第158話


森の中



 蒼太とディーナ、上位クラスの魔物たちが対峙している。どちらも戦闘の準備は整っていたが、どちらも相手の出方をうかがっていた。


「銀弓の一撃じゃ致命傷は」


「難しいですね」


 蒼太の言葉に、ディーナが続いた。



「俺が突っ込んで行って、ディーナはさっきと同様銀弓による遠距離攻撃。それに加えて魔法によるダメージ狙いっていうのはどうだ?」


 そんな作戦会議をする余裕がある程に、お互い動きを見せていなかった。


「そう、ですね。アンダインを持って近距離戦というのもありだとは思いますが……」


 そうすれば、ディーナの火力は上がり魔物に致命傷を与えることができるとことは確かだった。


「だが、ディーナのメインの役割はヒーラーだからな。何かあった時に困るな」


「ですよね」


 二人しかいないため、ここまでは二人とも火力要員として戦いを進めていたが、この先の敵の強さを考えるとディーナが怪我をするリスクをとったほうがいいという考えは共有できていた。



 そこからは言葉をかわさなかったが、二人は最初の案でいくとわかっておりその通りに動いていた。


「精霊さん、矢をあなたの魔力で包んでください」


 ディーナは自分の魔力で作り出した魔力矢を更に水の精霊の魔力で包んでいく。


 敵の真っ只中に突っ込んでいった蒼太の攻撃は、先程までの魔物を斬る時と変わらず次々に切り倒していく。違う点といえば、魔物の生命力が高いことだったが、蒼太は、二の太刀を浴びせる前に絶命した魔物を見てにやりとした。


 強化した矢であっても、致命傷は難しいと判断したディーナは蒼太が倒しきれなかった魔物に対するダメ押しに攻撃を使っており、それが功を奏していた。



 一体あたりにかかる時間が先程より長引いているため、魔物の数はなかなか削りきれなかった。


 蒼太は夜月が自分が思っていたよりも鋭い切れ味だったため、試し斬りを楽しんでおり、やや攻撃が雑になっていた。そのフォローをディーナが行っていたためディーナは自身に迫る脅威を見落としてしまっていた。


「ディーナ! 後ろだ!!」


 蒼太は試し斬りに満足し始めたところで、状況を把握しディーナに向かって叫んだ。



 ディーナは後ろを振り向いたが、その手は銀弓を構えており剣による攻撃に切り替える余裕はなかった。ディーナに襲い掛かったのは、オークキングであり振り下ろす斧の一撃は鋭かった。


「きゃー!」


 ディーナは叫び声をあげ、その斧を凝視していた。水の精霊もディーナを守ろうと反撃を試みたが、オークキングの攻撃を止めるほどの効果はなかった。



「ディーナ!!」


 蒼太も周囲の魔物を斬り続けながら叫んだ。斧がディーナに触れるかどうかという瞬間、オークキングの身体は吹き飛ばされていた。その一瞬で頭部は嚙み切られ絶命していた。


 ディーナと蒼太はその光景に驚いていた。


『手柄を奪ってしまったが、よかったのだろう?』


 それを果たしたのは件のエンペラーウルフだった。



「助かる!」


『約束だからな、手を貸そう』


 エンペラーウルフは蒼太との約束を覚えており、その仲間と思しきディーナを守るような立ち位置についた。


『汝の身は我が守ろう、気兼ねせず攻撃を続けると良い』


「は、はい。狼さんは味方、ということでいいんですよね?」


 ディーナは動揺しながら、蒼太とエンペラーウルフの会話からそう判断し、その質問をエンペラーウルフへと投げかける。


 問われたエンペラーウルフは声は出さずに頷くと、近寄ってきた魔物へと攻撃を繰り出していく。



 ディーナは頷き返し、蒼太のフォローへと戻ることにする。


「これなら、いけるな」


 思わぬ援軍に気を引き締めた蒼太は斬ることではなく、倒すことに集中して攻撃を繰り出していく。それゆえに効率は先程までとは段違いに上がっていく。蒼太の攻撃はただ斬るだけの攻撃から、相手の命を奪うことにシフトしていた。


『ふむ、やはり敵対しなくて正解だったな』


 蒼太の戦い振りを見たエンペラーウルフはそう呟いた。それだけでディーナは二人の関係を察していた。



 夜月の性能を生かした蒼太の攻撃力の前では魔物の群れは、低ランクの魔物たちと変わらずに殲滅されていった。



「さて、これで片付いたか?」


 蒼太は夜月を納刀し、周囲を見渡す。


「そう、ですね。おそらく、は」


 ひょうひょうとしており息一つ乱していない蒼太だったが、反対にディーナは息を切らし、何とか返事をしているという様子だった。


『あたりに魔物の気配はないようだな』


 蒼太のスキルとは違い、自らの経験で察知するエンペラーウルフの感覚は何よりも信頼することができた。



「そうだな、手伝ってくれて助かったよ。いいタイミングで来てくれた」


『森に入ったところで貴様の気配は感じ取っていた。だが、私の居る場所とは反対の方向へ向かって行ったのでこっちに来てみたのだが、どうやら正解だったようだ』


「あー、やっぱりあのデカイ気配はお前だったのか。とりあえず魔物の殲滅をしてから行こうとは思っていたんだが」


 蒼太は判断が間違っていたかと、反省の色を見せた。



「でも、ほんと助かりました。ありがとうございます狼さん……お名前を聞いてもいいですか? ただ狼さんと言うのも失礼かなと」


『名前……好きに呼べ、と言っては困るのであろうな。ならば昔呼ばれた呼び名を使ってもらおう、確かあいつはアトラと呼んでいたな』


 アトラは昔を懐かしむような表情をしながら、その名を口にした。


「アトラさんですね、改めてありがとうございました。あなたのお陰で怪我なく倒すことができました」


『気にするな、そこの男との約束を果たしただけだ』


 頭を下げられたアトラは、首を横に振りその事実だけを伝える。



「それで、この森の惨状は一体何なんだ? お前に会った頃より酷いことになってないか?」


『うむ、それはだな』


 アトラはこの森の変化を語っていく。

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