眠れぬ幸せ

春嵐

最後の朝

 はじまる。一日が。


 寝れなかった。これは、昼あたりにくたばるな。


 ベッドから身体を起こし、同居人の猫にさわらないよう注意しながら台所に向かう。


 とりあえず、トースト。何か食べておかなきゃ。


 ゆっくり、よく噛んで、一枚だけ、食べた。水を飲んで、お湯を沸かして。薬を飲んで。


「よし、行こう」


 口に出してみるけど、身体のほうはなかなか動かない。おかしいな。ひとり暮らしをはじめるときはこんなに億劫にならなかったのに。


「うう」


 勇気。勇気が出ない。


 謎の呻き声を出しながら、立ち上がって、扉まで歩いた。


「猫ちゃん、おいで」


 猫が、ゆったり走りよってくる。


「行こっか」


 ドアを開けた。

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