一生の宝物

もなこ

一生の宝物

「栞ーっ頑張れー!

スパンッ!

「──……」


 高校三年生の夏。


「……うっ」

私の青春は涙の味とともに、終わった。


「栞、惜しかったな」

テニス部の引退試合、インターハイで勝てたら伝えようと決めていた。

何かあるといつもこうやって慰めてくれる渚に。

「もう部活はないけどさ、また一緒にテニスしようよ。他のみんなも誘って」

絶対勝ちたかったのに。勝って言いたかったのに。


……好きだよって。


負けちゃったし、もう伝える勇気も出ないよ。


「栞?」

何がいけなかったんだろう。

何であんなミスしちゃったんだろう。

何で──……。


「栞! そんなに気にするな。いつもの元気はどこに置いてきたんだよ。栞らしくないぞ」

「……」


 渚が話しているのに、それすらも入ってこないくらいに落ち込んでいる私を「そうだ」と言って連れていったのは焼肉屋さん。

「こういう時はいつも食って発散するだろ? 俺の奢りだ」

「え、ちゃんと払うよ。ここって高いし」

「いいんだよ。今まで頑張ったご褒美」


今月は金欠だ、とか言ってたくせに大丈夫かな。

少し心配になったけど、せっかく奢ってくれるって言うんだから甘えることにした。


ああ、やっぱり好きだ。

こういう優しいところも、豪快に焼肉を食べる姿も。

私に勇気があるなら、今からでも言えたのかな。

そうは思ったけど、やっぱり今の私にはできなかった。


会計を済ませようとした時、渚は少し慌てた様子だった。

「しまった! お金足りないや」


案の定、私もお金を払うことになったけど、今日こうやって焼肉を食べに来たことはきっと、私の一生の宝物になる。

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一生の宝物 もなこ @ms903love

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