第298話 誘い
時計台近くで俺たちを待ち構えていたのは、《この世界を知る者》であった。
「やあ、嫌われ勇者のバレットくん。今日は可愛らしい婚約者と一緒のようだね」
「……白々しい!」
「あ、あの、バレットのお知り合いですか?」
真っ黒なローブで顔まで覆った謎の人物と面識があるような言動を取る俺を見て、ティーテが不安そうに尋ねてきた。
――まさか、これがヤツの狙い?
ティーテにこの世界の真実を話すつもりなのか?
……いや、何が真実だよ。
確かに、この世界は俺が愛読していた【最弱聖剣士の成り上がり】とまったく同じ世界――でも、ティーテたちにとっては、かけがえのないたったひとつの世界なんだ。
「……悪いが、人を捜している途中なんだ。またにしてくれ」
「おやおや、今日はやけにつれない態度だね?」
「言っただろ? 今は――」
「アンネッテ・フランコーナを捜しているのだろう?」
「っ!?」
こいつ……やっぱり、アンネッテ会長が失踪した件にも絡んでいたのか。
「おまえがアンネッテ会長を……!」
「誤解しないでほしいなぁ。私は彼女が連れ去られる現場をたまたま目撃したから、親切心で教えてあげようとしただけじゃないか」
「つ、連れ去られるって!?」
まさか、誘拐されたのか!?
しかし……例年以上に警戒厳重となっているアストル学園内で、どのように彼女と接触し、連れだせたのか。
――それはもう、学園関係者の中に共犯者がいるとしか思えない。
「バレット……?」
ティーテに優しく袖を引っ張られて、俺はハッと我に返る。
《この世界を知る者》がどのような意図をもって俺に情報を提供しくれたのかは分からないが、今はアンネッテ会長を救出することが先決だ。
「アンネッテ会長は今どこにいる!」
「あの時計台の中へ連れ込まれたようだよ」
「分かった! ティーテは他のみんなを呼んできてくれ!」
「は、はい!」
みんなと合流してからこちらへ向かうようにティーテへと告げる。
すぐに走りだした彼女の背中を見送ると、俺も時計台へ向けて駆けだす。
――そんな俺に、《この世界を知る者》が声をかけてきた。
「まさか本当にここまで来るなんて……嬉しい誤算だね」
「何っ?」
「正直、君が――いや、バレット・アルバースがみんなから好かれるようになって、生徒会長にまでなるなんて……さすがに予想できないよ」
勿体ぶった言い方に少しイラッとする。
だが、それまでの態度から急変し、
「今回の件が終わったら、一度ゆっくり話をしようか」
「えっ?」
「その時を楽しみにしているよ」
最後にそう言い残して、《この世界を知る者》は姿を消した。
……どうやら、いよいよヤツの狙いが分かるようだな。
そっちも気になるが、今はアンネッテ会長の安否が心配だ。
俺はキュッと口元を引き締めてから、再び走りだしたのだった。
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新作をはじめました!
異世界転生×実は最強&万能主人公×物づくりスローライフ×ハーレム
「ざまぁもあるよ?」
【
https://kakuyomu.jp/works/16817139555862998006
是非、読んでみてください!
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