(18話) 『瑞穂結樹菜』ではない結樹菜の手掛かりを求めて①
翌日、新幹線からバスへ乗り継いだ月那たちは、横浜市内の小学校を訪れていた。
「これが小学校ですか? 凄いですね」
目の前に改築して間もない小綺麗な校舎が
「職員室に行くよ」
「はい」
学校訪問の目的は『瑞穂結樹菜』ではない結樹菜の手掛かりを発見するためである。檜山と月那が着目したのは結樹菜が監禁される前までは学校に
『瑞穂君が誘拐された時期と場所はわからないけど学校に通ってたなら顔と氏名を知ってる同級生や教師がいたはずだ。瑞穂君に元々の記憶がなくても彼女を知る人間を見つければいい。でも、生まれは北海道で拉致されて
以上が檜山の考察。曖昧で身勝手だが横浜が的外れだと断言できないのも事実である。
(できるだけ多くの人間を結樹菜と会わせて知り合いを見つける。実際に結樹菜が通ってた学校以外は全部外れなわけだし。全国の小学校の中から偶然そこを見つけるなんてほとんど不可能だし、見つかったら逆に奇跡だ。それでも行動しないよりはマシか)
校舎に入ると結樹菜が物珍しそうに周りを見回した。
「嬉しそうね」
「あ、あの……初めて見たので、つい……」
申し訳なさそうに俯く結樹菜。その目元は赤く腫れあがっている。
(昨日一人で泣いたんだ……やっぱり付き添ってあげるべきだった)
やるせない気持ちになったが顔には出さなかった。行動を顧みることは必要だが反省や後悔する時間は最小限に留めるべきだ。そして、次に活かさなければ意味がない。そういう思考が染み付いているという点で、月那は前向きで立ち直りが速かった。
「実際に生徒と話してみたら? 調査ついでにそれくらいなら罰は当たらないでしょ」
「ほ、本当ですか⁉」
結樹菜の表情が少しだけ明るくなったが、すぐにしおらしくなった。
「でも、やっぱりいいです」
「どうして?」
結樹菜が窓の外を見た。グラウンドでサッカーの授業が行われている。
「家族が無事かどうかもわからないのに私だけ楽しい思いをするのは違う気がして」
気にしすぎである。月那は思ったが、結樹菜の意思を尊重することにした。
「じゃあ、それは家族を見つけてからにしよ」
「はい。ありがとうございます」
結樹菜の発作は『瑞穂結樹菜』の記憶の中の出来事であって本人は健康であり全て片付けば学校にも通えるはず。結樹菜の当たり前な学校生活を月那は応援したい。
そこまで考えてはっとする。もはや結樹菜が
「月那さん?」
「……ああ、ごめん。ちょっと余計なこと考えてた。行こうか」
脳内檜山を殴り飛ばしてから廊下を進む。職員室に到着して、ノックする。
「情報管理統制局です」
部屋に入ると教師らの視線が殺到した。そんな中で五十代の男性が近づいてくる。
「はじめまして。私は本校の教頭を務める
笹塚と名乗った男性が困ったように月那から結樹菜へと視線を往復させる。
「どうも。あたしが局員です」
局員に配布される局員手帳を見せながら告げると笹塚が驚きに目を見開いた。
「これは大変失礼しました。その、想像以上にお若かったので…………」
外見的には小学生の月那を見くびらず丁重に扱おうとする笹塚を、月那は気に入った。そして、月那は自身の言動が荒っぽいことを自覚しているが誠意を持った相手に無礼を働く礼儀知らずではなかった。
「構いません。この見た目なので慣れてます」
「そ、そうでしたか…………では、別室へご案内します」
二人は笹塚の後ろに続いた。
「なんだかすごく注目されてる気がします」
結樹菜が小声で呟く。その白髪を珍しそうに見ている人間と月那に
「歓迎されてはいないでしょうね。学校側は統局と関わりたくないだろうし」
「どうしてですか?」
「統局って今の日本じゃ知らない人はほとんどいない。でも、そのきっかけは凶悪な能力犯罪者だったからね」
結樹菜が不思議そうに首を傾げた。統局と『能力』については地下室で教え込まれたが、当時の背景は詳しくないらしい。
「ショッピングモールとか駅構内で一分間に六十名を斬り殺した『
「…………ない、です」
結樹菜の顔から血の気が引いていく。『風切り』、『豪腕』、『雷刃』の三名は特に危険で統局も手を焼いている。私怨のある風切りは勿論だが他の二人も始末する必要がある。
「そいつらが暴れ回ったおかげで『能力』の知名度は急激に上がったの。そういう連中と同じ『能力』を使ってるあたしらを一般人が怖がるのは当然じゃない? 『能力』犯罪を取り締まるプロフェッショナルみたいな受け止め方をしてる人もいるらしいけど、人を簡単に殺せる人間が側にいたら怖いし、関わりたくないでしょう?」
「そ、それはそうかもですけど…………私みたいな人を助けてくれるんですよね?」
「それでも、巻き添えを食らいたくないって気持ちが一番なんじゃない?」
「そ、それは……で、でも…………月那さん、とっても優しいのに」
「あら、嬉しいわね」
他の連中はともかく結樹菜にそう言われるのは嬉しかった。本当に優しい子だ。一緒にいるだけで和む。そんなことを考えていると笹塚が振り返った。
「申し訳ありません。我々も頭では理解しているのですが……」
「なんの話ですか?」
「職員たちの言動について、です」
そういえば、統局に対する職員の反応について話をしていたのだった。
「別に気にしてません。それに、教頭先生が謝ることじゃないでしょう?」
「それは……そうなのですが」
笹塚はなにか言いたそうだったが、言葉が見つからなかったらしい。三名は無言で歩き続けて応接室に入った。室内にはソファとテーブルがあった。
「どうぞ。お座りください。すぐにお茶を用意させます」
促されるまま二人はソファに腰かけた。
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