転生の女神

みし

転生の女神

 私が転生の女神の職務について数年ようやく仕事にも慣れてきました。そもそも転生の女神と言うのは天国にも地獄にも輪廻にも不適当な中途半端な人生を送ってきた魂を転生させることが主な仕事です。転生の女神は転生ボーナスと言う異能チートを授ける権能を持っています。その権能を使って魂の価値を追試するのです。もちろん転生の女神と言うのは私一人だけではなく他にも多くの同僚がおります。別に転生を行うのは女神だけではなく男神も行いますが何故か女神の方が9割ぐらいと非常に女神比率が高い職場になっています。


 転生の女神に似た職務に転移の女神と言うものもおります。転生が生まれ変わらせるのであれば、転移は身体はそのままで世界だけ移動させることです。転移者は通常生きている魂を異世界に送り込むので能動的に転移に適した魂を探すところから仕事が始まるところがかなり異なります。転生は既に死んでいる魂を担当するのでかなり受動的な仕事なのです。


 近年、第……この部分は忘れました……管理宇宙銀河系内太陽系第三惑星地球その中の日本と言う島国では転生希望者が非常に多くなり神手ひとでが常時足りない状態が続いていました。そこで異世界転生学部を卒業したばかりの私も異世界転生科に配属されたわけですが、それは大変な仕事でした。


 最近の転生者はやたらと転生ボーナスと異能を要求してくるのです。昔の転生者は転生するかの意思確認だけで済んだと言う話ですが近年は非常に事細かく条件を突きつけてくる転生希望者が多く先輩女神様達も良く泣かされていると聞いたことがあります。


 大変なのはそれだけでは有りません。転生者を受け入れる異世界とのネゴシエーションも大切な仕事です。転生者など要らないと言う異世界の管理神も居りますし、幾ら居ても足りないとぼやいている神様もおります。転生者の能力と異世界の神様の希望をくみ取り最適解を導き出すのもこの仕事が大変なところです。しかし、上手く転生者の能力と異世界の特性が噛み合ったときは誇らしい気分になれます。


 ここ最近で私でも上手くやったと思う転生案件が幾つか有ります。


 記憶に残っているうちの一つは、最強の料理スキルを持ちたいと言う案件でした。その希望に対し、現代最高レベルの料理スキルの異能スキルを付与しました。その少年は「マヨネーズやオムレツで無双できる」と喜んでいました。そこで私はこの能力を最大限活かせる舞台を用意しました。そこは魔王配下の料理人達と冒険者が料理対決をし続ける世界です。世界観的には13世紀ごろのヨーロッパぐらいの感じですが他の技術が停滞しているにもかかわらず料理技術だけが奇妙に突出しており真空料理や分子工学の応用で高分子タンパク質の合成まで何故か実現しており海○雄○が裸足で逃げ出すレベルの料理人がごまんと居る世界です。


 ――ここまで出来るのにろくな薬が作れないのが謎なのですが……まぁ、きっと彼もこの世界で活躍していることでしょう。


 それ以外にもくたびれた青年がやってきてスローライフを送りたいと言う案件もありました。異能が欲しいか効いたところ、食うに困らなければ特に要らないと行っていましたので、ちょうどエデンの園的な異世界が転生者募集をしていたので、そこに転生させることにしました。この異世界は少し変わっており、食糧があまりに豊富なので人は働かなくなり、気候も年中温暖なので服も着なくなり、人付き合いの必要もないので言葉も忘れてしまった世界です。スローライフを送るにはこれ以上申し分ない世界です。ただ異世界の管理神は、このままだと人類が獣になってしまうこと危惧していました。それで人語がしゃべる事の出来る転生者を希望していました。きっとあの青年は異世界でスローライフを満喫していると思います。


 最近の案件では、あらゆる農業の異能が欲しいと言う転生希望者がいました。特にジャガイモも的な飢饉に強い農作物の知識が欲しいと言うものでした。詳しく聞いてみると中世ヨーロッパ的な世界にジャガイモも普及させたいと行っていました。正直、この手の転生者を欲しがる異世界は少ないのですが、ちょうど一件【急募】農業スキルを持つ転生者という異世界が有りましたのでそこの管理神にオファーを取ってみました。


 管理神の説明によれば、この異世界では飢饉で人類が滅亡しかけることが多いので困窮作物を普及させたいという話です。当然、急募の理由も確認します。この仕事は確実な情報を精査し需要と供給をマッチングさせ、転生者と異世界にWINーWINの関係者をもたらすことです。管理神の中にはオオアリクイのような異能を与えて蟻の群れに突き落として世界を滅ぼした馬鹿な神様もいます。もちろんそういう管理神は左遷です。その管理神は堕天して転生者と共に等活地獄送りの懲罰を受けたという話も同僚に聞いた記憶があります。そうならない様にするための転生の女神の事前調査は重責なのです。


 管理神にその手の転生希望者は多いはずなのになぜ急募なのですかと確認を取ります。早速職場備え付けのリモート通信器で管理神に連絡を取ります。リモート通信器が管理神に接続するとまるでそこにいるかの様に管理神の像が映し出されます。


「何か様かな?」


「転生者をご希望の管理神様ですよね」


「如何にもそうだが、何か様か」


「こちら次元世界管理省異世界転移・転生管理局異世界転生科でございます。本局のご利用誠にありがとう御座います。早速、本題に入りますが転生者を急募と言う話ですが?」


「そうだ、それで転生希望者は見つかったのか?」


「その前にヒアリングをさせて貰います。ジャガイモ的な作物を導入出来る転生者をご希望でよろしいのですよね」


「そうだ妾の管轄する世界は寒冷化が起きていてな、人類の滅びかける飢饉が何度も起きるのが忍びなくての寒さに強い作物……例えばジャガイモ的なものを導入出来る転生者を今すぐにでも投入したいのじゃ」


「しかし、ご利用は今回が初めてではないのですよね。前回はどんな内容でしたでしょうか?」


「前回もジャガイモ的な作物の導入の試みだ。しかし失敗に終わってしまったのだ」


「それはどういうご理由でしょうか?」


「前回は、たいそう優秀な農学者を転生させてもらったのじゃ。それに賢者の異能を付けて神の司徒として転生者を送りこみジャガイモの普及を試みたのだ……その試みは当初共和国では上手くいっていたのじゃ……だがな……」


「だが?」


「妾の管轄する世界では聖王国と呼ばれる国が最強国家でな。そこの宗教では地中に生える食べ物と赤い食べ物は全て邪神の恵みという教義になっているのじゃ。ジャガイモ的な作物な作物が広まっていると言う噂を聞きつけた聖王国は共和国を魔王の手下と呼び住民を皆殺してきたのじゃ。転生者も魔王と呼ばれて、聖王国の勇者に殺されてしまったのだ……」


「……それは、みすみす見殺しにされたと言う事でしょうか?」


 そんな劣悪な環境には流石に私の管轄する希望者を送り込む訳にはいきませんし、管理神の管理責任を問われる案件です。


「いや、妾も黙って見ていたわけではない。危機の時、窮地を救おうと駆けつけたのだが聖王国の聖騎士が異常に強くてだな……危うく妾も邪神として封印されるところじゃった……逃げるのが精一杯だったわ……」


 管理神は言います。


「……それはお気の毒でした。まずは受け入れ先の世界の宗教改革が必要な様ですね。私の推薦する人材は必ずやそのご期待に添えると思います」


 その転生者の転生先は調整のすえその異世界の聖王国の農奴に決まりました。最下層の農奴から聖王国の硬直した国体を変革から始めさせることに決定しました。意欲溢れる彼なら上手くやってくえるでしょう。管理神の間で調整が一番困難を極めた部分は転生者の農具の取り扱いは勇者クラスのスキルを与えるとして、どの範囲まで農具と認めるかでした。鍬や鋤はともかくシャベルに関しては農具であることは認められないと説得するのが大変でした。シャベルは最強の近接武器です。私の担当世界に置いては世界大戦における最強の白兵線武器の一つに挙げられているのがシャベルです。……まぁ本の受け売りですけど。そのためシャベルを農具に含めるのは辞めて欲しいと言う提案が一番調整困難を極めました。……最終的には金属シャベルは武器に含み木製のシャベルは農具とすると言う折衷案でまとまりました。


 そして転生希望者を無事転生させました。今頃、あの少年はジャガイモ的な作物を広める為に宗教改革に邁進していることでしょう。我ながら自画自賛したくなる仕事です。


 そろそろ新たな転生希望者が今日も私の所にやってきました。どんな希望も叶えて見せましょう。転生者が扉をくぐってきました。それを見て私は微笑みなら言います。


「ようこそ、異世界転生科へ」

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転生の女神 みし @mi-si

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