4 理不尽な贖罪
これは一体どういうことなんだ。
それにここはどこだ?己は見知らぬ住宅地に立っていた。真っ黒な穴のような夜空には、これまた穴みたいに真ん丸い月がぽっかりと浮かんで、こちらを覗いている。月は気味が悪いほど黄ばんだ色をしている。
「畜生………どうなってんだ一体」
近頃の猛暑と忙しさで、己は精神的に参ってしまっていたのだろうか。しかし、家に帰るにしても医者に行くにしても、まずは己の記憶をもう少しはっきりさせる必要がある。己は目を瞑って意識を集中させた。
しばらくして、ぼんやりとではあるが何かが見え始めてきた。それはまるで走馬燈のように、コマ分けされたいくつかの景色として、己の脳裏に浮かび上がってくる。
⁂ ⁂ ⁂
己は住宅地を一心不乱に走っている。
場面が切り替わる。
己は誰かと話していた。小さい子供だろうか。彼は不思議そうにこちらを見るばかりだ。
場面が切り替わる。
俺は再び、住宅地を走っている。背中にはーーー誰かを抱えているようだ。どういうことだ?
場面が切り替わる。
己は何かを見下ろしている。
場面が切り替わる。
さっきと同じ場所だ。どうやらそこは商店街らしかった。こんどは雲から顔を出した月が、己の足下をあかるく照らしている。そこには青ざめた子供がひとり、うずくまっている。その目はうつろで、生気は欠片も感じられない。ーーーどうやら彼は、ーーー
⁂ ⁂ ⁂
信じられない。信じられない。己は思わず座りこんだ。「嘘だろ」ーーー己は人を殺していたのだ。己の意識が朦朧としているあいだに。
己は今になって、あの子供を殺した時の柔らかな肌の感触をはっきりと手に感じることができた。熟れたトマトに針を突き立てると、そのトマトはいとも簡単に破裂する。己はちょうどトマトを
すると無情にも、ここで再び、己の意識が遠のき始めた。まだ事態は全く呑みこめていない。だが、あくまでも己は無実だ。己ではない己が人を殺したのだ。しかしこう主張しても、一体誰が信じるだろう?
唐突な罪の意識が己を襲った。その圧倒的な重みに押しつぶされそうになりながらも、己の視界は霞んでいく。この後も、無意識下の己はまた誰かを殺すだろう。己の直感がそう教えていた。
己は叫んだ。
「どういうことなんだ…これは己じゃない!誰か助けてくれ!誰か己をーーー」
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