第一章

純一、姫紀の秘書をしながら新婚生活を満喫する

プロローグ「結婚直後の16歳の姪vs27歳の叔母」

「姫紀お姉ちゃん! おじさんを秘書にするだなんて私、聞いてませんっ!」


 おっと、先月まではいつも大人しかった恭子がプンスカだ。ってか、結婚してからというもの、本当に喜怒哀楽が激しくなったなぁ……師匠たちが生きているときよりもイキイキしているかも、だ。


「なによっ! 恭ちゃんだってずっと渡辺さんを独り占めしちゃって、ちょっとくらい良いじゃないよっ!」


 こちらの姫ちゃんも負けじとプンスカプンだ。


 ちなみに俺が姫ちゃんの秘書というのはちょいと事情があって、九州出張から戻ってからいきなり逮捕された俺が、アドレスの本社に出勤したら白井会長から『お主を部長にする為に、小僧には一度退職してもらうからな』と言われ、ジョークだと思っていたら本当にクビになった。


 部長って……アホかい、この爺さんと思っていたが、一般職で入社した俺がそのまま役員になるわけにもいかず、管理職系か企画職系の総合職として再入社する必要があるらしい。


 まあ、その退職から再入社の間を狙って姫ちゃんが動いたそうだ。


『源三ちゃん暫くの間、渡辺さんを貸してちょうだい』


『いやっ、それは、その、参りますなぁ総帥……せめて、少しの期間で良いなら』


 銀行から出向している役員を追い出すために姫ちゃんから借入金を肩代わりしてもらっている白井会長は嫌とも言えず、少しの期間という曖昧な約束をしてしまった。


 ちなみに姫ちゃんは総帥と言っても、吉沢はもう各部門ごとに他企業への吸収が進み崩壊しているので、吉沢の総帥ではなく更に上の存在だ。姫ちゃんは吉沢の株との株式交換で世界に通用する日本のトップ企業23社の筆頭株主になったことから、日本経済界の総帥になったのだ。


「吉沢崩壊以来、ちょっとは人らしい生活が送れると思ったのに、更に忙しくなったんだから仕様が無いでしょう恭ちゃん。樋本なんて毎日死んだ目で仕事しているわよっ」


 そりゃ、姫ちゃんも未だ学園の教師を続けながらだからそりゃ忙しいに決まっているさ。教師、辞めちゃ駄目なんかな?


「私はおじさんを独り占めなんてしてませんっ! せっかく白井会長―――じゃなかった、白井のおじいさまが、九州で苦労しっぱなしのおじさんに、再入社までの間のちょっとした休暇を下さるって言ってましたのにっ」


 あ、これは俺の休暇と引き換えに会長が『お嬢……儂のことは是非おじいちゃんと呼んで下さらんか』と懇願した結果だ。


「あらっ、結婚直後に休暇だなんて、いやらしいわ。本当にいやらしい子ね、恭ちゃんはっ! そもそも恭ちゃんは学生なんだから、私は担任の教師として学園を絶対に休ませないわよっ」


 いやらしいて……おいおい、ぶっこんできたな。


「ふっ、夫婦なんですから、ちょっと位いやらしい方がちょうど良いんですっ!そういうのが夫婦円満に繋がるんですっ!」


「なんですって! この渡辺さんのスケベっ!」

「おじさんは旦那様なんですから、もうちょっとエッチになるべきですっ!」


 二人がいきなり視線をこちらに向けて来ておっかない事を言う。なんでやねん!


「いやいやいやいや……ん? ってか、なんか焦げ臭くないか?」


 キッチンの方からなにやらプスプス匂って来たと思ったら、恭子が悲鳴を上げて走り出した。


「あー!! 焦げちゃいました……もうっ、姫紀お姉ちゃんの所為ですからねっ!」


「しっ、知らないわよっ、今日は料理教室の日じゃないから、私は無関係よっ!!」


 ま、こんなことも在ろうかと、新作のカップ麺を買い置きしてあるから大丈夫だ! と、俺がリビングの扉を開け自室に戻ろうとしながらチラと恭子の方を見てみると、彼女は焦げたフライパンを見つめてはトホホと項垂れながら……


「はあ……姫紀お姉ちゃんは絶対おじさんに無茶ばっかりさせるのが解っていますから、本当は嫌なんですけど……一ヶ月だけですよ?」


「ありがとうっ! 恭ちゃんっ!!」


 4月初旬、33歳になった俺は少しの間と曖昧に言い渡されていた俺の姫ちゃんへの秘書業務の期間が今、決定された。俺は一ヶ月後にアドレス本社に戻れるらしい。

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