第300話 マルゼの正体

 原作では主人公ラウルと似た境遇を持つ魔剣使い――マルゼ。

 彼はアンネッテ会長をアストル学園の敷地内で殺害し、これをきっかけにブランシャルとサレンシアの間で戦争を引き起こそうと目論んでいた。


 恐らく、これは彼が単独で思いついた策ではないだろう。

 大体、一個人がそんなことをして一体何になるっていうんだ?

 それこそ、国を恨んでいなければ――


「あっ」


 聖剣を構え、相手の出方をうかがっている最中ではあるが……案外、その可能性が高いのかもしれない。

 ラウルの扱いもひどかったからな。

 特に原作では、バレットに目をつけられていたし、ティーテという存在がいなければ余裕で闇落ちしていただろう。こちらではそのバレット(俺)とラウルの関係は良好なものになっているし、ユーリカという支えもいるから大丈夫だけど。


 ――果たして、マルゼにはそのような存在がいただろうか。


 もし、周りに彼の理解者がいなかったら……ティーテと結ばれなかった世界線のラウルってことだもんな。そりゃ心が荒みまくるよ。


 だが、今の彼は生徒会副会長という座に収まっている。

 ということは、その実力は認められていると言っていい。

 

 或いは……それすらも裏がある?


「いろいろと考えを巡らせているようですが……無駄ですよ?」

「っ!」


 こちらの思考を読み取られた?

 ……いや、そういえば、俺って意外と分かりやすく態度に出るらしいから、そのせいかもしれないな。

 それにしても、


「無駄とはどういう意味だ?」

「どんなに考えたところで、君に理解できるわけがないということですよ。何もかも手に入れて、幸せの絶頂にいる君には、ね」


 その口ぶりから、やはり相当過酷な道を歩んできたようだ。

 となると、個人的な恨みから、戦争を引き起こそうとしている可能性は強まってくるな。

 もしくは、両国の滅亡を目指す自身の計画をより成功へ近づけるために、武器商会などを抱き込んでいるかもしれない。


 くそっ。

 考えれば考えるほど、嫌な予感しかしてこないぞ。


「悪いんだけど、あまり君にかまってあげられる時間はないんだ。――すぐに終わらせるよ」


 思考がまとまらないうちに、マルゼが攻撃を仕掛けてきた。

 聖剣使いの俺が言うのもなんだが、相変わらずこの魔剣ってヤツはとんでもない魔力量を誇っている。相手の一撃を受け止めた瞬間、互いの魔力が衝突し、まるで火花のごとく辺りへ飛び散った。


「やるねぇ」


 マルゼが歪んだ笑みを浮かべる。

 ラウルの時とは違い、ヤツは魔剣の力を完璧に制御できていた。暴走する気配もなく、どこか余裕すら感じられる態度で、狂気じみた気迫を放ちながら剣を振る。


「ハハハハハハッ!」


 ついには笑いだしたぞ、おい。


「こんのぉ!」


 激しい鍔迫り合いを制し、俺はマルゼを吹き飛ばす――が、すぐに起き上がって剣を構え直した。

 ――しかし、なんだか様子がおかしい。


「……どうなっている」

「えっ?」

「どうなっていると聞いているんだぁ!」


 突然、マルゼが叫んだ。

 さっきまでの余裕な態度は見せかけだったのか、ひどく狼狽している。


「なぜだ! なぜおまえは僕に歯向かう!」

「い、いや、なぜって……」


 あまりの豹変ぶりに、俺まで動揺してしまう。

 一体、マルゼに何があったっていうんだ?

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