渡辺さんと渡部くん

稲兎谷ぴょん

第1話 渡辺さんってどんな人?

 春の陽気が、新たな息吹を目覚まそうと雪解け水を運んでくる。そんな中、今年も春が訪れたのだなぁと、いつになく、充実した顔で、顔に水を当てる渡辺さん。


「ふーっ、まだ冷たいや。」


 ちょっと、顔を洗うには早いと思われたのだが、まだ温いベッドが彼女の今の行動を証明する。春が来たのだ、と。これから、北国では涼しく、とげを差すような風もない、北国の春を始めるのだ。目ざましに目をやると、「まだ、7時。みんなのお弁当でも、作っておくか。」朝は、包丁のトントンという伝統はどこへやら、まるで工作室の様に、抜型を使って、弁当を飾っている。これが今の少し意識高い系の女子高生の作るお弁当。私は、「特別よ」という自意識とプライドが、日ごろの努力の推進力となっている。それに、学校にさえ行っていれば、私は、その「特別」を、また得られるのだから。彼女は、セーラー服にもぐると、さっと腕を伸ばし、ホックを閉じた。よしっ、がっこいこ!


 通学路には、タンポポが咲き乱れ、今年も元気だなと思う。自転車をゆっくり漕いで、わき道にそれちゃったり、危険なんだけどね。車道も歩道自転車には居場所がないのだ。それでも、通学時間帯は、制服のせいか、意外と道を譲ってくれるのね。こういうのって、ホントに小さな気配りだけど、嬉しくなる。バカな男子は、腕を見せたいのかな?邪魔としか思われない腕で、遅刻と格闘でもしてるのかな。見当もつかない。

 桜はまだ早いけど、入学式には間に合うかな。今日は、高校生活ガイダンスの日なんだ。

 靴箱でゆっこたちに会って、教室がA組だって教えてもらったから、さっそく荷物を片付けて、まずは旧友たちと仲良くおしゃべりかな。何をこれから習うのか、高校生のあるべき姿、進路の決定、いろんなこと学校の先生に言われたけど、何とか入った高校だもんね、勉強に部活、双方楽しんで、好感度あげてかなきゃ、将来困るゾ。


新しい憧れの生活がまた出来るんだ、髪形とか、私服も必要かしら。と、鏡台の前で、にらめっこをしている。眉は太めに、リップはどうしようかな。ファッション誌をベッドで広げる渡辺さん。背は高い方なので、セーラー服より、ブレザーの方がいいかな、などと考えたりもしている。制服自由ってのは、ちょっと本末転倒な気がするけど、こんな町じゃね。と、少ししょんぼり。でも、街に活気を!このくらいのことは、できるときにしておかなきゃ。せっかく、学校のある街なんだから。そうして一晩が過ぎる。

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