第193話



 古龍が村から少しだけ離れた場所に着地すると、すぐさま周囲を竜人族に囲まれた。


 彼らは全員男のようで、見た目は二足歩行の小型の竜といった姿だった。その表皮は鱗で覆われているが指先は人間と同じように五本にわかれており、剣や槍などを器用に持っていた。その長身には軽装ではあるが鎧などを纏っている。


「おい……どういうことだ」


 蒼太は古龍に怒り混じりで尋ねた。


『うむ、どうやらお主たちを警戒しているようだのう』


 古龍は特別なことではないように、淡々と蒼太の質問に答えた。


「これって……まずいですよね?」


 ディーナはどうしたものかと周囲を見渡し、アトラは警戒を強めていた。



「おい、お前たちは何者だ! 古龍様の背中から降りて来い!!」


 彼らの標的は古龍を通り越して、その背に乗っている蒼太たちだった。


『ということらしい、ここは素直に降りたほうがいいと思うがのう』


 古龍はこの状況を予想していたらしく、笑いながら身体を低くし蒼太たちに降りるよう促して行く。


「……あとで覚えてろよ」


 自分で紹介すると言っていたのに、と蒼太は恨みがましい目線で古龍を見ながら、古龍の背から降りていく。それにディーナ、アトラ、エドも続いた。



 すると、竜人族はその囲いを狭めていく。


「もう一度聞こう、お前たちは何者だ! 何ゆえ我らの聖地に足を踏み入れた!!」


 一団のリーダーらしき竜人族の男が一歩前に出て蒼太たちに向かって詰問してきた。


「……俺たちは冒険者だ、竜人族の上の者と話がしたくて古龍に頼んでここまで連れてきてもらった」


「冒険者が何の用だ!」


 男の口調は強かったが、蒼太たちの言い分を聞くだけの冷静さは持ち合わせているようだった。



「仕方ない、話すか……」


 蒼太は隠していては話が進まないと考えたため、正直に話すことにする。


「今から千年前に竜人族の勇者を含む七人の勇者が魔王に戦いを挑んだ。その後、小人族の長老グレゴールマーヴィンが何度かここに立ち寄ったと聞いている。その時のことを知っている者がいたら話を聞きたいと思ってやってきた」


 蒼太の言葉は竜人族の一団をざわつかせるだけの力があったようだった。


「お前……一体それをどこで聞いてきた?」


 リーダーの男は先程までと違い、トーンを落とし静かな口調で質問してきた。



「あんたたちが信じるかはわからんが、俺は千年前の魔王との戦いに参加した異世界の勇者と言われていた者だ。名をソータと言う」


 自分のことを話した蒼太は、隣にいるディーナの肩を軽く叩いた。


「私は千年前の戦いに参加したエルフ族の勇者の双子の妹のディーナリウスと言います」


 続いて挨拶をしたディーナは更に隣にいたアトラの頭を撫でる。


『私はアトラ。グレゴールマーヴィンと契約をしていた獣魔だ』


 アトラも二人に続いて挨拶をした。



「なっ! お前たち、それを本気で言っているのか?」


 竜人族に囲まれた現状で、冗談を言えると思っていないリーダーの男が怪訝な顔をして問う。


「冗談を言っているつもりはないんだがな……おい、そろそろ俺たちのことを説明してくれないか?」


 このまま話をしても埒があかないと蒼太は古龍へと話を振る。


『かっかっか、面白かったんだがのう。遊びはこのへんにしておくかの……おい、そっちの竜人族の小僧。こやつらの出自は我が保証する。村へと案内すると良いのう』


 それでもリーダーの男は眉間に皺を寄せたままだったが、古龍に言われたとあっては引くしかなく、右手をあげてから村の方向を指ししめし囲んでいる者たちに村へと引き上げるよう合図した。



「……お前たち、妙なことはするなよ。古龍様が言うから村までは案内するが、俺はお前たちのことを信用したわけじゃないぞ」


 リーダーの男は依然として一行を睨んだまま、村へと先導していく。


『若いのう。あやつは年齢で言えばまだ百歳以下といったところだのう』


 そう言う古龍はいつの間にか姿を変えており、子竜サイズに変化していた。


「お前、そこまで小さくなれたのか」


『かっかっか、それはこっちの狼もそうだろのう。我にもこれくらいのことはできる』


 そう言うと、古龍はアトラの背中に着地した。



「あんたもついてくるのか?」


『あいつらに対して紹介してもほとんど意味がないからのう。族長に紹介してこそ我の任務完了というものだのう』


 蒼太の質問に胸を張りながら古龍は答えた。


「さっきは揉めてても静観だったくせしてな」


 冷たい視線と共に蒼太に痛いところを突かれて、古龍は思わずよろめいた。


『さ、さっきのことは悪かったと思っている。だがさっきも言ったように、あいつらに紹介しても結局二度手間になるからのう』


 自分は悪くないと言いたい古龍だったが、最後に付け足した言葉が面倒臭かっただけというのを表していたため、蒼太に睨まれる。



『そ、そんなことよりもう少し歩く速度を上げないと置いてかれてしまうのう』


 古龍は話を逸らそうとしたため、蒼太はそこを更に突こうかとも思ったが事実を述べていたので、少し駆け足でリーダーの男を追いかけるることにした。


「遅いぞ」


 男は蒼太たちが追いついてきたことがわかると、振り返ってそれだけ言葉を発し再び足早に村へと向かっていく。



 しばらく進むと、村が見えてきた。先に村に戻って行った者から、蒼太たちの話は既に伝わっているようで、村のほとんどの者が中央の広場に集まっていた。


 蒼太たちが足を踏み入れると、一瞬空気が変わったように思えた。そこは村というには整備されており、田舎臭さはなくどこか洗練されたように見える。


「長、古龍様をお連れしました。それと侵入者を数名」


 リーダーの男が長と呼ばれる男に報告をしようとするが、当の長は男を手でどかして蒼太たちのもとへとやってくる。



「おおぉ、まさかこんな日が本当にやってくるとは思わなかった……」


 長はその目から涙を流していた。


「……いきなり泣き出したこのおっさんは一体誰なんだ?」


『い、一応ここの長なんだがのう、どういうことなのかは我もわからんのう』


 蒼太の質問に古龍はとまどいながらも返答する。



「お、おぉ、すまなかった。貴方はソータ殿じゃろ? わしのことは忘れてしまったかね。レジナードの弟のガインじゃよ!」


 その名前を聞いて蒼太は昔会ったガインのことを思い出した。 



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