エピローグ

Like a......

 ぼんやりと、視界にひずみじみたものを感じる。憔悴し切るほどに力を絞り尽くしたこの体は、きっと以前のようには動かない。きっと自分の命を削り取って子どもを生んだんだってこと、なんとなくだけど自覚があった。

 腕の中に、温もりを感じる。

 柔らかな肌。

 小さな呼吸。

 私の子。

 とにかく今は、もう、本当にクタクタだ。初産とはいえ陣痛から30時間もかかったのはメチャクチャ長いらしいし、こんなに待たしてしまったこの子にも、やっぱり申し訳ないなって思う。

 じっと、その子の顔を見つめていたら、小さいのに大きな瞳がパチクリと私を見返した。生まれたての子どもはまだ目の焦点が合っていないって聞くけれど、この子はちゃんと目を見開いて、両目を動かして周りの人や私のことを見つめている。

 私もそうだったって、お母さん言ってたっけ。

 そのお母さんとお父さんが、ちょっと心配そうな笑顔で私たちを見つめている。二人は不安だろうな。当然だと思う。

 私はレイプされていた……らしい。

 部屋で気を失っていた私は体中がボロボロで、一時生死の境をさまよっていて、しかも妊娠しちゃってて……。

 不思議だな。

 なんでそんな大変なことが、ずっとどうでもいいような気がしてしまっているんだろう。私ってこんなに強かったっけ?

 腕の中で、アッと息をつまらせるような、泣き出すような小さな声。

 濡れてる瞳。

 揺すぶると笑顔になって、息をしていて、顔が腫れてて、眠そうでもまだちゃんと私の顔を見つめている。

 かわいいな。

 不安はもちろんあるし、これからのことはちょっと怖いけれど、でも後悔だけはしていない。

 私にできること、きっと多くはないけれど。

 まずは、あなたの名前から。

 あんまり深い意味は込めたくないな。私の千怜チサトって名前は嫌いじゃないけど、自分が名前ほど賢くはないっていつも思うし、だからもっと単純で、できればきれいな音のような名前がいい。

 そう……。

 ビンゴが女の子だったらつけたかった、あの名前。

 枯らしちゃった青いペンタスのような……。

 大丈夫、もう枯らさない。

 大好きだよ。

 あなたの名前は……。

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