第12話

あれからよしさんは来店されるようになった。


『ルリちゃん、本当にシャンパン要らないの?』

「今日はいいです、飲み過ぎちゃうと困るから……」

『困らせたいなぁ~』

「……」


とそこへ、ズカズカと私服で入ってくるサオリ。

『よしくん、どうして連絡くれないの?』

『あんた……わたしのお客さん取ってんじゃないよ!!』

ルリに掴み掛かるサオリ……


『サオリ!止めなさい』

止めるよしさん


よしさんの飲みかけのウイスキーをボトルごとルリに掛けるサオリ。

ルリのドレスがウイスキーで染まる。


『こんな店、辞めてやる!』

とサオリ。


『サオリ!』

と、よしさん

サオリが、店を出ていく。


それを側で見ていたアキさんが来てルリにハンカチを差し出す。

『大丈夫?ルリちゃん』

「……ありがとうございます」

『ルリちゃん、私のドレスを貸すから来て』

「……ありがとうございます」

『あなた、泣かないのね』

「……」

アキさんに渡されたロングドレスを着て出ようとすると、アキさんがドレスの胸元と裾を切る。

「え?」

『この位セクシーな方が目立つから』

「……はい」


店内へ出る。

胸元と、脚がセクシーになったドレスを着たルリをお客様全員が注目する。


『あの子を呼んで下さい』

『こっちにも』

『こっちにも』


次々にルリに指名が入る。


アキさんが店長へ言う

『はじめて戦いたい子が出来たわ』

『やっとやる気になったか……』


それからのアキさんの接客は誰もが一目置く優雅なものだった。


元々銀座のクラブでママだったアキさん……、なぜ五反田の此処に居るのか……。


徐々に売り上げを伸ばすルリ。


そんな時だった。


携帯を更衣室へ置き忘れるルリ。


拾ったユリアがゴミ箱へ捨てる。


それを見ていたミサキ


見てみぬふりをする。


3日間、携帯が無いルリ。


探しても見つからない。

お客様と連絡が取れない。


せっかく顧客が増えてきたにも関わらず、暇になる。


出勤早々、ゴールドのドレスを着た熟女に話し掛けられる。

まるで楊貴妃の様な熟女。


『あなた、元気ないわね~』

「……はい」



『ルリちゃん元気だして。連絡は取れなくてもお客様は絶対来てくれる、

信じて待つことだよ。』

サチさんが励ましてくれる。


「……はい……ありがとうございます」



4日目、携帯を買ってくるルリ。


また一からお客様と連絡先を交換するルリ。


4日経過した頃だった。


お客様が以前の様にルリの所へ戻ってくる。


本田さんが来店される。


『ルリちゃん、大丈夫?携帯失くしたんだって?』


「……どうして?」


『盗まれたの?』


「いえ……」


『店からDMが届いて裏に、携帯を無くしました、ルリ、って書いてたんだよ』


「お店からDMが……?」


『達筆な男の字だったから、店長だろうね。

俺達は初来店時に店長と名刺交換してるんだ。店長は、受け取った名刺の誰がルリちゃんを指名しているか把握してて、全員に送ったと思うよ』


「DM……私には思い付かなかったです……」


『いい店長に出会えて良かったね、ルリちゃん』


「……はい」


『負けるな、ルリちゃん』


「……はい」



帰り際2階の事務所へ上がり、店長へ御礼を言うルリ。

「店長…DM…ありがとうございました」


『以前にも、こういうことがあったんだよね……更衣室に忘れた携帯は戻ってこない……』


「お客様へ御手紙を送りたいので、書き方を教えてください」


『そうですか、いいですよ』

そう答え店長がにっこり笑った。




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