ムラサキと私4

 よどんだ世界を引き裂くような、火薬の音。釘が刺さったみたいな衝撃が、頭蓋を砕く。

 醜い叫び。

 ムラサキの悲鳴が、私の外で鳴り響く。

「ぎゃあああぁああああ!!!!」

 クソッ、やりやがったあの女!!

 ちくしょう、ちくしょう、いたい……!!!

 お、おい、何やってるんだリトルズ!! 頭から出るな!! チサトと僕を治せ!! わからないのか!? 女ってのは一度に一人しか妊娠できないんだ!! こいつが死んだら僕の負けなんだぞ!!!

「……だめだよ、ムラサキ」

 耳元でささやくような、小さな音。

「僕らの、負けさ……」

 負けだと? ふざけるな!! どうしたお前ら早くしろ!! お前らならなんとかできるだろ!! 僕もこのままじゃ死んじまう!!

「ムラサキは知らないんだ……僕らずっと、チサトの頭の中にいたからわかるんだ」

「思い出もたくさん見た」

「優しい女の子だよ」

「つらそうだったけど、楽しかったこともたくさんあった」

「僕らに会うまでは」

 ……はあ?

「僕ら……いっぱいひどいことしちゃったね」

「アカは右目をくり抜いた」

「アオは左手の指を虐めた」

「痛そうだった傷口をもっと痛くして、みんなで寄ってたかって種を植えた。死ぬほど痛いの知ってるから、すごくたくさん植え付けた。心が読めるムラサキの言うとおりに、チサトちゃんが一番されたくないことばっかりたくさんやった」

「全部、踏みにじっちゃった」

「ごめんね」

「ごめんね……」

 なんだよリトルズ!? 今更ほんとに可哀想になったのか? 冗談じゃないぞ!! くそ、本当に時間がない、なんとかしろ!! これは僕の女だぞ!!

「違うんだ、ムラサキ」

「チサトちゃんは僕らの女じゃない」

 はあ?

「だってムラサキ、最後までチサトちゃんのこと操れなかった」

「あれだけ必死になって、ようやく一発撃てただけ」

「頭当たってないし」

「あっちのチサトちゃんなんか、撃たれて死にかけでも頭に当てたんだよ?」

「ムラサキだっさ」

 うるさい!! いいから黙って治せよ!! お前らも僕を裏切るのか!?

 ちくしょう、痛い痛い痛い!!!

 申し訳ないと思ってるなら早くなんとかしろっ!! チサトを元の家に帰してやれ!!

 お前らが治さなかったら……。

 僕も死んじゃうじゃないかあぁああぁ。

「もう……終わりさ」

「足をもがれても、僕らにいじめられても、最後まで心を手放さなかったチサトちゃんの勝ちだ」

「女って強いんだね」

「ね……」

 ふざける……な。

 たのむよ……みんな……血が止まらない……。

 死にたくないよ……。

「ばいばいチサトちゃん……遅いだろうけど、全部、返すね……」

 ぷつんと、声が途絶えた。

 静かだ。

 風の音しか聴こえない。

 ……雪。

 久しぶりに、目が見えた。

 風も感じる。

 よかった……。

 最後は……一人に…………。

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