第13話・ノープラン
「あの実に触った状態でアレしたら、ランさんみたいに……」
魔界樹を見上げながらソルビットは呟く。
「ここじゃ魔王のスペアは作ってないよ。その果実、中身はクロフサムカだから」
クロフサムカはムカデ型魔獣の一種で、モコモコした背中の体毛が特徴のザコ担当キャラクターである。
「細くて体積ないから1個あたり1ダース作ってる。ウジャウジャだよ~?」
哺乳類的な魔獣と違って子育ての必要がなく、幼体のまま放流できるので大量生産が可能なのだ。
「うひゃっ…………」
ソルビットは思わず手を引っ込めた。
いくらモコモコで可愛くても、多足類に異世界転生は勘弁して欲しい。
「アタシみたいになっちゃダメだよ。ソルさんにはまだリアルがあるんだから」
「ランさんだって人生ありました!」
あのガキ絶対シメるとソルビットの殺意が高まった。
「アタシゃショタに否定されたら終わりだからね。終わったんだよマジで」
いまさら何を言っても、あとの祭りである。
「それよりさ、ヘスペリをサービス終了に追い込むの手伝ってくんない?」
制圧下にある魔界樹との地下茎ネットワークを復元し、サニスタンド型便器型ターミナルからお尻を抜いて、ランチュウは半ケツ状態だったかぼちゃパンツを穿き直した。
「廃ゲーマーが何を寝言ほざいてるんですか! プレイヤーがゲームを失ったら、それこそ人生の終わりですよ⁉」
夏帆同様に更紗もヘスペリデスへの依存率が極めて高い。
「そりゃそうだけどさあ、アタシも何から始めりゃいいか見当もつかないけどさあ、長丁場は確実だから、できればソルさんの協力が欲しいんよ」
「ヘスペリが潰れても、メーカーがシステムを流用した新作を出すと思います」
根本のシステムが一緒なら、ヘスペリを根絶しても新たなゲームによる再侵食が始まる可能性が高いとソルビットは判断した。
「でも必ずそうなるとは限らないでしょ?」
ランチュウも予想はしていたらしい。
「何事もやってみないとね」
それでダメだったら何度でも潰してやると目が語っている。
「それにサービス終了したら……私、ランさんに会えなくなっちゃうじゃないですか」
「長丁場になるって言ったでしょ? どーせいつかはお別れするんだし、そもそもとっくに死別してるんだし、ここで再会できただけでも幸運なんよ?」
「……………………」
夏帆とソルビットは、しばらく考え込んでから口を開く。
「……できればずっと一緒に戦いたいです。永遠に、たとえ敵同士になろうとも」
魔王に敵対するなら、ソルビットは勇者といったところだろうか?
「相変わらずメンヘラってんねえ。まあとにかく方法くらい考えとくれよ。アタシゃ腕にゃ自信あるけど、ネトゲのシステムとかプログラムやら運営だのはサッパリなんだ」
「だから、とりあえず適当にPKしてたんですね」
脳筋もいいところである。
いや腐ってるから脳菌か。
ソルビットは何だか放っておけない気分になって来た。
少なくとも超魔王ランチュウを、このまま放置するのはまずい気がする。
「ヘスペリが終了したら、ランさんはどうなるんですか?」
別れるだけなら耐えられるが、いや絶対耐えられないに決まっているが、更紗とランチュウの消滅だけは断じて許せない。
「たぶんゲームの侵食効果とアバター要素が消えて樹王になる。まあ本物は別にいるし、元々この体は樹王のスペアなんだし、パルミナの助手や見習いになるんじゃないかなーって思ってる」
かなり楽観的な推測ではあるが、異世界を救うなら、それなりの報酬はあって然るべきだろう。
魂の収集と再配分ができる世界樹があるのだから、たとえ樹王のスペアボディを返す事になっても、ランチュウは獣人など他の知的生物に転生させてもらえると希望的観測を抱いているようだ。
「そんなご都合主義は却下です。半分アバターが混ざってるんですから、ゲームが終了したらアカウント停止でランさんが消滅するかもしれません」
「そこは賭けだね」
「……………………」
ソルビットはしばらく考えてから――
「……わかりました。そのクエスト、お手伝いしましょう」
どこまでもランチュウについて行こうと決意した。
「おほっ! ラッキー♡」
「ただし条件があります」
「ほほう? それは……?」
「ショタロリ団のみんなに会ってください」
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