熱の部

 同書の言及した熱と時間について触れよう。

 論点は二つ。

 熱は時間を生み出すのか。

 熱は何故、不可逆的なのか。


 一点目から考察する。

 どんなエネルギーも質量体を通せば、熱として知覚できる。

 熱はエネルギーだ。

 エネルギーは、仕事を生み出す力である。

 そして、仕事は、対象の変化によって観測される。

 一つの時間は、下記の如く、二つの様相と、変化しうる確率の雲で構成されると考えたのであった。


 過程の始まり、始まりの様相

 確率の雲

 過程の終わり、終わりの様相

 

 仕事は、二つの様相に違いがなければ、表現されず、始まりと終わりで異なる様相を示した、一つの時間を要求する。仕事を証明するとき、時間は生まれる。

 仕事をするものは、時間を作る。

 エネルギーは、仕事を生み出す力であった。

 ゆえ、熱は時間を生み出すという。

 空間の量子が座標を選択する力は、熱によるのであれば、比喩ではなく、真に、熱は時間を生み出している。時空間を司る空間変化と時間形成の、原動力になっている。


 二点目、熱は何故、不可逆的なのか。

 端的に答えると、質量体の振動に規定されるエネルギーだから。

 これには、質量体、エネルギーといった二つの要素が絡まっている。

 解体して個別に見よう。


 不可逆性は、進めない方向を持つ、一方向にしか進めない、方向性を持つ、ということで定義したい。

 時間の場合は、空間の量子が持つ、空間座標を対象にした選択肢のうち、一つが選ばれ、残りは消失する、無から有への方向性がある、ということで、不可逆性を推測したのだった。そのため、過去は消え、「今」しか存在しないと考えた。


 エネルギーは、時間の更新において、不可逆性を示す。

 時間が不可逆的であれば、それに対し可逆性を持つ方が異常である。質量とエネルギーを比較しよう。


 質量は、配列だと考える。ある量子と別の量子が、つかず離れず、一定の関係性を保つ。順不同な量子が空間配列を作るには、引力と斥力の釣り合う場所が、十分な範囲を持っていると都合よい。引力は、どこからくるのだろうか。

 配列では、ある選択肢と別の選択肢の関係性が予定されている。様相から様相へ保存される。

 配列は、質量は、時間に対して可逆的である。

 その分、取りうる選択肢、情報を失う。選べる余地はなく、情報がなく、変化がなく、互いの関係性において、時間が止まっている。ゆえの時間における可逆性である。

  

 エネルギーは、配列を持たない。互いの関係性を保存する術がない。恐らくは、時間における空間の量子と同じく、次の選択は、新たに与えられた確率の雲だけに依存する。

 一度消えた選択肢を取り戻すことができない。

 エネルギーは時間に対して不可逆的である。


 質量が自身の振動を静める性質は、不可逆性を生む。

 これは、質量体の温度が下がるばかりであるのと、高温体から低温体へしか移動しないのと、熱が仕事をするたび減損するのと、三つに影響する。


 熱は、質量体の温度に規定されるエネルギーだ。

 温度は、質量体の振動から求められる。

 では、質量体の振動とは何か。

 なぜ震えるのか?

 配列の中に引斥力を持っており、保とうとするからだ。まるで、生命のような恒常性。

 配列が乱されるとき、平衡へ戻ろうと抗って震えるのだ。さもなくば、配列は外力に任せて散開する。

 熱は、質量体の配列を乱すエネルギーである。


 質量体は、引斥力を安定させる方にだけ進む。釣り合った力が、互いを拘束し、引力は斥力の、斥力は引力の、取りうる選択肢を奪い、消失させる。進みやすい方向を得る。配列が安定し、振動が収まり、温度が下がる方へ、不可逆性を示す。引斥力の釣り合う方に、不可逆性を持つ。

 完全なる空間配列は時間が止まり、静止した配列は、絶対零度となる。


 規定に従うと、温度の高い質量体ほど、多くの熱を失う。

 高温体と低温体が作用し合える関係にあるとき、出入りする熱を考える。

 高温体の場合は、


 自身が失う熱>低温体から受け取る熱

 失う熱-受け取る熱>0


 となって、熱を失い続ける。

 一方、低温体の場合は、

 

 自身が失う熱<高温体から受け取る熱

 失う熱-受け取る熱<0


 となって、熱を受け取り続ける。

 高温から低温にしか移動できないという熱の不可逆性は、質量体が熱を失うばかりであるという性質に由来しているようだ。 


 クラウジウスの不等式。

 熱は仕事をするたび減損する。

 消え去るのは、取りうる選択肢、情報、時間であって、質量やエネルギーではない。それらは、空間座標か、性質を変じるのみである。

 エネルギーは消えるはずがない。熱は、どこで減損するのか。

 そこで、質量体における「全ての」エネルギー収支を描く。


 入力された配列を乱すエネルギー=出力された配列を乱すエネルギー

                 +自身の配列を安定させたエネルギー

 入力された配列を乱すエネルギー>出力された配列を乱すエネルギー


 ここで、出力された配列を乱すエネルギーとは、電子の放出、電磁波の放出、分子や原子構造の破壊に使われ、自身の配列を安定させたエネルギーとは、質量体の振動や、分子原子構造の再編に使われたと推測する。


 入力された熱のいくらかは、自身の乱れを静めるためにも使われるのではないか。引斥力を平衡へ導くエネルギーである。

 しかし、有効な熱とは、配列を乱すエネルギーである。配列を乱さないために使われてしまえば、乱すためのエネルギーは減っていく。

 質量体は、受けた熱を、全て放出できないため、入る熱>出る熱という方向性から、熱が不可逆性を帯びる。

 

 まとめると、熱の不可逆性は、エネルギーの時間に対する不可逆性、質量体が自身の振動を静めるために生じる三つの不可逆性から、混成されているように見える。

 熱の不可逆性は、時間のみが原因ではない。

 実は、熱でなく、質量体が抱える問題なのではないか。


 入力された配列を乱すエネルギーとして、電磁波、力学的エネルギー、空間の量子による斥力が想定される。


 入力された配列を乱すエネルギー=電磁波エネルギー

                 +力学的エネルギー

                 +空間の量子による斥力

                 +未知のエネルギー

 

 熱を記述するには、完全な力の統一理論が必要である。もしくは、全ての力が質量体の配列を乱すと仮定すれば、それらの力は、熱を通して、統一的に表現できるかもしれない。

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