第3話 ゲームルートと現実の差

 先ず、ハイリッシュ・ルートは、攻略対象で1番簡単なルートである。何しろ、婚約者が居ながらも、彼に時々話し掛けたり、彼に少し親切にしたりと、簡単な行動で堕ちてくれる。元々、女好きという設定もあり、婚約者以外は誰でも良いところがある。そう、婚約者以外は。何故、婚約者は駄目なのだろうか?


ゲームでは、婚約者のフェリシアンヌは、誰もが手が付けられないほどの物凄い我が儘で、そこが嫌いであるとなっていた。しかし、現実は…前世の記憶を持つ女性であり、我が儘どころか物分かりが良過ぎる、とされている。学園でも成績は学年トップであり、才女で美人との評判だ。だが、ハイリッシュは自分より頭の良い彼女に、劣等感を持っており、それが今世での嫌いな理由となっていた。

ゲームでも軽薄キャラであった彼だが、に成り下がっている彼であったのだ。


次に比較的簡単なのが、男爵令息ルートである。彼の家は身分も低く、あまり裕福ではない為、まだ婚約者もいなければ、中々婚約者が見つからないという問題がある。その為、彼に尽くしてあげている内に、仲良くなれるというものだ。

婚約者はいないので悪役令嬢もいないが、代わりにライバル令嬢が登場する。

とある平民の商家の娘である。ただのライバルなので、一方的に虐められることもなく、比較的平穏なルートであった。現実でも、彼の場合はほぼ同じである。


伯爵令息ルートは、幼馴染ルートでもある。ヒロインに対する好感度は、最初から持っているものの、彼は嫡子ではないので騎士になる予定で。騎士と家督を継ぐのとは、生活基準も違ってくる為、彼はヒロインの幸せを考えて、身を退こうとするのだ。前世のフェリシアンヌからすれば、「余計なことばかり考えていないで、ヒロインが好きなのならば、プロポーズしてはっきりさせなさい!」である。彼には婚約者が居ないものの、彼に恋する同じ伯爵家の令嬢が、悪役令嬢として登場して来る。当然、この令嬢の方が身分が上の為、軽い虐めなどが発生するのだが。


現実では、伯爵令息とヒロインは幼馴染ではなく、悪役令嬢役の伯爵令嬢の方が、彼の幼馴染である。然も2人は婚約こそしていないものの、仲が良いのである。

今はヒロインに因って、攻略され掛かってはいるものの、劇的に仲が悪くなった様子もなく、また彼女も虐めなどはしていないようである。ヒロインがハイリッシュを選んだ時点で、彼も冷めたようだから、多分…もう大丈夫であろう。


侯爵令息ルートからは、急に攻略が難しくなる。彼には年上で身分が上の婚約者がいるが、彼はこの婚約者のことが好きなのである。ところが、肝心の婚約者は他の人物に夢中で、彼に振り向くことがないのだ。片思いの辛さをヒロインが相談に乗ることで、段々と恋をして行く、という設定であったのだが。彼を裏切って浮気がバレると、直ぐにバットエンドの監禁ルートに入ってしまう。中々、ハッピーエンドにならないのが、彼のルートだ。


現実では、今の彼には別の婚約者が存在している。年上の婚約者は…何処に行ってしまったのだろうか?…思い当たる人物が居ない。それに、彼と婚約者の仲はとても良いらしい。フェリシアンヌよりも年下なので、まだ学園に通っていないのだ。

噂に聞く限り、彼は婚約者を溺愛しているらしいので、彼も問題ないだろう。


殿下ルートは、唯一の既婚者のルートである。ヒロインが接触する時にはもう、隣国の王女と政略結婚をしていた。殿下は既に学園を卒業しているし、ヒロインの身分では王宮に入れない。王宮での舞踏会に出席すれば会えるが、簡単に話が出来る訳もない。そこで隠しルートとして登場するのが、理事長を攻略した後に現れるというルートである。それにより、理事長から王宮にこっそり招待され、裏庭に迷い込んだところで、舞踏会を逃げて来た殿下と、偶然出会うと言う設定である。


現実では、設定である。理事長を攻略したからと言って、王宮に招待はされないし、理事長にそんな権利はない。例え…理事長が王族の血を引いていたとしても。それに…殿下が舞踏会を逃げるとは。現実の殿下は、そのようなお人ではない。1番有り得ないのが、裏庭に迷い込むことだ。庭にも所々で、騎士団に所属する実力のある騎士達が立っているのだ。特に王族の住む区域がある裏庭には、厳重に警備されている。どんな理由があるにしろ、アレンシアが迷い込んだ時点で捕縛される恐れがある。


残り2人の攻略者は…教師と理事長という、20歳以上の年齢の男性だ。

当然だが、難易度も上がる。教師ルートは、家族との確執と死亡した婚約者の存在が鍵となる。教師の相談に乗って心の傷を癒す、というのがゲームでの醍醐味ではあるが、現実で教師が生徒に相談する訳がない。然も、現実の教師には、溺愛しているとの噂のある婚約者が生存しており、そして…現実のヒロインは、色々と遣らかしていた。教師にはアレンシアが、問題児にしか…見えなかったことだろう。






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 何を遣らかしたのかと言えば、虐めの証拠とかである。フェリシアンヌを始め、他の攻略対象者の悪役令嬢が、虐めをしたという物証を、アレンシアが色々とでっち上げていた。誰も…虐めていないというのに。

これって…ですわね?…つまり、アレンシアは…転生者なのでは?…だとしましても、現実とゲームがこれほど違いますのに、そのままイベントを強行しようなんて、ヒロインもお馬鹿なのですのね?


さて最後に、理事長ルートでは隠しキャラルートでもある。隠しキャラのルートに入るには、条件がある。その条件をクリアしてやっと、理事長ルートに入ることが出来るのだ。そして、彼の攻略次第では、殿下ルートにも繋がるのであり。

こう見ると、殿下ルートが1番難しいように思えるが、隠しルートの方が難しいのである。殿下ルートは上手く入ることさえ出来れば、攻略自体はそう難しくない。然も、理事長のトラウマがよく分からない。先ず、彼の攻略の前に、などを知ることから、始めることになるのだ。


現実の理事長には、ただの生徒であるアレンシアが会うのは、簡単ではない。

ゲームでも現実でも、彼は表舞台には滅多に出て来ない。フェリシアンヌでさえ、まだ会ったことがないぐらいだ。ゲームでの彼は、実は…であったが、現実も多分そうであろう。顔を見せることにより、王弟=理事長とバレてしまう為か、滅多に姿を現さないのだ。ゲームで姿を現す時には、仮面を被り鬘を付けて登場していた。現実では…まだ1度も、学園には登場していないのだが。


以上が全ルートである。ハッピーエンドでは、攻略対象と結ばれて結婚出来る。

ノーマルエンドでは、所謂お友達関係で終了となる。バットエンドでは、侯爵令息以外は、単に攻略失敗で終わる。ヒロインが追放とか罰を受けるとかは、特にないのだ。しかし、悪役令嬢は…バットエンドになれば、悲惨だ。ハッピーとノーマルならば、罪が重くても廃爵ぐらいだが、バットは幽閉されたり追放されたりは…勿論のこと、死罪もあり得るのだから。


前世のフェリシアンヌは、この乙女ゲームを好んで攻略していた。しかし、別に攻略対象者の誰かが、気に入っていた訳ではなかった。それにも拘らず、このゲームに嵌っていたのは、悪役令嬢のフェリシアンヌが気に入ったからだった。

悪役令嬢ではあるものの、容姿は美人で誇り高い貴族の令嬢でもあり、ヒロインを虐めはするものの、それは…真正面から虐めていたという、正々堂々としたものであったのだ。決して他の令嬢を利用せず、自らが出て行き、最後まで堂々としていたのだ。その姿に、彼女は好感を持ったのである。


それにこの令嬢は、黒目黒髪の日本人の特徴を持ちながら、西洋人風の容姿で。

前世で日本が大好きであった彼女は、この容姿に憧れていたのだ。だから、自分が悪役令嬢に転生したと知っても、このフェリシアンヌの容姿はお気に入りである。

特に…この艶のある長い黒髪は。前世は癖髪であったけれど、癖のないサラサラの髪は…と同じで。そう気が付くと、フェリシアンヌでもいいかと思う。

旦那様の髪がお気に入りだった、わたくし。それに…髪の色もこの目の色も。

ちょっぴり残念なのは…今の顔も、西洋人風なところ、かしらね?


しかしながら、だからと言って、悪役令嬢を演じる気はなかった。死罪も有り得るというのに、虐めなど馬鹿馬鹿しい。それに、彼女は虐めなどをするような、器の小さい人間ではない。自分で考えて行動出来のなら、シナリオ通りに動く気は更々

ない。だから…極力、攻略対象達やヒロインには接近しないように、過ごして来たというのに。それなのに、この婚約破棄イベントが…起こってしまった。


やはり…ヒロインであるアレンシアが、わたくし同様に転生者なのでしょうか?

そうでなければ、イベントが発生致しませんものね?…彼女がハイリッシュを本気で愛しているとは、思えませんのよね?…ということは、逆ハーレムでも狙っておりますの?…それとも、隠しキャラである理事長ルートなのかしら?……まさかと思いますが、殿下ルートでも狙っておられるのでは、ないでしょうね?


何れにしましても、ヒロインとは…敵対することに、なりそうですわね?

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