第10話 わたしにママは要らない?
わたしが窃盗を起こした事で、母と塚田、この二人にわたしは近づかなくなりました。
二人で家を空ける回数が増えていったのもあります。
母を監視する必要がない日も増えて、わたしは少しずつ学校に通うようにもなっていました。
そんなある日、母は塚田と共に家を出ていってしまったのです。
「風夏には、ママがいなくても大丈夫だよね」
そう言葉を残して。
後日に祖母から「心療内科の主治医さんに、お母さんと妹から離れた方がいいって言われたんだって」とも教えられました。
その真意はなんであれ、わたしは安心しました。
母と塚田が我が家から立ち去り、祖母と叔母の空気が瞬時に和らいだからでした。
わたしは祖母と叔母の元に残された。
それが全ての答えなんだと、たいした動揺はしませんでした。
けれど大声で言いたかった。
ママが要らなかったらわたしはなんでママの怪我を手当したり、外に出ないように監視してたり、オーバードーズしないように薬をしっかり飲むのを見届けてたんだと思ってるんだ!!
エコーのかかったマイクでも使って、そう耳元で言ってやりたかったです。
そうして暫く母との連絡は途絶えました。
悲劇のヒロイン気取りですみませんが、わたしはお金を盗んだから見捨てられたんだな、ママのわたしへの愛情はそんなものだったんだな、そう考えて一時的に みゆき という名のママはわたしの中から消えました。
これで平和な日常が訪れた。
いっそ二人の間に子供でも作って、わたしを置いて結婚して、どっか他所にでも行かないかな。
そうしたらわたしは叔母に養子縁組してもらって、叔母を戸籍上でもママになってもらうのにな。
実際「養子縁組しようか」という話は上がりました。その時はすごく嬉しかった記憶があります。
なのに数ヶ月、母はわたしを放置していたのに、わたしの誕生日の日に彼氏と共に我が家に訪れたのです。
「風夏、出かけるよ」
「どこに?」
「駅前」
「なんで?」
「行けばわかるから、一緒に行こう」
全く意味がわかりませんでした。
連れられるまま駅前に塚田の車に乗せられて、終始無言のままわたしは母と二人でブックオフの前に降ろされたのです。
塚田は車内で待ってると言って、ブックオフの駐車場へ入っていきました。
「なんでブックオフ?」
「今日、風夏の誕生日でしょ。けど“あれ”があったから、新品は買ってあげられないけど、中古なら一個だけ何か買ってあげるよ」
「いらない。誕生日プレゼントは無しって言ったのママじゃん。本気でいらない」
「いいから。選んで」
「いらない!」
こんな押し問答をしながら、わたしはブックオフのゲームコーナーまで連れてこられて、わたしは何も選びはしませんでした。
「風夏、これならどう? これならババ(祖母)とも遊べるんじゃない?」
「いらない」
「いつまでも意地はらないで。これ買ってあげるから。誕生日おめでとう」
この日ほど誕生日ってクソだなと思った日はありません。
ほぼ押し付けるように無理やり買ってきたゲームを持たされて、車の中では終始無言で、わたしは家に一人帰されました。
買ってもらったゲームは、ニンテンドーゲームキューブで遊べるゲームディスク。
なんで買ってもらえたのかと祖母に聞かれて答えたら、気を使ってくれたのか「一度遊んでみようか?」と一緒に遊んでくれました。
けど全く楽しくもなく、祖母に一言謝ってゲームを止めたらディスクを取り出し、わたしはそのゲームディスクを割って捨ててしまいました。
いったいあれは何だったのでしょう。
罪滅ぼし? だとしたら何に対して?
わたしには『娘の誕生日の当日に、いくらその娘が悪い事をしたんだとしても、全く祝うこともしない母親なんて親失格』とでも考えた、自己満足からの行動としか思えませんでした。
わたしからすれば、確かに“金銭を盗む行為は悪い事”ですし、誕生日プレゼントが無しにされても文句なんて一切ありません。
それなのに勝手に『可哀想』と一方的な情けをかけられたような気がして、屈辱でしかありませんでした。
先に「そんな子に育てた覚えはない」と切り捨てたのは母からなのに、と。
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