第4話 友だちが欲しいのでイメージアップに努めます

※明日からはストック切れるまで毎日正午ごろに投稿していきます!





 王都の教会へ到着すると、まず俺とティーテは特別室に案内された。


「ひ、広くて綺麗な部屋ですね」

「あ、ああ」


 俺たちは内装の豪華さに唖然としつつ、イスへと腰を下ろした。……ったく、税金で何を造ってんだよ。まあ、これも俺が御三家の一角であるアルバース家の子息だからって配慮なんだろうけど。

 とりあえず、ここでもティーテとより親密になるため、会話をしていくのだが――突如コンコンと部屋をノックする音がした。


「? もう始まるのか?」

「まだ時間はあるみたいですけど……」


 ふたり揃って首を傾げると、ドアを開けて人が入ってくる。現れたのは俺たちと同じくらいの年齢と思われる金髪の少女。……だけど、見知らぬ顔だ。俺が、入室してきたその子の名前を聞こうとした時だった。


「こんにちは、コルネル」


 ティーテは親しげに少女のものと思われる名を呼んだ。それに対し、少女も爽やかな笑顔で「久しぶりだね、ティーテ」と返す。


 ……コルネル?

 知らない名前だ。

 少なくとも、【最弱聖剣士の成り上がり】に登場する人物ではない。


 そのコルネルはニコニコと笑顔を浮かべながら俺たちの方へ近づいてきたが、すぐに動きが止まる。その視線は間違いなく俺に向けられていた。



な、ななな、なんでここにバレット・アルバースががががが!?!?!? 



――口には出さないが、たぶんこう思っているに違いない。

無理もないか。原作だと、婚約者同士でありながら、バレットとティーテは学園であまり顔を合わせなかったらしいからな。それが、こうして仲良く隣同士に座っているわけだ。古くから俺たちの関係を知る者からすれば、とんだサプライズだろう。

おまけに、学園でのバレットは大貴族であることを鼻にかけ、威張り散らしている。聖剣を手にしてからは、とうとう教師でさえも注意できなくなっていた。

 そんなバレットがいると知らず、うっかり声をかけてしまったコルネルは顔面蒼白。今にも倒れそうだ。


 ……こういう子が俺に抱くイメージを払拭できたら、嫌われ勇者卒業に大きく前進するだろうな、と思った俺は、イメージアップ作戦の記念すべき第一号を、このコルネルって子に飾ってもらうことにした。


「やあ、こんにちは、コルネル」

「!? こ、こんにちはございまっひゅ!」


 フレンドリーに話しかけたら、相手の言語が崩壊した。

 どんだけ嫌われてたんだよ、バレット(前)……。


「ティーテとは、仲良くしてくれているのかい?」

「あ、ひゃ、ひゃい。学園の緑化委員でよく一緒に花壇の手入れをしておりますです……」


 ダラダラと汗をかき、口調がおかしなことになっているが、それでもきちんと説明してくれたコルネル。なんかゴメン。


「ははは、学園でも花壇か。ティーテは本当に花が好きなんだね」

「は、はい。大好きです♪」

「!?!?!?!?」


 言葉を発しなくても分かる。

 コルネルは――めちゃくちゃ混乱している、と。

 たぶん、日頃からティーテに俺との関係性を愚痴られていたのだろう。突然態度が変わったことで困惑しているらしい。無理もないか。


「そ、その、あの、おふたりは……仲良しなんですね?」


 なぜか疑問形だった。

 というか、確認するような言い方と表現した方が適切か。


「仲が良いのは当然だろう? 俺とティーテは婚約をしている――つまり、将来は結婚をする仲なんだから」

「そ、そうでしたね……」


 コルネルの表情は引きつっているが、隣で聞いていたティーテはまたも頬を朱に染めて俯いてしまう。よしよし、この調子でどんどん見せつけてやろう。主人公と出会っても、入る余地なしと思わせてしまえばこっちのものだ。


 その後も、俺はコルネルにティーテへの熱い想いを語る。

 しかし、頭の中では別のことに思考を巡らせていた。


 このコルネルという少女がティーテの友人であるという描写は原作小説には存在しない。ティーテは明るくて社交的なため、友人は多いらしいが、恐らく、彼女もその中のひとりなのだろう。

当然ながら、キャラクターの友人すべての名前が作品内で公表されているわけではない。きっと、作者もそこまで考えていないと思う。ていうか、創作物で、その世界に実在するあらゆるものに名前を考えているケースなど、存在しないだろう。


 だが、コルネルは確かに存在しているし、何よりティーテと親しい間柄だ。


 ということは、登場人物に関して、小説には登場していなくても、当たり前のようにこの世界には存在している――冷静に考えたらそうなんだろうけど、改めて実感するとなんだか不安を覚える。一応、バレットの記憶が残っているとはいえ、どこまでボロを出さずやっていけるのか……ていうか、こいつ同級生の顔と名前を全然覚えてねぇのな。


 ただ、それも仕方のないことだ。原作版のバレットは威張り散らしていたことが原因で、友人と呼べる存在はおらず、勇者としての資格を失った時、誰も助けてはくれなかった。寄ってくるヤツといえば、零れ落ちた甘い蜜をすすろうとする卑しい連中ばかり。


 これもまた、バレットが落ちぶれていった原因のひとつである。


「学園の委員会では、ティーテがお世話になっているそうだね」

「い、いえ、そんな、むしろ私の方がお世話になりっぱなしで……」

「そ、そんな! 私の方がコルネルのお世話になっているよ!」


 譲り合う女子ふたり。

 このコルネルって子も、悪い子じゃなさそうだ。


「そのことなんだが……お邪魔でなければ、俺も一度緑化委員会とやらに顔を出したいと思っている」

「「ええっ!?」」


 ティーテとコルネルは同時に驚く。

 そんな変なこと言ったかな?

 俺としては、同年代の友だちができるかもしれないし、そこから、口コミで「あの嫌われ勇者、心を入れ替えたらしいぜ?」という流れに持ち込めるかもしれないという考えからだった――いや、でも、やっぱ友だちは普通に欲しい。


「あ、あの、わ、わた、私、何か粗相を……?」


 ガタガタ震えながらおずおずと尋ねてくるコルネル。

 ……なるほど。

 俺が緑化委員に何か嫌がらせをすると思っているのか。

 しかしこのリアクション……こりゃあ、普通に友だち作るって願望を叶えるのは相当苦労しそうだな。

 ――て、今はそれよりもコルネルのフォローを優先しないと。


「安心してくれ。君は何も悪くないよ。俺が緑化委員に興味を持ったのは、ティーテがいるからだ」

「えっ? ティーテが?」

「そうだ。俺も……ティーテと一緒にできる、共通の楽しみがほしいと思っていたんだ」

「バレット……」

「…………」

 

 うっとりとした表情で俺を見つめるティーテと、何やら神妙な面持ちのコルネル。その理由は、すぐに彼女の口から語られた。


「申し訳ありませんでした、バレット様……私はあなたを誤解していたようです」

「誤解?」

「これまでの傍若無人な振る舞いは何かの間違いであったと」

「いや、それは違う。今までの俺の行いはすべて俺の意思によるものだ」


 その辺はハッキリしておきたかった。

 変に取り繕ったところで、バレるだろうしな。


「これからは心を入れ替えていくつもりだ。それで、さっきティーテにも提案したんだが……君も是非、俺のことをバレットと呼び捨てにしてもらいたい」

「んなぁっ!?!?」


 コルネルはこの世の終わりみたいな顔をして驚いていた。

 そこまで驚かんでも。


「大丈夫よ、コルネル。バレットは本当に変わったと思うの」


 ニコニコ顔で語りかけるティーテ。その様子を見たコルネル――だが、その顔にはまだ疑いの色が見えた。


「ともかく、そういうわけだから、これまでのどうしようもない言動の数々……振り返ると、忸怩たる思いがあるんだよ。それらを深く反省し、これからは聖剣に選ばれた者として恥じないようにしたい」


 力強く宣言する。

 だが、なんだかふたりの様子がおかしい。

 笑いをこらえているような……?


「ふふっ、バレット、まだ神授の儀は始まってないですよ? その言い方だと、もう聖剣に選ばれるのは決まっているように聞こえます」

「っ! あ、ああ、そうだったな。これはうっかりだ! あっはっはっ!」


 あっぶねぇ。

 まだ神授の儀の前だっていうのに……さっきの言葉は完全に失言だったな。

 

「でも、驚きました。あのバレット・アルバースが冗談を言うなんて」

「私も驚きです」


 しかし、女子ふたりにはウケが良かった。

 そして、さりげなくコルネルが俺を呼び捨てにしてくれている。


 今みたいなネタバレは防ぐよう、今後は徹底して気をつけるが、今回に限っては結果オーライってことにしよう。

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