第3話 わたしは箱入り娘

学校に行かなくなって家に毎日居ることが当たり前となり、わたしは家族の現状をなんとなくですが察するようになりました。勘でしたけど、母と叔母に男の人の気配を感じたのです。

二歳で父を失ったので、わたしに男性への知識は何にもありません。それでも『女の人と男の人は一緒にいるもの』という考えは根付いて居ました。良い意味で、クレ〇ンしんちゃんをよく見てたからかもしれません。今でも好きな作品です。

小学二年生になっていた当時では既に、パパが居ない理由は不倫したか借金して離婚された、この二択だと思ってましたから。

なので後々に家族から「実はね・・・・・・」とわたしに父が居ない理由を告げられた時、やっぱりそうだったかと特別驚くこともありませんでした。それよりも、母がわたしを身篭った理由と、産むと決めた理由のが驚いたし悲しかったのですが、それはまたいずれ。


そして母と叔母に男性の影を感じながら、直接対面する事になるのは少しだけ先の話です。


わたしは神奈川県のとある場所の、雨漏り上等なボロボロの一軒家の借家で暮らしていました。玄関の扉なんて横開き式のガラス製。金属バット等で本気で叩かれたら、景気良くバリーンと音を立てて壊せそうだった古い家です。

周囲の家とはまるで違うボロ屋。現在は引越してそこには住んでは居ませんが、建て直しや補修工事等はされず次の借り手なんてある訳なく、未だに取り壊されないで残ったまま。

傍から見たら小さな幽霊屋敷と感じるでしょう。けどわたしにとって思い出が詰まり過ぎていて、今でもたまに訪れてしまいます。ポストにはまだ微かに、わたしたち家族の名前が書かれてます。


そこでふと、思いました。

子供はわたし一人で、残り大人三人はしっかり働いているというのに、なんでこんなボロ屋に住んでいたんだろう? と。

ボロ屋であることと、大家さんがいい加減だった事を良い事に、人間以外にも動物の家族も居ました。当時では既にペット可の物件なんて高過ぎて住めなかったんだろうな、猫と犬の両方をお迎えしているから尚更だろうなと、ボロ屋に長居した事については納得が行きます。

ただ、いくらペット可の物件に住むだけの余裕は無くても、他の生活は多少は潤ってても良かったんじゃと思いました。全然、潤っていませんでした。毎月カツカツ生活だった事を記憶をしています。


わたしという子供を育てるため、そっちにお金が回ったのも分かります。

猫と犬たちにだって、当然お金は回ります。

だとしても、年齢的に働き盛りの三人がしっかり働いていて、こんなにカツカツになるものか、と。


更には、どこかギクシャクしている、わたしのママ達。


これは大人になってから知りましたが、そのカツカツ生活だった理由のひとつに、祖母の浪費癖がありました。

ちょうど更年期を迎え、どこかイライラしてストレスが溜まる。よくあるストレス発散方法に選ばれる物でタバコがありますが、既に祖母は重度の喫煙者。なのでそれ以外のストレス解消方法を模索。スロットでもなく、お酒でもなく。

最終的に辿り着いたのは、ゲームセンターでした。

ゲームセンターには、子供が好きなアニメのキャラクターのぬいぐるみや、簡易的なオモチャが景品として沢山あります。それを手に入れて持ち帰れば『風夏が喜ぶからいいか』とわたしを免罪符に、祖母は景品が取れた時の達成感を得る事でストレスを発散、金銭も発散してキツかっただろう更年期をやり過ごしたのです。


納得でした。


ゲームセンター。当時のアームの強さなど諸事情は分かりませんが、一番帰宅の早かった祖母はほぼ毎回、両腕に景品をぶら下げて帰ってきました。

もちろん何も知らない幼いわたしは大喜び。こうもなります。


他にカツカツ生活だった理由とすれば、祖母はパート、母が正社員、叔母はわたしが生まれた頃は正社員で働いてましたがこの頃は職場を変えており、そこではパートかアルバイトだったかもしれません。

なぜ、そうなったのか。

それはわたしを『家に一人にしない為』だったんだと思います。


わたしは過保護に箱入り娘として育てられました。


学校に行かなくなり、家に毎日居るわたし。

それなのに防犯力のない家に住んでいて、わたしを一人で留守番させるのは心配だったのでしょう。

稀に留守番する事もありましたが、それは太陽がさんさんと照らしてくれている昼間限定。当時、夜に留守番なんてした経験はありません。

誰かが尋ねてきても電話が鳴っても、絶対に出ちゃダメだと約束させられ、わたしはちゃんと約束を守っていました。


料理も、小学二年生にもなれば興味も湧きます。

けれど包丁や火を使うのは危ないからと、触らせては貰えませんでした。これもボロ屋の台所だから何が起こるかわからない。そう皆が考えていたのだとしたら、納得のいく理由ではあります。


わたしは一度「ダメだ」と言われたら、全く逆らわない良い子。「約束だよ」という言葉にも弱く、破ったことなんてほぼ無かったのです。


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