第290話 ティーテのこれから

 俺たちはアンネッテ会長をはじめとするランドルフ学園生徒会のメンバーにアストル学園を案内していくことにした。


「わあ……ここの庭園も凄くいいですね」

「ありがとうございます」


 学園に入って真っ先に飛び込んでくるのは――緑化委員時代のティーテが手塩にかけて育てた植物たちで埋まる庭園だった。植物好きのアンネッテ会長はもちろん、マルゼ副会長たちも強い関心を持ったようだ。


「鮮やかなオレンジ色……こちらはサレンシア王国では見かけない花ですね」

「母が北方へ向かった際にお土産として買って来てくれた物なんです」

「そうだったんですか。どうりで見たことがないはずです」


 植物トークで盛り上がるアンネッテ会長とティーテ。

 こうして見ると……どことなく、ふたりのタイプは似ているなって感じる。顔も何となく似ていて可愛い系だし――まあ、俺はティーテ一筋だから、その辺は関係ないけど!


「バレット会長、あちらは演習場ですか?」

「えっ? あ、ああ、そうですよ」


 マルゼ副会長に声をかけられ、慌てたように答える。 

 ……こちらの反応はやたら淡泊だな。


 他のランドルフ学園メンバーは演習場の広さに驚いているようだが、マルゼ副会長は顎に手を添えて何やら考え込んでいる。何か、引っかかるところでもあったかな。


 その後も、ランドルフ学園のメンバーによる反応は変わらなかった。

 マルゼ副会長を除くメンバーはさまざまな施設を見て回り、感想を口にしたりして盛り上がっている。特にアンネッテ会長は俺たちが向こうにいた時以上にティーテと親密になったようで、ずっとふたりで話し込んでいた。

 ……ちょっと寂しいと感じるところもあるが、ティーテに仲の良い友人ができるのはとても喜ばしい。

 原作である【最弱聖剣士の成り上がり】では、徐々に増えていくラウルのハーレム要員たちに出番を奪われる形となり、最新話ではその存在感がだいぶ希薄になっていた。その間、ティーテがどのような生活をしていたか、詳しくは描かれていない。


 エーレンヴェルク家の屋敷で寂しくラウルの帰りを待っていたりしたのかな……そうだとしたら、なんだか悲しいな。

 原作のバレットは今と違ってまったく反省せず、ラウルに罪を着せようとしたクズ中のクズだ。そんなヤツを見限ってラウルと結ばれるというのは自然な流れともいえる――が、その先の展開については、ティーテにとって必ずしも幸せと呼べるものではなかった。


 ――少し離れた位置からティーテの顔を見ていて、ここではその心配は杞憂だろうと強く思う。


 こっちでのティーテには友だちが多い。

 俺(原作バレット)側についていたジャーヴィスやユーリカは監獄行きになるし、マデリーンはラウルのハーレム要員。アンドレイやクライネとは知り合いだろうが、今ほど仲が良くはないだろう。もっと言ってしまえば、ティーテを実の妹のように思っているうちのメイド三人衆とだって疎遠になるのだ。


 俺の性格もそうだけど、ティーテの周りの環境も原作とは遠くかけ離れたものになっているんだなって、再認識したよ。

 どちらもいい方向へ進んでいるし……このまま何事もなく卒業まで持っていきたいものだ。


「? どうかしたのかい、バレット。そんなにニヤニヤして」

「えっ!?」


 ジャーヴィスが不思議そうにこちらを見つめながら言う。

 くっ……すぐに顔に出るところはこっちへ来てからも変わらないな。


「ティーテとアンネッテ会長が前よりも仲良くなったみたいで、嬉しかったんだよ」

「言われてみれば……本当に仲良くなったな」


 それ自体はとてもいいことだ。

 これをきっかけに、両学園の生徒会でも仲が深まるよう、頑張っていかないとな。

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