正体①

■スオクイン視点


「で……今回の失態、どう責任を取るつもりなんだ?」


 イタチソードがこちらを一瞥し、冷たく問い質す。


「フン! 所詮新参者の分際で、四天王というポジションは荷が勝ちすぎたか?」


 ゴライドウが皮肉交じりに嘲笑する。


「まあまあ、まだ最初なんだからさ。ちゃんと挽回のチャンスは与えないと。ねえスオクイン?」


 カネショウがあどけない笑顔で私の顔を覗き込む。


 ……フン、コイツ等、今までなんの対策も取らず、ここでふんぞり返ってたくせに。


「大丈夫よ! 今度は絶対に失敗しないわ!」


 そんな三人に対し、私は高らかに言い放った。


「……どうしてそう言い切れる?」

「フン、古参の四天王なのに、そんなことも分からないの?」


 イタチソードの問い掛けに私は鼻で笑ってやった。


「簡単よ。ヴレイピンクの弱点、そしてその正体を今度こそつかんだからよ」

「「「弱点!? それに正体だと(だって)!?」」」


 三人が声をそろえて聞き返す。


「ええそうよ。彼女には致命的な弱点がある。しかもその正体は……」

「「「それは……?」」」

「ふふ、あなた達に言うと思うの?」


 浅ましい。

 こんな無能達にそれを教えて、手柄を横取りされてはたまったものじゃない。


 私はヴレイピンクを倒してダークスフィアでのし上がり、そして……そして、この日本を壊滅に追い込んでやる!


 私のお父さんを利用するだけ利用して殺した、日本政府の薄汚い連中を……!


 ◇


 ■こよみ視点


 次の日、ウチは市ヶ谷にある司令本部に顔を出す。


 司令本部は文字通りヴレイファイブの活動拠点であり、ここにはウチ達五人や高田司令のほか、大勢のスタッフが日夜平和のために汗を流している。


 本部執務室内に入ると、そこにはヴレイファイブの他の四人が談笑していた。


「お、誰かと思えば鷲の宮の怪人を取り逃したピンクじゃないか。よくここに顔を出せたもんだ」

「…………………………」


 顔を合わすなり早速嫌味かい。

 ヒマな奴。


「俺達はといえば、永田町に現れた怪人を見事瞬殺してやったよ。やはり、ヴレイキャノンをお前を除く四人でも撃てるように改良されたのが良かった」


 で、次は自慢か。

 オマケに、倒した怪人の正体も知らん、と。

 おめでたい奴。


「……俺の言っている意味が分からないか?」

「……意味って何や?」


 ウチが尋ねると、レッドが下品な笑みを浮かべた。

 とても戦隊ヒーローとは思えんほど醜悪な笑みを。


「つまり、お前はヴレイファイブにとってお荷物でしかないってことだ!」


 ……こんなアホ、いちいち相手にしてるヒマはない。

 適当に話し合わせて、さっさと司令のトコ行かんと。


「ハイハイ、そら良かったな。ほなウチは、これからはソロでやらせてもらうわ」


 そう言うと、手をヒラヒラさせて司令室へと向かった。

 相変わらずレッドはウチのこと睨みつけとったけど、無視や無視。


 コン、コン。


「どうぞ」


 司令室のドアをノックすると、女性の声で返事が返ってきた。

 司令の秘書さんや。


「失礼します」


 ドアを開け、司令室の中に入ると、司令は高そうな椅子に座りながらパソコンとにらめっこしていた。


「やあ、桃原くん……昨日は大変だったね」

「はい……せやけど、一番大変な目に遭うたんは、耕太くんですから……」


 司令は席を立ち、部屋の中央にあるソファーへと座り直すと、ウチにも同じように座るよう促した。


 ウチは司令の正面に座ると、秘書さんがお茶を出してくれた。


「……それで、話があった“紫村由宇”の件だけど、君の指示通り監視レベル四で警戒を続けているよ」

「ありがとうございます」

「で、理由は教えてくれるんだよね?」

「はい」


 ウチは昨日のことについてかいつまんで説明した。

 まず、昨日永田町で出現した怪人に対処するためウチが向かった後、耕太くんあてに紫村由宇から電話があったこと。

 耕太くんが待ち合わせ場所の駅に着くと、そこに怪人が現れ、そして襲われたこと。


「……何より、昨日の夜中、耕太くんの入院先に見舞いにやってきたんです。誰も知らへんはずやのに……」

「ふむ……さすがにその話を聞けば、君がそこまで警戒をするのも頷けるな」


 司令は顎をさすりながら思案する。


「うん、よく分かった。今後も警戒を怠らないようにしよう。他の隊員達にも、共有しておく」

「はい……せやけど、話はこれだけやないんです」

「ん? まだ何かあるのかい?」


 司令は訝しげな表情でこちらを見る。


「……怪人についてなんですけど……そもそも、怪人っちゅうのは、一体なんなんですか?」

「怪人かい? それは、ダークスフィアが生み出した生物兵器、というのが正しいのかな……動物を模した個体に人間並みの知能と特殊能力を備えた……いや、すまん。実はまだよく分かってないんだ。研究は続けているんだが……」


 そう言うと、司令は渋い顔になり、ウチから視線を逸らした。


「……“元”人間、って可能性はないんですか……?」

「…………………………」


 ……やっぱり。


 司令のその表情と沈黙が、それが事実やと物語ってる。


「……一つ聞いていいかい? どうして君はそう思ったんだ?」

「……耕太くんが教えてくれたんです。鷲の宮と永田町に現れた怪人が、同じ大学の学生やと……」

「そうか……」


 司令室内に沈黙が続く。


 しばらくして沈黙を破ったのは司令やった。


「……桃原くん、このことは絶対に他言してはいけない……もちろん他の隊員にも。無用な混乱を招くだけだからな……」

「つまり、これからもウチ達に“殺人”を続けろ、ちゅうことですか?」


 そう告げると、司令は静かにかぶりを振った。


「……それは違う。彼等は既に“人”ではない。彼等は……“怪人”だ。」

「そうですか……」


 一体、ウチの存在意義は何なんやろか……。


 耕太くん……ウチ……ウチ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る