閑話 運営さんは忙しい

「班長~。今日の問い合わせ、どうします~」

「どうしますって、調べるしかないだろ。チュートリアルおじさん惨殺事件もあったんだし」


 賃貸ビルのワンフロア、その一室であるこの部屋にはモニタの載った事務机が並んで居る。

 窓はなく、外部との接点は入口のドア一つ。そのため、常に空調が動いており、机の下にあるパソコンや、ラックに収められたサーバーのファンと合わせて、低いごうごうとした音が流れている。


 ユーザーからの要望、問い合わせ、クレーム。それらは全てこのサポート部門で受け取る。要望であれば「確かに承りました」と回答を返して企画部へ回す。問い合わせは簡単なものであればサポート部門で回答するし、難しいものであれば開発部へ確認する。クレームも要望と同じように企画部へ回すが、大抵は無視される。


 サポート部門にとって一番面倒なのは、難しい質問の中でも開発部から突き返されたものだ。


 今日もそんな問い合わせが入った。

 曰く「クエストが途中で進まなくなった」。大抵は本人の勘違いで、クエスト内容のご案内はしておりませんで片付く話だが、今回のは複数のプレイヤーから同じ問い合わせが入っている。

 場所が分かり難いのか、クエストのヒントが的外れなのか、次のキーになるNPCが見つからないという。


 開発部からの回答は「そんなわけがない」では話にならない。

 そのままユーザーに返したら間違いなくクレームになる。


 それに「チュートリアルおじさん惨殺事件」のこともある。

 本来、NPCへは攻撃出来ない。正確には攻撃したところでダメージを与えることは出来ない。それなのに、新規ユーザーが初めてログインするファーストの街で、チュートリアルの案内をするNPCが殺された事件が起こったのだ。

 街の中は非戦闘区域に設定されていて、攻撃をしても攻撃力ゼロの判定になる。NPCの殺害どころか、傷をつけることも出来ない仕様だ。これは建物等の破壊が行えないように、武器だけでなく魔法にも適用される。


 それなのになぜかNPCがバラバラになって転がっていたという事件だ。

 複数のプレイヤーからの通報で発覚。すぐにNPCの復旧が行われたものの、どうやってバラバラにしたのかは不明。

 開発部の見解は「不可能」。チートの疑いありとして、ログからファーストに居た全プレイヤーのステータスをチェックをするハメになったが、何も得られない結果で終わった。


 バグにしろチートにしろ、原因が分からない以上はいつか再発する。


「カメラ起動してNPCを確認してくれ」


 今回のクエストNPCは昼も夜も同じ場所に居るはずだ。カメラで確認が出来れば、プレイヤーの勘違いで終わる。だが、カメラで確認したNPCは近くの路地でバラバラの死体になっていた。


「班長~」

「うるせえ、他の手がないんだからやるしかないだろ。全員でやるぞ、とっとと端末起動してログ引っ張って来い」


 サービス開始から一年。やっとバグの量も落ち着き、問い合わせの量も減ったはずだが、サポート部門の仕事は一向に減らなかった。

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