第3話 渡辺さんと渡部くん

 入学時の自己紹介で、渡辺は、何度やっても苦手な自己紹介について、いつも、前人を踏まえなきゃいけないというささやかなプライドと若干のズルさがある。まず、自己紹介のネタを考えてきたのを見て見よう。

「渡辺ゆかりです。趣味は、最近はちょっと読んでないけど読書とか、ダイエットとかの本も読みますけど。新聞が好きなので、新聞部に入りたいかな。でも、写真とかもいいですね。まあ、趣味でできるものですが。あ、うまい人いたらインスタについて誰か教えて下さいね。機械は苦手な方で。好きな科目は、国語。古典が好きです。こんな私でよければ、ぜひ委員長も立候補しちゃおうかな。」

 現実は、

「渡辺ゆかりです。趣味は、読書です。委員会に興味があります。」

 そして、休み時間。旧友が、さっそく「渡辺席」に集まってきた。

「なになに、渡辺さ~ん。小さくまとめてきましたね。」

「からかわないでよ、緊張しーなんだから。」

「委員会、またやるの?」

「面倒じゃないでしょう。」

「また、小学校の頃から、同じ自己紹介だよね。」

「だって、みんなに取られちゃうし。」

「あ、私のインスタ見て見て。」

「あっ、おもしろい。わたしもやろうかな~。」

「渡辺さん。渡辺さん。インスタやめといた方がいいよ~。」

 彼女は、渡辺さんを守る会を自称する人物だ。

「事件に巻き込まれるわけでもなし。」

「そうでも、ないらしいよ。不用意に男子よんじゃうらしいよ。」

 ひそひそと耳に入れる。

「そういう面もありか。」

「委員会やるなら、それでいいじゃない。」

「そっか~、耳に入れとく~。」

「ふ~ん、インスタヤバスだってさ。」

「へ~。」

 いつの間にか、人垣が出きてしまうのは、「渡辺席ネットワーク」と呼ばれ、代表して渡辺さんが、恩恵を受ける仕組みになっている。渡辺さんも、そこはわかっているようで、声の大きさや、友達からあぶれた子を引きこんだりと、面倒見がいい。

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