだろうし、大丈夫だよ」

「真面目だったらなぁ〜」

 隣人はそう言って笑うと、ふらりと身体を倒した。

 無くなった腕から血溜まりが広がっていく。

「勘弁してよレイ。君ってば本体の内部ストレージに保存してるタイプでしょ。男一人担いで帰るの嫌だよ、ねえってば」


 僕は結局、気を失った隣人を担いでとぼとぼと帰る羽目になったのだった。

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