第2章・超魔王と称号持ち
第43話・引力光線
「こちらリーダー、いま標的の背後についた。オーバー?」
「こちら1B班長。現在、ターゲットの右舷側を移動中」
「左舷に4人配置完了」
「こちら2C班、先回りは済んでるぜ」
ヘスペリデス東南エリア、アルゴスヤカールの森と呼ばれる熱帯雨林。
その街道(なぜかタイヤの跡がある)をボンヤリと歩く素人コンビが、合同PKパーティー13名のターゲットである。
憐れな犠牲者(予定)は、トゲトゲ風味の厨二コーデを決めた長身イケメン大剣持ちと、和風の
数多くの対戦勢が棲息し、隠れ場所や隠しルートが数限りなく存在するジャングルで少数パーティーを組むなど、正気の沙汰とは思えない。
「対魔獣勢かな?」
アルゴスヤカールの森は強力な大型魔獣が多く、対魔獣勢にも人気のあるフィールドだ。
「こちら2Aシーカー。あいつら拒否ってませんぜ」
3秒間のロックで拒否設定の有無を確認できるスコープ型スキャナーを持った、偵察担当メンバーからの報告である。
2つのパーティーを3班ずつに分け、それぞれに(魔法の)通信中継機を持ったメンバーを配置しているため、パーティー内チャットの限定範囲が大幅に拡大されている。
各班の連携を重視する大規模パーティーやクランには、必須の装備だろう。
「変だな……」
ヘスペリデスはコンフィグ画面の操作により、誰でも簡単に対戦拒否に設定できるため、対魔獣勢がこれをやっていないのは明らかにおかしい。
「罠……かな?」
「それなら最低でも4人はいるだろ」
隣のサブリーダーが反論する。
「じゃあ初心者か」
「装備からして素人って事はないだろうが、対戦勢の少ないエリアから引っ越したばかりなのかもな」
大柄な大剣持ちと、幼い少女に見える砲手の防具と服装は、細かいパーツを寄せ集めたスクラッチビルドで
きっとかなりの手間と時間とノウハウをつぎ込んでいるに違いない。
「ファッション勢かな?」
「あまり戦闘は得意じゃないと見た」
リーダーは3秒考えてから決断する。
「やるか」
「やろう」
「やってやるぜ」
そういう事になった。
「総員、包囲網を縮めろ。仕掛けるぞ。ただし伏兵に注意だ」
彼らはPK厨ではない。
そもそも合同パーティーを組んで森に入ったのは、大規模PvPを想定した演習を行うためである。
だが先ほどメールで相手チームの遅参を報らされ、彼らは時間を持て余していた。
「オードブルには、ちょいと物足りねえかな?」
せっかくの合同パーティーなのだから、もう少し歯ごたえのある獲物が欲しい。
「文句を言うな。俺たちは演習に備えて1人も欠ける訳には行かないんだ。ここは相手を選ぼうじゃないか」
サブリーダーが仲間をたしなめる。
「掃討戦の練習台だと思え。落ち武者の人数なんて普通こんなもんだ」
「へいへい」
「これだけの戦力差だ。全員、無傷で敵勢力を殲滅しろ」
「こんなところで回復アイテムを使う訳にも行かねーからな」
「
「ひょっとして俺、出番ないの?」
2C班の魔術師担当から文句が来る。
「グダグダ言うなよ。ヒーラーだって同じ条件なんだぜ?」
「杖でぶん殴るのはアリだよな?」
「余裕があったら許可しよう。リーダー、そろそろ接敵だ」
「わかった。状況を開始する」
サブリーダーにうながされ、リーダーはメンバー一同に作戦開始を合図する。
「これでも一応、極秘ミッションだ。コーデ偽装はAの7、極悪PK厨モードで行け」
「ヒャッハー様だな。俺こいつ好きなんだ」
「俺もだ」
「ホホホーッ‼」
総勢13名の合同パーティーが、憐れな2人組の前に躍り出る。
「PK様のお通りだぁ! 拒否ってねーのが運の尽きと諦めな!」
まず先行していた3人が標的に現れた。
「おとなしく地縛霊してろ!」
直後に隠れていた左右のPK厨たちが、茂みの陰から、わらわらと散開する。
「その種モミをよこしな!」
「ヒャッハッハッ水だ――――っ‼」
ヘスペリデスのPKは、相手から何も奪えないルールである。
だがゲームなので楽しければそれでよく、道化を演じ好き勝手な脅し文句を並べて遊ぶのもルールのうちなのだ。
「退路は
リーダーのいる1A班がターゲットの背後に立ちはだかる。
そして剣を抜いた。
ヘスペリデスは遭遇者の近くで武器を出すと戦闘開始扱いとなり、パーティー内や相互フォローなどを除けば、ボイス・メッセージ共に近距離チャットが通じなくなる。
そのため口上を
問答無用のPKにマナーを持ち出すのも変な話だが、ヘスペリデスの対戦はアイサツが大事なのだ。
「へっ……
フラフラと足どりもおぼつかない標的に、勝利を確信する斬り込み担当。
戦闘開始で相手にボイスチャットが通じなくなったと知っているのに、楽しすぎてヒャッハーが止まらない。
もうノリノリである。
「カモ丸出しじゃねえか」
対する大剣持ちは、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。
慌てて抜いた巨大な剣もブンブンと振り回すだけで、誰かに当たりそうな気配はない。
「はいトドメ~♡」
右舷組の1B班長がフェンシングよろしくレイピアを突き立てる。
直撃した。
……反対側から襲いかかった味方に。
「うわっゴメン!」
「ひで……ぶっ⁉」
レイピアを喰らったPK仲間は、急所に命中したのか即死判定で地縛霊と化した。
「やっちまったーww」
笑いつつ死体と化した盟友からレイピアを引き抜く1B班長。
わざわざ大勢で包囲陣を敷いたのに全員で同時に攻撃するのは、同士討ちの楽しみもあるからである。
これもプレイの一環、遊びのうちなのだ。
「被害を出すなと言っただろ!」
「悪かったよ。でもPK気分で包囲網を
「むぅ……非を認めよう」
「ヒーラーの出番だな」
すぐさま死者に駆け寄り復活魔法の準備を始める衛生兵担当。
一方、大剣持ちは突然の襲撃でパニックに陥ったらしく、無表情で戦場をフラフラとうろつき回るばかり。
「…………?」
リーダーは、その姿にどこか不自然さを覚えた。
「まさか
ヘタクソだろうがベテランだろうが、敵の同士討ちに何の反応もなく行動パターンも変わらないなどありえない。
「あの動きは誘いだ! 2B班、周囲警戒!」
警告に反応し、即座に指示を飛ばすサブリーダー。
どこかに合同パーティーを一網打尽にする伏兵がいるに違いない。
「ちょっと待て砲手どこ行った⁉」
あからさまにフラフラする大剣持ちに気を取られ、もう1人の標的をすっかり忘れていた。
「探せ! いや伏せろ隠れろ狙撃されるぞ!」
「そう遠くには行ってないはずだ! 発砲を確認次第、迎撃しろ!」
リーダーとサブリーダーは、相変わらずフラフラする大剣持ちを警戒しつつ、引きつけながらメンバーたちに指示を飛ばす。
「いたぞおおお! いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
仲間の声にリーダーがふり向くと、街道の先……包囲網の外側に、目当ての砲手が特殊入力によるジャンプ維持状態で浮いているのが見えた。
「なんてこった……‼」
偽装を解いたのか、持っていた抱え大筒は、アバターの身長を
実体弾を用いない指向性エネルギー兵器なのか、砲身の周囲がゆっくりと花開くのが見える。
「あれは……まさか【モンスター】⁉」
艦載砲を流用したと公式設定サイトで紹介されている、対超大型魔獣向け(魔法の)大火力レーザー発振器【モンスター】。
長所は強大な熱量と貫徹力。
砲身展開から射撃終了までの5秒間、ピクリとも動けないのが欠点である。
「おいこれヤバ……」
モンスターは超高威力で極太のレーザー発振器だが、照射中の3秒間は射線をずらせない。
そんな対人戦に不向きすぎる代物を、対戦勢に向けるプレイヤーなど、リーダーは1人しか知らなかった。
「いんりょ」
放たれた極太熱光線により、リーダーは一瞬で消滅する。
そして犠牲者が1人で済む訳がない。
「一撃で7人か……」
地縛霊状態で被害状況を確認するリーダー(故人)。
射線に入っていたのは、彼を含めても3人しかいなかったはず。
だが射線上にいなかったはずの残り4人までもが、まるで光線に重力でもあるかのように次々と吸引されてしまったのである。
もちろんモンスターの熱光線に、そんな機能は存在しない。
あの砲手は戦場にいる敵味方全員の行動をすべて予測し、一定以上の敵が射線上を通る瞬間を狙いすまして大火力レーザーを照射したに違いない。
「凄いな。さすがは称号持ち……また撃った!」
今度は5人。
たったの2射で総勢13名の合同パーティーが全滅である。
「今度は射線に誰もいなかったぞ?」
最初の斉射に巻き込まれた4人の中にいたのか、いつの間にか隣にサブリーダーの幽霊が立っていた。
「まるでブラックホールだ」
みんな吸い込まれて消滅してしまった。
射線上をフラフラしていた大剣持ちに、傷一つつける事なく。
あまりの火力に死体も残らず、戦場に転がっているのは、最初の同士討ちで死んだレイピア持ちの1B班長だけである。
「あれが【引力光線】か。始めて見た」
地縛霊と化した合同PKパーティー13名は、宿屋へのリスポーン待ち状態でヒマを持て余し、雑談もとい反省会を始めていた。
話題はもちろん、今回
【引力光線】のガンブッパ。
大口径レーザーで大量の敵勢力を、しかも乱戦であっても味方を巻き込む事なく
見た目は小さな少女だが、実況配信をせずSNSにも顔を出さないため、中の人が本当に女子なのかもわからない。
そして
名前はツヴァイヘンダー、ランクは修羅の竹級といわれている。
「あいつのどこが修羅だって? どう見ても超妖怪級だろ」
大勢に囲まれながらもフラフラと酔拳のように攻撃を
「ランク偽装か……さすが羅刹リーダー、俺には初心者にしか見えなかったぜ」
どちらにせよ修羅に見えないのは確かである。
「噂を聞いて、まさかとは思っていたんだが……実際にこの目で見て確信した。引力光線は相棒も人間じゃない」
おそらくツヴァイヘンダーは、ネット掲示板のカースト制度に毛ほどの興味も持っていないだろう。
バケモノはバケモノゆえに、人間の定めたランクや称号を欲しがったりはしないのだ。
「2人
ツヴァイヘンダーがフラフラと敵を射線に誘い込み、照射中もフラフラと獲物を誘引する。
羅刹リーダーと多数の修羅を
しかも2撃で。
「おい、誰か録画してないか?」
「いや今回はしょがり(初心者狩り)ムードだったから……」
「俺もだ」
「俺も」
全員、うしろめたさで録画機能をオフにしていた。
「道理で高ランク認定されない訳だ。物的証拠が残らないんじゃな」
初心者狩り専門のPK厨は、ネットでの
しかも負け動画となれば、到底公開する気分にはなれないだろう。
あの2人が初心者狩りPKパーティーを専門に狩っていると考えれば、ネットに映像記録が残っていないのも納得が行く。
「おい、あれ見ろよ」
偵察担当の習性で周囲の状況を探っていたシーカー(幽霊)が青ざめる。
合同パーティーを全滅させ、その場を立ち去ろうとする引力光線たちの前に、新たな犠牲者たちがヘラヘラと笑いながら現れたのだ。
人数は15名。
たったいま全滅した合同パーティと大規模PvPを行う予定だった遅刻者たちである。
「「「逃げてー‼ みんな逃げてぇぇぇぇっ‼」」」
地縛霊たちが笑いながら届かぬ警告を発した。
あいにくそこで地縛霊タイムが終了、チェックポイントの宿屋にリスポーンしてしまい、彼らの最期は見届けられなかったが、それでも彼らの笑いは止まらない。
あれが称号持ちか。
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