第174話



「ここらへんか」


『おそらくここだろう』


 蒼太とアトラは長にもらった地図を見ながら、街道から外れた方向へと視線を送った。


「確かに森が見えますね」


 ディーナの視力は二人よりも良く、更には目に魔力を集中させていたため、より遠くが見えていた。



「行ってみるか」


 街道ほどではなかったが森まで向かうものがいるため、ある程度草が刈られていて進みやすくなっていたこともあり、彼らはそのまま馬車で進んでいった。アトラは本来のエンペラーウルフの姿に戻り、先行して足場を踏み固めていく。


 視力を強化した蒼太からも森が見えるくらいまで近づいてくると、全員が異変を感じ取っていた。



『この臭いは……』


「ヒヒーン!!」


「あれは……煙か?」


「ソータさん!」


 向かう先の森から煙があがっており、エドやアトラは異臭を嗅ぎ取っていた。


「ディーナ降りろ!」


 状況の異常さを感じ取った蒼太はディーナと共に馬車から降り、それを格納していく。



「エドは後から来い、アトラ、ディーナ俺たちは行くぞ!」


 そう言うと、蒼太はエドを除く全員に身体強化魔法を付与し走り出す。


『これは付与魔法か。ありがたい、私も全力で行こう』


 走り出した蒼太とアトラの後ろをディーナもついて行こうとするが、脚力で劣るため少しずつ遅れが生じてしまう。



 それに気づいたアトラは少しスピードを緩めディーナと並走した。


『ディーナ殿、背中に乗るといい。そもそもエンペラーウルフの私と同等に走れるソータ殿が異常なのだ、遠慮するな』


 ディーナはこくりと頷くと、飛び上がりアトラの背中へとまたがった。


「お願いします」


 そう言うとディーナはアトラにしがみついた。


『任された!』


 それを確認したアトラは元のスピードに戻り、蒼太に置いてかれまいと走っていく。



 足の速さでは蒼太に分があったが、足場の悪い道を走るのはアトラに分があり、徐々にその差は詰まり程なくして隣に追いついた。


「アトラに乗せてもらったのか、それはいいな。楽そうだ」


 足の速さの問題ではなく、自分で走らずに済む点に蒼太は目を向けていた。


「だって、二人ともすごく早くて……あれじゃ私の足ではおいつけません!」


 ディーナはやや膨れっ面で蒼太に抗議したが、彼はくすりと笑った程度ですぐに視線を前方へと戻した。



「アトラ、血の臭いはするか?」


『ふむ、そう多くはないが血の臭いは確かに漂ってきているな』


 その答えを聞いた蒼太は森を強く睨み、走る速度を少しあげた。


「ついて来いよ?」


 先程までの速度が本気だと思っていたが、アトラが少しずつ離されるくらいの速さになっていた。


 蒼太は走りながら夜月を装備し、戦闘に備える。鉄火場まで、数分というところであった。



 森の中は狂乱の最中にあった。


 普段から外敵に備えていたため、罠や装備などを準備していた。そのことで戦闘開始時は小人族側の防衛が上回っていたが、敵は物量作戦をとっており小人族側は徐々に押し込まれていった。





「魔物が襲ってるのか!」


 蒼太は外敵としか聞いていなかったため、様々な種類の魔物が徒党を組んで集落を襲っていることに疑問を覚えた。


『今回は魔物だけのようだな、時によっては人族であったり、獣人族であったりと様々な者たちが小人族の集落を襲っている』


「一体なんでそんなことに?」


 二人は話ながらも魔物を倒していく。ディーナはというとアトラにまたがりながら、銀弓を使い次々に魔物たちを倒していた。



『わからん、捕まえた者を私が拷問しようとしたこともあるが、そうする前に全員自決してしまった』


「とりあえず、こいつらを片付けながら小人族のもとへと向かうか」


『そうしよう』


 蒼太は足を止めずに前方の敵を夜月で切り裂いていき、アトラも足を止めずその巨躯によって魔物を吹き飛ばし、時に爪による攻撃で魔物に致命傷を与えていた。討ち漏らした魔物や、距離が離れている魔物はディーナが倒し、かなりの早さで騒動の中心へと近づいていた。



「集落の中に入れるなー!!」


「女子供も武器を持てー!」


 そこでは小人族が声を張り上げ、武器を構え何とか魔物の侵入を防いでいた。


「うわー!」


 しかし、前線を維持していた一人が魔物の攻撃によって倒れてしまい、そこから魔物がなだれ込もうとする。



「行け!」


『承知』


 アトラは蒼太の言葉を意図しているところを察し、そのまま勢いを緩めず魔物に突っ込んで行くと背を向けている魔物を踏みつけその勢いで飛び上がって集落に中に飛び込んだ。


「な、なんだ!」


「敵か!!」


 アトラの姿に驚いた小人族が声を上げて、武器をアトラへと向けた。



「待ってください、我々は味方です!」


 ディーナはそう声をかけると、銀弓を入り口に殺到する魔物たちに向け放った。一矢に見えたが、彼女は複数本の矢を放っており複数の魔物を次々に屠っていく。


『私は昔の小人族の長老と契約を交わしたアトラだ。まずは、魔物の殲滅を優先しよう』


 魔物が喋ったこと、その名前がアトラということに声が聞こえたものは驚いていた。



 一方で蒼太は外から魔物たちを斬り崩していく。内からディーナとアトラ、外から蒼太、と魔物たちは次々に狩られていき、目に見えてその数を減らしていった。




森の見える崖の上



 敵の勢力は魔物を中心としているが、指示を出している者がいた。その者は、徐々に魔物が倒される様子を面白く思わなかった。


「なんだ? 誰かやつらに加勢しているものがいるのか……あぁ、気に食わない気に食わない。僕の邪魔をするなあああ!!」


 蒼太たちには届かなかったその雄たけびは、魔物たちが侵攻する勢いを加速させた。


「くそ、くそ、くそ! もう怒った、あーダメだ。あいつを呼び出すぞ! ヒヒヒッ」


 怒りながらも気味の悪い笑いを浮かべて、巨大な魔物を魔方陣より呼び出すと森の中へと向かわせた。


「行け! そして、あの中にいる生意気なやつらを殲滅してこい!」


 アトラのように意思疎通のできる魔物であれば指示を聞くことを不思議に思うことはないが、呼び出された巨大な魔物の顔からは知性と呼べるものを感じ取るのは難しかった。

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