第11話 渡辺さんの逆襲?

マックにて、わりと決まっている、渡部くん。普段は、カジュアルなジャケットを羽織っての登場だった。

「ま、こんなものさ。」

「学校ではだれてるようだけど、わりとプライベートはしっかりしているのね。」

「学校が好きな奴がいるか?」

「そのために受験したんじゃないの?ねぇ。」

「委員長好きだもん。ゆっこは頑張ったよね。」

「友達と過ごせない日常なんて考えたくない。」

「そうだよなぁ。何故か足が向いちゃうんだよなぁ。」

 と、前言は詮索であったかのように言葉を紡ぐ。

「なんでいいんだろう。渡辺みたいのがいるのに。」

「楽しみは、自分の世界があるからでしょう「渡部席」」

「なるほどな。そっか、そっか。」

「今は、もうなくなっちゃったけど。」

「でも、人間、右利きだからな、右隣も悪くない。風の通りは問題ないし、退屈しないしな。」

「渡部。あなた、何かしら私を意識しているようだけど、怒っているんでしょう。からかい半分にものをいうのは慎みなさい。不愉快なのよ、その言い方。」

「角席問題。同じ、人生を歩んでるんだ。大抵のことはわかりあえるだろう。」

「そうかしら。全然意識のレベルで違う生き物だと、私は、思いますけど。」

「お前は、男を知らなさすぎる。笑いは、とっくに文化だろう。」

「それはそうかもしれないけど。」

「それにお前は、自意識過剰だしな。」

 渡辺さんは、「渡辺席」理論から、自己形成を行っているので、その言葉は禁句だった。

「それは、あなたには、わからないわよ。あなたは、将来を考えたことあるの?」

「これだから、女ってのは。」

「何よ、女だったら、何だっていうの!」

「いろいろ、大変だろうなと思って。」

 呆れ顔で嘆息する、渡部くん。

「あら、あなた、私を誰だと思って?」

「ひとりさみしく、ねぇ。」

 渡部くんの企図したことが違う返事で、渡辺さんは答え、苦悶する。

「淋しいのはあなたの方じゃないの。」

「委員長、話題替えようよ。つまらないよ。」

「そうそう、春の新色コーデ、気づいてる?」

「そういう話題なら、俺も、大歓迎だよ。他にどんなの着ると思う?」

「え~、それ以外ないっぽい?」

 ゆっこが、答えた。

「ジャケットだけ、定番だからなぁ。」

「あたしらも似たようなもんか。」

「服のレベルは、みんな似たり寄ったりって感じ?」

「でも、いいんじゃない、ベストコーデで。悪いとこなんてないわよ。」

 渡辺さんは、わりと服にはうるさい方だが、フォローを入れている。

「で、なんで、渡部くんだけ誘ったわけ?」

「友達がいないんでしょ。」

 渡辺さんがそっけない返事をするので、委員長が話を修正する。

「転校生だったんだよねぇ。」

「そういえば、そうだったわね。「渡部席」から、移ったの?」

「俺の指定席は、学校無関係なの。」

 ちょっと、ドヤってなった、渡部くん。

「わかった。渡部くんの転校した理由が。あなた、やはり使い方を間違えているのよ。」

「そっか、そうだよな。お前みたいな性格、男の俺じゃむかないわ。ずっと、思ってきたんだよ。大きな声でしゃべりたいとか、どうせなら面白い方がいいとか。でも、俺ほんとは、こういう男なんだよ。ただ、思い付きで好きなことやって。いつの間にか、周りから取り残されて。渡辺みたいに、頑張ってないもんな。」

「!」

 渡辺センサーが作動した。こいつは、救わなければいけない人間なのかもしれない。

「そんなことないよ。あなたにだって、探せばいい面が見つかるはず。」

「例えば?」

「う~ん、顔くらいかな。」

「イケメンだって思ってなかったの、渡辺さん。」

「だって、彼、私が直接顔見る機会がなかったんだもん。意地悪な声は、さんざん聞かされたけど。」

「俺アピールしてなかった?」

「子供っぽいガキとしか思ってなかったわ。」

「じゃあ、今ここで伝えたい・・・。」

 渡部くんは、信剣になる。

「ああ、ここマックの中だからね。知らない人いっぱいいるからね。」

 渡辺さんは、焦りだした。

「俺は、渡辺さんのことが・・・。」

「それはダメ。あなた、頭悪そうだもん。」

「本気を出せば。・・・長い目で見てよ。」

「そうね。受検勉強もあるから、今日は、この辺でお開きにしましょうか。ゆっこと委員長は、どう?もう少し残ってく?」

 と、渡辺さんは、ポテトとコーラを載せたトレーを運ぶ。

 その背中越しに、渡部くんは言った。

「好きです。渡辺さん。」

「今、始まったばかりよ。1年かけて。少し、遅すぎたみたい。」

渡辺さんは、何の気なしに、ごみを処分していたが、それでも熱くなる心音は熱を保つ。

「相性最悪ね。悪いけど。」

「そんなことないです。一生ついていきますから。」

「ついてこられても、迷惑なだけです。」

「あ、でも、3年生になれば、距離縮むじゃないですか、また、渡辺、渡部に。待ちますよ、俺!」

「そうね、相手はしてあげてもいっか。ただし、早弁はしないで、一緒に食べてあげるから。」

「ありがとう。」

 などという、茶番を演じていたのだが、これがボーイミーツガールということだろう。


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