初めてのデート②

「さあ、行きましょうか!」

「う、うん……」


 今日のこよみさんはデート仕様ということで、白のブラウスにデニムのホットパンツ、黒のストッキングにこげ茶色のローファー、アクセントとして皮のサスペンダーと紺色の麻のキャスケットを被っている。


 そして、その唇は淡いルージュが塗られていて、普段とは違う雰囲気をかもしだしていた。


 ナニコレ! 控えめに言って、メチャクチャカワイイんですけど! 最高にカワイイんですけど!


「ど、どうしたん耕太くん、そんなジーっと見て」

「あ……その、こよみさんが、可愛すぎて……見とれてました……」

「はわわわわわ!? そ、そんなん嘘や! ウチが可愛いやなんて、そんなことある訳……」

「そんなことありますよ! ちゃんと鏡で自分の姿見たんですよね!?」

「そ、そらもちろん見たけども!」


 僕がどんなに褒めても、こよみさんはワタワタと否定する。


 こよみさんは……こよみさんは本当に素敵なんだから、もっと自信を持つべきなんだ。

 だったら僕が……僕が、こよみさんが自分に自信が持てるまで、何度だって言い続けてやるんだ!


「……僕が嘘を言っていると思いますか?」

「…………………………」


 こよみさんは俯きながら、無言で首を左右に振った。


「そ、そういうことですから、その……僕の、僕の言うことを、信じてください……!」

「…………………………うん」


 こよみさんは頬を赤らめ、聞こえるかどうか分からない程小さな声で返事をした。

 とりあえず今は、それだけで十分です。


 ですが……覚悟しておいてくださいね?


 本気になった僕は、こんなものじゃないですから。


 ◇


「はわあ……耕太くん耕太くん! 見えてきたで!」

「はい!」


 僕達はヴレイビークルのモモにタンデムしながら、湾岸道路から見える東京デスティニーワールドを見て思わず声が弾む。


「な、なあ! あの真ん中に見えるん、アレが“白雪姫城”やんな!」

「ええそうです!」

「はわあ……! ウチ、一度でええから行ってみたかったんや……」


 こよみさんが感嘆の溜息と言葉を漏らした。


 そして僕達は、デスティニーワールドの駐車場にモモを停める。


「こ、耕太くん! 早よ中に入ろ!」


 はしゃぐこよみさん、可愛いなあ……。

 おかげで僕は最高の気分だ。


「あはは、はい!」


 そして僕は小さな勇気を振り絞り、こよみさんに向かって右手を差し出す。


「あ……」

「えっと……人が多いし、は、はぐれるといけませんから……」

「こ、耕太くん……その、ウチなんかと手、つないだら、周りから変な目で見られたり、その……」

「見られません。むしろ他の人達から羨ましがられるんじゃないでしょうか?」


 そう言って、僕は少し強引にこよみさんの左手を取り、離れられないように恋人つなぎにした。


「あ、こ、これ……恋人つなぎ……」

「はい……こ、このほうが手が外れませんから……」

「う、うん……」


 こよみさんは少し戸惑いながらも、少し強めに握り返してくれた。

 よかって……受け入れてもらえなかったらどうしようかと、内心でヒヤヒヤしてたから。


「な、なあ耕太くん……デスティニーワールドって、その、“夢の国”なんやなあ……」

「ああ、たしかそんなキャッチフレーズでしたね」

「せ、せやからその……これも、夢……なんかな……」


 こよみさんが顔を赤くし、はにかみながらそんなことを言った。

 だから僕はこう答える。


「こよみさん、これは現実ですよ。それに……僕は今日を、“夢”なんて言葉で片付けたくありませんから……」

「……………………なあ耕太くん」

「はい」

「……ウチ、信じてええの? ホンマにこれが現実やって、そう思ってええの?」


 見れば、こよみさんは今にも泣きそうな顔で、声を震わせながらそんなことを僕に尋ねた。


 もちろん、僕の答えは決まっている。


「はい!」


 僕はそう返事して、力強く頷いた。


 そして、こよみさんの瞳から涙が零れる。


 それを僕は、空いている左手の人差し指ですくってあげた。


「んっ……」

「こよみさん、まだデートは始まったばかりです。もちろん、こんなものじゃ済みませんから、覚悟してくださいね?」


 僕はこよみさんにできる限りの笑顔でそう宣言すると。


「うん!」


 彼女も、僕の大好きな満面の笑顔で返してくれた。


「さ、行きましょう!」

「ん……うん!」


 そして僕達は、スマホを取り出し、アプリをたち上げて入場パスになるQRコードを画面に表示させると、ゲートにタッチして中へと入る。


「はわあ……!」


 飛び込んできた景色は、まさに“夢の国”と呼ぶにふさわしい光景だった。

 こんなの、女の子は絶対喜ぶに決まってるよね。


 さて……それじゃ、感動で固まっちゃったこよみさんを元に戻さないと。


「それじゃこよみさん、どれに行きますか?」

「…………はわ!? そ、そやね、もちろん“白雪姫城”で!」

「じゃあ早速向かいましょう!」

「うん!」

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