初めてのデート①

「うん! 今日は快晴だ!」


 興奮冷めやらぬ僕は、朝四時過ぎに目が覚めると、カーテンを開けて天気を確認する。

 まだ宵闇といったところだけど、あと三十分もすれば朝日が昇って明るくなるだろう。


 僕はこよみさんが寝ている隣の部屋を見ながら、思わず頬を緩める。


 そして、スマホを操作して、デスティニーワールドのアプリを開き、今日の開園時間やeチケットのQRコードなどに間違いがないか念のため確認する。


 うん、大丈夫だ。


「さて、それじゃやるか!」


 僕は両頬を叩いて気合を入れると、キッチンへと向かった。


 まず、昨日のうちに研いでおいたお米に水を張り、炊飯器のスイッチを押す。


 次に冷蔵庫から食材を取り出す。


 ソーセージ、卵、合い挽き肉、梅干し、レタスにプチトマトにブロッコリーに……それとパプリカにピーマン、そして玉ねぎ。

 あ、あと、買っておいたさくらんぼとキウイを出しておかないと。


 まずブロッコリーを茹でながらレタスとプチトマトを水洗いし、レタスは手で少しちぎる。

 次にピーマンを半分に割って種を取り、パプリカは一口サイズの大きさで三角の形になるように切っていく。

 おっと、玉ねぎをみじん切りと櫛切りにしないとね。


 鍋にたっぷりの水を入れて沸騰させたら、ブロッコリーを丸ごとと、切ったパプリカを茹で、二分ほどしたら取り出す。

 ブロッコリーは一口サイズに切ってサラダに。

 パプリカはよく水気を切ってボウルに入れ、オリーブ油、お酢、砂糖、塩コショウを入れて混ぜ合わせてマリネにする。


 卵はこよみさんが大好きな甘めのだし巻き卵にするので、卵三個に多めの砂糖と、顆粒だし、塩をそれぞれ一つまみ、しょうゆも小さじ半分程度入れ、水を加えてよくかき混ぜる。


 熱した卵焼き用のフライパンにしっかりと油を引き、卵液を流し込んで半熟の状態でくるくる巻いていく。

 その後も油を引いては卵液を流し込み、そして巻くことを繰り返し、す巻きで形を整えたらだし巻き卵の完成。


 合い挽き肉にみじん切りした玉ねぎ、パン粉、牛乳を入れ、塩コショウで味付けをする。

 今度は半分に割ったピーマンに小麦粉をまぶし、その中に混ぜ合わせた挽き肉を詰める。


 そして、熱したフライパンに油を引き、肉の面を下にして焼く。

 一分ほどして焼き色がついたら裏返し、大き目のスプーン一杯程度の水を加えてフライパンに蓋をして蒸し焼きにする。

 五分経ち、蓋を開けて取り出したらピーマンの肉詰めの完成だ。


 で、今度はそのフライパンにケチャップ、しょうゆ、みりんを入れて軽く煮詰め、肉詰めのソースにする。


 フライパンや使った調理器具を洗い、水気を取って再度フライパンを火にかけたら、今度はソーセージを焦がさないように焼いて……うん、これでいいかな。


 ——ピーッピーッ。


 お、ごはんが炊けたぞ。


 炊飯器の保温を切り、釜を取り出すと、空気を含ませるためによく混ぜる。


 そして、置いたラップに拳大のごはんを乗せ、種を取り除いた梅干しを真ん中に置いて塩を振り、ラップで包んだら三角に握る。

 これを繰り返して……うん、朝ご飯の分も含めて六個もあれば十分かな。


 包んだラップを取り外し、のりを巻いておにぎりのできあがり。


 後は、おにぎり、ピーマンの肉詰め、だし巻き卵、パプリカのマリネ、レタス、プチトマト、ブロッコリーをお弁当箱に盛り付けて……うん! 完成だ!


 それとは別に、半分に切ったキウイとさくらんぼを別のタッパーに入れて、と。


「……耕太くん、その……おはよ」


 ふと見上げると、こよみさんがパジャマ姿でもじもじしながら立っていた。


「こよみさん、おはようございます! 昨日はよく眠れましたか?」

「は、はうう……それが、あんまり寝られへんかって……」

「そ、その……実は僕も、でして……」


 だって、仕方ないよね?

 こよみさんとの初デートで、しかも、僕は今日、彼女に告白するんだから。


 青乃さんに何度も相談してアドバイスをもらったけど、ほ、本当に上手くいくのか不安で……。


 でも、それ以上にこよみさんとデートする事実が飛び上がりそうなほど嬉しくて……。


「あ、そ、そうだ! それでしたらすぐ朝ご飯にしますから! あ、ただ……」

「あ、ど、どないしたん……?」

「い、いえ、お弁当に集中しちゃって、その、今日はお味噌汁とおにぎりだけになってしまいますけど、いいですか……?」

「え、そ、そんなんもちろんええよ! そ、それより、お弁当……ありがとう……」


 こよみさんは顔を赤くしながら、声が尻すぼみになりながらお礼を言ってくれた。


「な、何言ってるんですか。お弁当はこよみさんの笑顔が見たくて、僕が好きでしてるだけなんですから!」

「は、はわわわわ!?」


 その言葉に、こよみさんはますます俯いてしまった。


「と、とにかく、すぐ準備しますからリビングで待っていてください」

「え、あ、そ、その、ウチも手伝う……」

「あ、ほ、本当ですか? ありがとうございます!」

「うん……」


 本当はあとはお味噌汁を作るだけだからすぐできるんだけど、僕がこよみさんの傍にいたいから。その申し出はありがたく受けよう。


「じゃ、じゃあ、お味噌汁を一緒に作りましょう。まず……」


 僕はこよみさんと一緒に玉ねぎのお味噌汁を作った。

 それをお椀によそい、おにぎり、お茶を一緒にテーブルへ。


「「いただきます!」」


 僕達はいつものように向かい合わせに座りながら朝ご飯を食べる。


「そ、そうだ。こよみさんはデスティニーワールドでは、どのアトラクションに行きたいですか?」

「あ、ウ、ウチ? ウチはその……わ、笑わへん……?」

「? はい……?」


 笑うような面白いアトラクションってあったかな?


「…………………………“白雪姫城”……」


 ああ、あのお城!

 もはやデスティニーランドのシンボルになってる有名なアトラクション!


「うん! いいですね! ぜひ行きましょう!」

「はうう……うん……」


 ああ、恥ずかしそうにするこよみさん、可愛いなあ……。


 その後も僕達はそんな会話をしながら、楽しい朝食を過ごした。

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