第297話 招かれざる者

 慌てふためくランドルフ学園側へと向かい、詳しい事情を聞くことに。


「何かありましたか?」

「ああっ! バレット会長!」


 ランドルフ学園生徒会のメンバーであるひとりの女生徒が、助けを求めるように涙声で俺の名を呼ぶ。他の学生たちも動揺しており、収拾がつかない状況になりつつあった。


「落ち着いてください。何が起きたのか、事情の説明をお願いします」

「アンネッテ会長がいなくなってしまったんです!」


 女生徒よりも先に、別の男子生徒が叫んだ。

 やはり、か。

 まもなく俺との試合が近いというのに姿が見えないからおかしいとは思ったんだ。それまでのアンネッテ会長の様子から、よもや怖気づいて逃げだしたなんてことは考えにくい――となると、何かトラブルに巻き込まれたのだろうか。


 間の悪いことに、今はマルゼ副会長もいない。組織のトップとナンバー2がいないのでは向こうの生徒会としても動きづらいだろう。


「分かりました。我々も手分けしてアンネッテ会長を捜します」


 行方不明となっては、俺との試合は中止にせざるを得ないな。

 

「ジャーヴィス。武闘大会を仕切っている先生のもとへ行って事情を説明し、次の試合を中止にする手筈を取ってくれ」

「了解だ」

「わ、私もいきます!」

「頼む」


 ジャーヴィスにマデリーンがついていくという形となり、これでとりあえず大会の進行については問題なくなるだろう。

 残ったメンバー全員で、アンネッテ会長の捜索に当たる。


「よし。みんな手分けしてアンネッテ会長を捜してくれ」


 俺がそう指示を飛ばすと、生徒会のメンバーはそれぞれ散っていく。それを見送ってから、俺も動き出したのが――突然、誰かに服の裾を引っ張られる。

 振り返ると、そこには不安げな表情でこちらを見つめるティーテの姿があった。


「ティーテ?」

「あ、あの……私もバレットと一緒に行きます」


 ありったけの勇気を振り絞るように言う――けど、何もそんなに緊張しなくていいんじゃないかな。これまでも似たようなことはしてきているわけだし。


「ああ。一緒にアンネッテ会長を捜そう」

「っ! は、はい!」


 俺の返事はもちろん「イエス」だ。

 ティーテがいてくれた方が、こちらとしてもやりやすい。むしろ、俺の方がティーテに提案すべきだったな。


 ――気がかりなのはマルゼ副会長だ。 

 今のところ、プリームからは特に連絡がない。

 最初、俺はマルゼ副会長を疑ったのだが……怪しい動きがないということは、もっと別の力が働いていると見ていいのかもしれない。

 まあ、みんなに黙ってトイレに行き、帰り道が分からなくなって迷子になっているという平和的なオチを希望したいが、それは望み薄かな。


 俺とティーテは武闘大会の会場から出ると、まず時計台を目指した。これにはもちろん理由がある。昨日の学園見学の際、アンネッテ会長はこの時計台をいたく気に入っていたのだ。もしかしたら、また時計台が見たくてフラッと抜け出したなんてことも――限りなくゼロに近い可能性だが、なくはないと思う。


 そんなことを考えながら進んでいると、前方に人影が。

 まさか、本当にアンネッテ会長なのか?

 少しずつ近づいてみると――


「やあ、待ちかねたよ」


 現れたのは《この世界を知る者》だった。

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