怪人ゴライドウ⑤

「フン! ヴレイピンク……貴様、一人でこの俺を倒せると思っているのか? このダークスフィア四騎将の一人……怪人ゴライドウを!」

「やかましいわ! 色々とメチャクチャにされた恨み、晴らさせてもらうで!」


 手に持つハルバートの石突を地面へと叩き付け、威圧的な態度で名乗りを上げるゴライドウに対し、こよみさんはヴレイソードの切っ先をゴライドウの眉間へと照準を合わせた。


 そして。


「うおおおおおおお!」


 ゴライドウがこよみさんに向かってハルバートを袈裟切りに振るうが、こよみさんはバックステップでそれを躱すと、ハルバートが地面にめり込んだ。


「やあああああああ!」


 当然こよみさんはその隙を見逃さず、素早くゴライドウへと詰め寄ると、すさまじい速さの剣撃を叩きつける。


「グ……ム……!」


 ゴライドウはすぐにハルバートを引き戻し、こよみさんの剣撃を受けるが、あまりの手数に防戦一方になる。

 だが。


「ヌウアアアアア!」


 ゴライドウは力任せにこよみさんを押し込んで距離を取ると、今度はハルバートで横薙ぎにする。


「フッ!」


 こよみさんは今度もそれをジャンプで避け、地面に着地すると同時に追撃しようとするが、今度はゴライドウも返す刀でこよみさんを待ち構えていた。


 そしてお互いに睨み合い、膠着した状態になったかと思えた。

 ところが。


「ええい! 面倒だ! 一気にけり・・をつけてくれる!」


 そう吠えると、ゴライドウは口を大きく開け、その中で稲妻を帯びた光が収束していく。


「っ!? ピンクさん! 来ます!」

「うん!」


 僕の言葉に反応したこよみさんは、すぐに避けられるよう身構える。


 すると、ゴライドウは予想に反し、ハルバートを肩にかついで突進してきた。


「っ!? 何やて!?」

「ゴアアアアアアア!」


 マズイ!? いくら変身後のこよみさんとはいえ、ゴライドウとの体格差は歴然だ!


 まともにぶつかったら……!


「ダメだ! ピンクさん、逃げ……!」


 そう叫ぶ前に、ゴライドウがこよみさんに激突する。

 だけど。


「くうっ……!」

「グガガ……! 何っ!?」


 なんとこよみさんはゴライドウの突進を受け止め、つばぜり合いの状態で持ちこたえた。


「ど、どこにそんな力が!?」

「グギギ……知るかあっ! これは元々や!」

「グ、グオオ……!?」


 これ……むしろ、押し返してないか……!?


「ブ、ブルーさん!?」


 僕は確認の意味もこめて青乃さんへと振り向くけど、青乃さんも茫然としながら二人の闘いを眺めていた。


「さ、さあ……観念しいやっ……!」

「ググ…………!」


 その時。


「カアッ!」

「っ!?」


 ゴライドウの口から、ヴレイキャノンを跳ね返すほどの威力を誇るゴライドウの必殺技、“ジオイヅナ”が放たれた。


「こ、こよみさんっ!? こよみさ——んっ!」

「ま、待て耕太! 今行ったら巻き込まれるぞっ!」


 慌てて駈け寄ろうとする僕を、青乃さんが制止する。


「だ、だけど! こよみさんが! こよみさんがあっ!」

「お、落ち着けって! ほらあれっ!」


 青乃さんは僕を抑えながら、指を差す。

 その方向へと目を向けると、こよみさんはジオイヅナを躱したのか、全くの無傷だった。


「よ、よかった……」


 僕は安堵のあまり思わずその場でへたり込んでしまった。


「なっ!? あの距離でのジオイヅナを躱すだと!?」


 ゴライドウは超至近距離で放ったジオイヅナが躱されたという事実に、驚愕の表情を浮かべる。


「お、お前……お前……お前えええええええ!」


 一方で、無事躱したはずのこよみさんが、これ以上ない声で叫んだ。

 い、一体何が……? ど、どこか怪我でもしたのか……!?


「ウ、ウチが子どもの頃から夢見て……一生叶わへんと思ってて……せやのに今日、たった一度きりの夢が叶って……そんな、そんな……大切な場所……壊してえええええ!」

「…………………………え?」


 僕はゴライドウが放ったジオイヅナの斜線の先へと視線を移す。


 すると、白雪姫城が先程のジオイヅナによって、その外壁の一部が破壊されていた。


「お前だけは……お前だけは絶対に許さへんっ! くらえええええ!」

「っ!?」


 こよみさんは今まで以上の速さでゴライドウに肉薄し、ゴライドウも迎撃しようとハルバートを構える。


 だが。


「うわああああああああ!」

「グッ……ガ、ガガ……!?」


 こよみさんの速く、そして重い連撃に、ゴライドウは手も足も出ず押し込まれる。

 そして。


「やあああああっ!」

「ぐわあっ!?」


 こよみさんが放ったかち上げの一閃によって、ゴライドウの左腕が切り落とされた。


「トドメやっ!」


 こよみさんはゴライドウめがけ、渾身の力を込めた突きを放つ。


「っ! カアッ!」

「なっ!?」


 まさか、このタイミングでジオイヅナを!?


「こよみさんっ!?」

「デカイ口さらしおって! 終わりやあっ!」


 そんなジオイヅナさえもお構いなしに、こよみさんはヴレイソードをその開いた口に突き入れた。


「グアアアアアアア!」

「うわっ!?」


 ゴライドウはやみくもに腕を振り回し、こよみさんはヴレイソードをゴライドウに突き立てたまま、後ろへと飛び退いた。


 ゴライドウの断末魔の叫びが、園内にこだまする。


 そして。


「グ……グギ…………」


 ゴライドウは膝から崩れ落ち……沈黙した。

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